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中国での日本語DTP制作の現状

印刷物の海外生産・海外調達は,納期や品質,輸送コストの面からも,また日本語を扱うことが多いことからも,それほど普及する様相はみせていない。しかし,日本語DTP制作を中国でおこなう例も登場してきた。デジタルプレスの代表取締役小出裕明氏に,進出の経緯と現状,システム環境や現地スタッフの教育方法など,日本語DTP制作のグローバル化についてお聞きした。

上海オフィスの設立

デジタルプレスは,月刊誌「プロフェショナルDTP」等の企画・編集をおこなっているが,以前より内部でDTP制作業務をおこなっていた。
2002年5月,上海初心商務諮詢有限公司という現地法人を設立し,現在17名の中国人スタッフを抱えている。一番若いスタッフは16歳である。上海市にあるDTPの職業訓練学校の卒業生を採用している。
仕事は,QuarkXPress,Photoshop,Illustratorを使った日本語組版,DTPである。創設時からいる3人のスタッフは,日本語も覚えてきた。漢字は簡単に受け入れられるが,読みが違うので,読み方を聞いてくる。何度も聞いてくるうちに,よく出てくる漢字を覚え,ブラインドタッチで修正するようになった。修正作業は日本人の50-60%のスピードでこなしている。現在は月産2,000ページを超えている。

進出の経緯

出版業界は不況が続いており,出版部数はみるみる低下している。生き残りをかけて,リストラを図り,コストダウンに努めている。CTPを使い,印刷費も下げてもらったが,それでも追いつかない。そこで着目したのが,DTPのオペレーション費用である。DTPの値段は,ほとんど人件費である。人件費が高いので安い人を使おうという単純な発想である。リストラの一環で,中国へ出て行ったということである。

私は2年半ほど,1ヶ月の内2週間は上海,2週間は東京という生活をしている。東京から上海は,行きは2時間半,帰りは2時間である。成田から夜8時半の飛行機に乗ると,12時には上海オフィスに到着する。その費用は往復3万円足らずである。
上海オフィスができて,何が安くなったのか。現在17名の中国人を雇い,日本人は1名だけである。1ヶ月に,12〜13冊,約2,000ページの組版をおこなっている。一度,他社の通販カタログ,600ページという仕事をしたこともあるが,17人いれば十分できる。スタッフの給与は,16歳,17歳だと月給20,000円〜25,000円程度である。DTPは人手以外かからないので,価格的なアドバンテージはかなり大きい。

東京〜上海のワークフロー

まず,ライターが書いたものをインターネットで入稿してもらう。ライターからのデータは日本人の編集スタッフが受け取り,正しい日本語に直したり整合性をチェックしたり,技術系の本なので,技術的な裏を取る検証作業を行う。また,並行して1名の日本人デザイナが本のマスターページを作る。そのデータとライターのデータを一緒に中国に送る。中国では17名のスタッフが待ち受けており,一斉に作業を始める。
以前,日本のオフィスで4〜5人のスタッフでやっていた時は,1人1冊ずつ作業しており時間がかかっていた。現在は300ページの本でも,10人でやると,1日で終わるということもある。人海戦術なので,あっという間に終わってしまう。
その後,上海から直接,東京にあるDocuColor 1255でプリントアウトする。RIP側にネット上から直接プリントアウトする機能があり,セキュリティをかけ,インターネット経由で上海からリモート出力している。
次に,東京の編集スタッフがプリントアウトされた日本語の校正を行う。紙に赤字を入れたものをスキャンし,PDFにして上海に転送する。上海ではすぐ修正作業に入る。何度かキャッチボールした後,そのデータを最終的に日本の印刷会社に入稿し,印刷するというワークフローである。
日本語の校正をしたり,正しい日本語に直すのは,中国人にはできない仕事である。ところが,書籍やカタログ関係は,基本的なルールに沿って,機械的にこなす作業が多い。これは中国人でも十分対応できる仕事である。この切り分けが非常に大切と感じる。

海外オフィス運営のためのDTPテクノロジー

上海オフィスは,DTPのネットワークテクノロジーの上に成り立っている。上海オフィス,東京オフィスの両側からアクセスするので,インターネット上にファイルサーバが必要になる。セキュリティをしっかりしてサーバを守らなければならない。そこで,AFP over IPというプロトコルを使い,インターネット上のUNIXサーバ,もしくはWindowsのサーバをセレクタから見ることができるようになっている。デジタルプレスではWindows 2000のサーバと,ケミカルリサーチ社のMac Server IPというサーバソフトを使っている。
また,音声で直接話すことも少なくないので,VoIPを活用している。内線電話と同じようなもので,専用のルータを両側に置いて,無料で使える。維持費は一切かからない。
もう1つのテクノロジーはVPNである。拠点間のネットワークを暗号化してセキュリティを確保し,インターネットを活用している。

上海オフィスの設立形態

上海初心商務諮詢有限公司は,完全に中国の会社である。友人の中国人に会社を作ってもらい,法的にはそこに業務委託しているという形をとっている。ただし,100%デジタルプレスの仕事をしているため,運営資金等もデジタルプレスで全部持っている。
独資会社(100%日本側出資)の場合,多額な資本金が必要になる。中国の会社に資本を入れる合弁会社も,よく日系の会社で行われている。ただ,相手によっては,トラブルが付き物である。もう1つは,中国企業に業務委託する方法である。例えば,日本から現地の広告制作会社や印刷会社に発注する。しかし,この方法で,日本でも通用する品質を獲得することは難しい。
私が考えた方法は,友人にローカル企業を設立してもらい,形は業務委託にする。その代わり,人材教育等もすべてこちらで行うというものである。リスクを負わずに進出を果たした。
DTPは当局の許可が必要である。許可証にも商業,美術設計,平面設計,電脳図文等と書いてあるように,必ず許可が要る。言論統制している国であり,出版物,印刷物は事実上国営会社でしかできないようだ。日系の印刷会社は,パッケージやチラシ関係ばかりやっている。言論物には手をつけられないようだ。

今後の上海オフィスのビジョン

現状は,日本で企画して中国で生産し,また戻して日本で売るというビジネスモデルで展開している。しかし,中国は世界の工場から,将来は世界最大の消費地になろうとしている。上海にいると,日々それを感じる。中国は確実に金持ちになりつつある。いずれは,日本で企画したものを中国で生産し,それを中国で販売するということも身近に起こるだろう。
今はユニクロビジネスモデルで出て行き,将来は世界最大の消費地の足がかりにするというビジョンを描いて,上海オフィスを運営している。

(Jagat Info 2005.2号より転載)

2005/02/13 00:00:00


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