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印刷業の経営課題とCIM

デジタル化を終えた印刷業界の次ぎのインフラはデジタルネットワークにとなる。デジタルネットワークを基盤として、さまざまなITを活用した新たな仕組みによって情報流通におけるボトルネックを解消し情報の有効活用を可能にすることによって、従来にないコストダウン、機会損失削減、顧客満足向上、ひいては利益向上を図ろうというビジョンが、いま印刷業界で言われている全体最適化である。
JDFワークフロー、MISを含むCIMは、EC/EDIとともにその新しい仕組みを構成する要素であるが、いずれも道具を入れかえるような性格のものではない。これからの新しい仕組みを考えるときには、設備を入れれば済むと言ったように安易に考えたり、逆に、単たる道具の入れ換えに過ぎないと偏狭に見ることなく、新しいインフラと仕組みがどのように各社の経営課題への対応とマッチするかを考える必要がある。

東洋美術印刷株式会社は、従業員100名規模の商業印刷を中心とする中堅印刷会社である。 同社は、受注型営業からソリューション・ビジネスへの転換が、今後の生き残りにとっての課題としている。マーケティング視点に立った付加価値の提案を行ない、顧客満足の向上を図ることである。同社が掲げる具体的なソリューションビジネスは、セールスサポート、バリアブルプリンティング、クロスメディアビジネスの3つである。3つに共通する目標は、いずれも顧客満足度を向上させて「継続的な信頼関係」を構築することである。
顧客の販売活動を支援するセールスサポートについては、成果に基づく提案をしていくために、ソフト的アプローチとして担当者の実践を通じた教育を重視している。クロスメディアビジネスではデータ管理の効率化とデータマイニング分析結果の活用などによって手間の削減と顧客満足向上を目指している。そして、CIMについては、プリンティングソリューションに不可欠な「JITを実現するハードウエアのタイムリーかつ効率的活用、確実なワークフロー」と位置付けている。

端物印刷について、名刺の場合には自動レイアウト・自動面付け機能とPODを組み合わせて営業レス、オペレータレスの仕組みを構築し、カタログではweb受注から販売管理システムにデータを取りこむことによって、中2日のジャストインタイムで印刷物を提供している。
顧客から見れば、印刷会社の営業が介在することによるまだるっこさや無駄な印刷物つくりを排除し、印刷側としては1点当りの売上額と利益額が少ない小ロット印刷物を効率よく集めながら利幅を下げずに提供するビジネスモデルである。版の取り扱いを伴わないデジタル印刷機を使った端物印刷の生産は、営業や工務といった従来の仲介役を省いた自動生産に近づいてきている。

株式会社ニシカワは、従業員数約400名でチラシを専門とする中堅印刷企業である。 同社は、「日本一のチラシ屋」を目指して業績を大きく伸ばしてきたが、これからは「情報加工業」への転身を図りつつある。経営目標は、2004年で153億円の売上を2008年には198億円にし経常利益2.5倍増とすることである。

上記のような目標達成のための重点課題として、人材育成を掲げている。同社が掲げる「情報加工業」とは顧客の「販売促進支援企業」である。そのために、同社のディレクション部門には専任者15名を配置し、顧客の販売促進支援についてはオールマイティでこなせる人材としての活躍を求めている。同社ではPODも導入しているが、あくまでも顧客の販売促進支援の手段として有効な場合に使うというスタンスでの導入、運用である。

一方、ハード面では、製造拠点革新、生産設備更新、業務システム更新を今後の課題として掲げている。業務システムについては、オフコンからクライアントサーバー方式への変更や、進捗状況把握のためのシステム導入を行ない、各種システムのポータルサイトとしてIntranetを構築、運用も始めている。しかし、ベースとなる業務システムが不完全なためにサブシステムが増えたことの問題とともに、Web対応、 Mac対応、入力の人への依存による問題の解消、そしてマネージメント資料作成、分析機能の強化がこれからの課題となっている。

これからの2008年を目処とする業務システム更新にあたっては、それがあくまでも経営方針や目標達成のための資源投入であると位置付けて取り組む考えだが、最も重視するのは顧客満足の視点である。業務システム更新において進捗状況把握のための開発、設備導入を先行したのも進捗問い合わせへの対応をきちっと行なうためであり、顧客との接点に関して、通信回線を使って営業の介在をなくしてスムースに校正を行なえるシステムを既に稼働して成果を出している。また、これからのシステム構築においては「(時として)現状の業務フローに合わせることの危険」や「勇気とリーダーシップの必要性」の指摘があった。

上記2社の共通点として感じられたことのひとつは、顧客満足向上の切り口からシステム構築を考えていることである。両社の基本方針から導かれる当然のことである。
その中で、成果に基づく提案をしたり、顧客の販売促進支援についてはオールマイティ的な対応するためには優秀な人材を育成、さらなる人的パワー充実を図っている。しかし、一方では、営業の介在が、納期、コスト、ミスの発生面においてかえって問題となる小ロット端物印刷の受注や校正などはシステムで処理している点を見るべきであろう。

もうひとつの共通点として「標準化」の必要性指摘があった。システム構築における「現状の業務フローに合わせることの危険」や「勇気とリーダーシップの必要性」の指摘を併せて考えると、標準化は単にコンピュータシステムを動かすために決め事をするということではなく、むしろ現在の業務のやり方自体に見直しをかけ、体質改善をしていくことに大きな意味があるように思われた。
デジタルネットワーク化は、従来とは異なる情報の流通を可能にする。人間の判断・行動、機械のコントロール、いずれも情報・データに基づいて行なわれる。したがって、デジタルネットワークという情報流通のインフラへの移行は、従来の組織各部の機能の見直をし、場合によっては組織要素の存在自体の問い直しも伴うようなものである。
営業現場、生産現場からそのような見直しテーマは出てこないだろうから、JDFワークフローにしても、MIS、あるいはCIMの構築において、「顧客満足」という切り口から入っていくことは非常に有効である。

2005/02/09 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会