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複合化し、新たな価値をうむ Webビジネス

PAGE2005基調講演(2005年2月2日)は、グーグル、アマゾン、楽天というWebビジネスの代表的な成功モデル企業3社を招いて、それぞれの会社が一体どんな取り組みをしてきたのか、今何をしようとしているのか、というプレゼンテーションで始まった。個々の企業は非常に有名なので、企業概要の説明は「ネットが育てる,これからのビジネス」をみていただくとして割愛し、まずコンセプトから紹介する。

グーグルは「世界中のありとあらゆる情報を整理して、世界中どこからでもいつでも得られるようにする」であり、アマゾンは「地球上で最も豊富なセレクション−−探し、発見でき、購入できる」であり、楽天はプレゼンの締めくくりで「人の価値をエンパワーする」と説明した。これらは今までの既存の会社がいったなら、大言壮語か机上の空論に映るかもしれないが、これら若い企業は真剣にこういったミッションを掲げて日々努力し、しかも経済的にも成功している。いったいどこの経営コンサルタントが、このような経営が成り立つと本音で考えたであろうか。まず既成概念の枠を超えた活躍に驚嘆するとともに賞賛したい。

Google Incのインターナショナル ビジネス プロダクト マネージャー リチャード チェン氏は、グーグルがコンセプトどおり、WEB上にない紙の書籍の内容を検索するGooglePrintや、TV番組内容を検索するGoogleVideoのような取り組みが最近始まったことや、今日104ヶ国語をサポートし、検索の過半数がアメリカ以外から来ているというように、世界の全情報にチャレンジしていることを説明した。世界地図にユーザをマッピングした図を示して、電気あるところにグーグルユーザありといった。
また昨年暮れに、インド、スイスに続いて日本に研究開発センターを設置して、それぞれの研究者の時間の20%を自由研究にあてているという。既に日本が最初のサービスとしてiモード検索があるが、何が飛び出してくるかわからないグーグル社のカルチャーを説明し、グーグルのサービスは先に予定があるのではなく、利用者を巻き込んだベータテストの結果、使えるモノから出していくのだという。
グーグルの収益は、検索サービスの提供やキーワード広告であり、WEBサイト開設者が自分のサイトにあった文字バナー広告を簡単にだせるAdSenseが伸びているという。グーグルはもともと検索エンジンの研究がそのまま企業化したものであり、単なるキーワードの類似をみるだけでなく、ユーザーの望んでいるものが何かを解析するところに力点があるような話であった。一見技術至上主義に見られがちだが、技術で実現しようとしていることは随分人間的な感じがした。

アマゾンジャパンのAmazon Web サービス テクニカルエバンジェリスト 吉松史彰氏は、アマゾンのビジネスモデルとして、まず低コストで低価格で販売し、顧客満足を拡大し、WEBのトラフィックを増やし、売り手が増え、品揃えが豊富になり、顧客満足→WEBトラフィック…という循環を繰り返して発展していることを説明した。品揃えは情報商品を超えて、ホーム&キッチン、おもちゃ&ホビーにまで及んでいる。
吉松氏の仕事は、これまでアマゾンが構築してきたシステム技術やデータを外部から第3者が利用して、アマゾンの販売以外の他の目的に使えるようにする「Webサービス」の開発・啓蒙・普及である。アマゾンのサイト自体に多くの商品情報があり、商品レビュー、カスタマレビュー、レコメンデーションなどが購買の動機づけになっているが、例えばアマゾンの全ページをスキャンしてある商品の売上ランキングを出すとか、別の情報を派生させているサイトもある。であれば、アマゾンにとって益となるコトならば、外部のソフト開発者がアマゾンの中の情報資産を直接使えるようにしようというのがWebサービスである。
www.musicplasma.comというサイトは、こんなCDを買っている人は他にこういうCDを買っているという情報を集積して、アーチストの相関図を地図のようにビジュアル化して表示する。a9.comは、今まで別々に行われていたアマゾン内のいろんな検索をまとめて提供してくれる。こういったWebサービスによって、単に商品情報を羅列するだけのページにはない、面白さがでてくる。情報を複合化すること、人にとってより意味のある関連付け、といったことをプログラム化すると、次第に人間の編集行為に似てくるという印象だった。アマゾンはこのWebサービスを無料で提供しており、これらのページからアマゾンに直結しているので販売機会が増えるのだが、それだけではなくこの利用の広がりがWebという世界のイノベーションになりうるものである。

楽天の取締役 EC事業カンパニー執行役員 杉原章郎氏は三木谷氏とともに1997年2月楽天市場の創業に参画したメンバーの一人として、今日までの変遷を紹介した。最初は商取引のためにホームページを簡単に作れる仕掛けを作ったが、それだけでは不十分で、成長する店舗展開を自分でコントロールできる、管理・宣伝・分析などのツールを提供して、本来のことに時間を割けるようにした。実店舗と同じような成長サイクルをWeb上ならもっと簡単にできることになる。
しかし自分の能力で出来ることには限りがあるので、他人のサポートによって限界を突破するとか最大化するために、1万店舗の活動によるノウハウを共有できる仕組みとして、楽天大学や虎の穴という研修をも行っている。アマゾンが商材の流通量の増大を成長のトリガーとしたのに対して、楽天は携わる人をエンパワーして、ネットビジネスを拡大してきた。別の見方をすると、本人が手間をかけなくてもいいような機能はプラットフォームとして提供するとか、アウトソーシングする仕組みとして楽天ビジネスという形で提供している。
そんな人とのかかわりを重視していた楽天に、プロ野球参入によって今まで動かなかった団塊世代のような新たな市場が開けた。現在1万店舗(出品者17000)、登録者900万人(会員データベース3000万人)であるが、まだリーチが広がりつつあり、サービスも増えて第2段階のフェーズに向かいつつある。近いところではPC以外に携帯や情報家電を対象にしたサービス、ビデオのストリーミングや音楽のダウンロード販売など、また先には商品つくりに買い手が参画するオンラインマーチャンダイジングなど、多くの可能性がある。

この他にも大変多くのヒントがあったセッションだった。3社の成長要因はそれぞれ異なるにしても、いずれも利用者との信頼関係の重視にあったようだ。今まで突出していた3社であるが、ネット環境やネット利用の増大とともに周囲への信頼関係によるつながりが多くなり、複合化した利用で新たな価値が生まれ、かつてなかった領域やライフスタイルがネット上に生まれつつあることを感じさせた。


PAGE2005報告
その1:複合化し、新たな価値をうむ Webビジネス
その2:XMPとJDFで、印刷制作のオートメーションへ
その3:印刷か、Webか、これからのコンテンツ制作の本丸はどちらに?

2005/02/03 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会