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業界の融合がはじまったコンテンツビジネス

今回のPAGE2005は「メディアは循環型ビジネス」を全体テーマに行なったわけだが、その基調講演ではA0「Web:飛躍の原動力」を中心に都合5つのセッションを1日かけて展開した。
その基調講演で今回意図したことの一つに、Webビジネスにコンテンツ産業の一員として印刷会社が関わるためのリアリティのある戦略を見出すことがあった。

A0ではグーグル、アマゾン、楽天というWebビジネスを代表する3つの巨大企業にお話いただいたのだが、その中で「世界中のありとあらゆる情報を整理して、世界中どこからでもいつでも得られるようにする」(グーグル)、「地球上で最も豊富なセレクション――探し、発見でき、購入できる」(アマゾン)「人の価値をエンパワーする」(楽天)と自社を説明したこの3社の発言が、けして遠い先の美しい夢ではなく、どれも違和感なく納得できるだけのビジネスとしてのリアリティをもって聞けたことに改めて驚いた。生身のビジネスでは荒唐無稽な話で終わってしまうことが、インターネットを基盤に発想し直すことで途端にリアルなものとなる可能性があるのである。

そして、一日の最後に配置したB2「コンテンツの蓄積が生み出すビジネスチャンス」ではこのリアルを業界全体に広げて考えて見ることを意図に込めた。コンテンツ産業の最上流にいる3人のプロデューサーにWeb、ブロードバンドが横断路として介在することによって映像、印刷というそれぞれ別個のものと思われていた業界領域が融合をはじめる可能性を入り口にして、ビジネスのヒントについて語り合っていただいたのである。

その3名のプロデューサーとは、音楽配信事業を手がけると同時に、コンテンツファンドを組みライセンス、ライツからビジネス全体を構想するメディアラグ代表取締役・藤井雅俊氏をモデレータに、映画『リング』『ラセン』のプロデュースで知られるアミューズ エグゼクティブプロデューサー・河井信哉氏、アスキー、トランスコスモスを経て、コンテンツ配信のインフラ作りを行なうJストリーム取締役副社長・古株均氏である。

印刷業にとってのWebは、付加価値ビジネスとしてWeb制作、コンテンツの加工制作として、あるいは印刷の効率化のための技術として、などすべて印刷業に立脚したものであった。
しかし地殻変動は確実に起こっており、これまで別個の陸地であった印刷、映像それぞれの業界が、いやおうなく一つの大きな大陸となろうとしている。そこで生み出されるビジネスは、Web、映像、印刷それぞれの特性と技術を理解した上でないときちんと立ちあがらなくなる。
逆に言えば、Web、映像、印刷それぞれのさまざまなスキルを身に付けることで大きなビジネスチャンスが広がるのであり、印刷業は既に紙、文字、画像、デジタルに関するスキルを持っている。新規参入者と比べて大きなアドバンテージを持っているということである。

古株氏は、ネットでは数万人から数十万人を対象にしたコンテンツの配信がふさわしく、TVでは100万人単位となり、この両者は配信内容を分けるべきと言う。
そして最後は、ビデオオンデマンドの形式での配信となるだろうが、現状は1本で500円ほどの原価となり、TSUTAYAのレンタル200円/1本には勝てない状況と説く。

河井氏は、映画ビジネスについて触れた中で、韓国では、映画館での収益が全体の90%以上を占めると話した。あれほどブロードバンド化が進んでいるにも関わらず、映画は映画館で見るものとする感覚が定着しているのだと言う。ちなみに日本では、30%が映画館で、パッケージ、TV放映権等がそれぞれ30%と言う。
また、放送と出版のミックス、即ちBSで毎回放送したコンテンツをアクセサリー感覚で持ち歩ける絵本の形で毎回出版する流れを最初から組んでいることも話した。

そして藤井氏は、iPodに代表される音楽配信ビジネスのブレイクの状況に触れた中で、レコード会社=音楽制作という図式が崩れだしプライベートをコンセプトにしたビジネス領域が広がりはじめていると説いた。楽曲のデータ、ジャケットデザイン、ライナーノーツ、そして会報など、楽曲コンテンツをくるむコンテンツがユーザーから強く求められ始めていると言う。
ネットで会員を膨大に集めてしまったがコンテンツが決定的に不足しており、大きなビジネスチャンスがある。そしてユーザーは蓄積されたコンテンツを求めに行き、そこに大きなビジネスチャンスが発生するが、もう一つ、ユーザーの中に膨大に蓄積されはじめたコンテンツをどう活用するかという部分に大きなビジネスチャンスが眠っていると言う。

これは明らかに既存の業界、業態のビジネスモデルに組み込まれていない領域であり、これらを取り込むにはさまざまな権利の中の何をどう押さえるべきか、その時だれとどのようなスキームを組むか、それを戦略的に考え実行することが必須であると結んだ。

これら融合領域の中に、印刷業をブレークスルーさせる「出口」の一つが見えるのではないだろうか。

2005/02/15 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会