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ユーザ中心の考え方で実現するWebサイト構築

コンテンツやWebサイトをユーザ中心の視点に置き換えて構築するユーザセンタードデザインの考え方が登場した。ユーザセンタードデザインを導入するとユーザ満足度の向上,開発コストの削減,ブランドイメージの向上など,さまざまな効果を期待できる。その実現方法やアプローチ,効果について日本IBMユーザエクスペリエンスデザインセンター長の山崎和彦氏にお話を聞いた。

ユーザセンタードデザインとは何か

世の中の情報化に伴って,これまでの商品やサービスがより複雑になっているのが現状ではないか。
ショッピングも,店に行けば簡単に買えるが,インターネットで買うには複雑な手続きが必要になる。世の中が便利になったために逆に使いにくくなる面もある。
使いやすくするということは,人間中心のもの作りをしていくということである。「人間中心のもの作り」と言うのは簡単だが,実際にはなかなかできない。ポイントは,使う人にいつもスポットライトを当てて,使う人をいつも考慮しながらデザインすることになる。
しかし,現場でWebを作ったり,カタログの印刷物を作ったりすると,納期,依頼元の要求などの関係で,ユーザのことや使う人のことが忘れがちになる。これを忘れないようにして作ることが重要で,そのやり方をユーザセンタードデザインと呼んでいる。

ユーザセンタードデザインのプロセス

ユーザセンタードデザインで最も重要なことはプロセスにある。いくら優秀な人や経験のある人がいても,使いやすさを生み出すプロセスを適用しなければできない。IBMにも人間工学の専門家やユーザビリティの専門家がいるが,開発するプロセスの中にユーザセンタードデザインの概念が入っていないとなかなか使いやすいものはできない。
プロセスの中では,第1に開発のそれぞれの段階でいかにユーザのことを考えるか,ユーザの意見を採り入れていくかというところがポイントになる。
第2は,ユーザセンタードデザインの手法を知っておく,手法を活用することが重要である。世の中で既に確立されているもの,一般的に活用されているいろいろな手法を取り入れることが重要である。一通りの手法を知り,適切なものを使うことが大事なポイントになる。
第3は,プロセスと手法を実践する人がいなければならない。一人ではなかなかできないのでチームでやるということが重要になる。ただ,専門分野の人を全部集めるというのではない。例えばWebを作っているデザインの人や制作に関わっている人たちが,少しずつ勉強しながら専門分野の人に近づくということはできる。
IBMのユーザエクスペリエンス・デザインセンターでも皆が専門分野なのではない。グラフィックデザイン,人間工学,ビデオ映像などさまざまな背景の人がいるが,勉強しそれぞれの分野の専門家としての知識をもつ。
ユーザセンタードデザインとは,必要なプロセス,手法,チームの3つが大事なポイントである。

開発プロセス

第1は,中心に対象となるユーザがいて,ユーザを常に確認しながら開発していく。第2は,それぞれの段階で必要な手法を活用していく。手法は世の中に使えるものがたくさんあるので,それを知った上で手法を使う。第3は,ある程度勉強をしなければいけない。全部を一人が勉強するのではなく,ある程度分野を決めてチームでやっていくことがユーザセンタードデザインにおいては大事である。

3つの効果

なぜユーザセンタードデザインが必要なのかと言うと,大きく3つポイントがある。
第1は,使いやすいものを作ることによってユーザの満足度を向上するという点である。ユーザの満足度を上げることによって会社の利益が上がるということは,今までのビジネスにおいて明確な数字が出ている。ユーザ満足度を向上することが企業の利益と結び付いていく。使いやすいデザインにすることによってユーザ満足度を向上できるというのが,最初のユーザセンタードデザインのポイントである。ただ,これは直接的に費用という形ではなかなか効果が見えにくい。
第2は,コストの削減がある。あまり強調されていないが,重要なところである。例えば,Webサイトの最終的なものができた。ここで社内の人の意見を聞く,ユーザに見てもらうという段階で,使いにくい問題が発生した場合,サイト全体をもう一度作り直さなければならない。
開発の後半で,もう一度修正するのでは,開発コストが掛かる。一番早い段階,例えば紙でスケッチを作っている段階からユーザの声を聞くことで,結局は全体の開発期間が短くなり,開発コストが少なくなる。
ユーザセンタードデザインの重要なポイントとして,使いやすいWebサイトを作っていくことによって,問い合わせ窓口の件数の削減など,その後のサービスのコスト削減につながる。
例えば,IBMのサイトにもお客様相談窓口やコールセンターがある。コールセンターには,ユーザから使いにくい,というような商品の問い合わせがあるが,全部リストにしておき,Webサイトでつぶせるものはないかと考えている。使いやすいWebサイトを作ることにより,サポート費用の削減につながってくる。
またプロセスを作っていくのでチーム全体のスケジュール管理ができ,プロジェクトマネジメントがうまくできるということも,結果としてコスト削減に結び付いていく。
第3は,ブランドイメージの向上である。今は企業のブランドイメージがWebサイトに関わる部分が大きくなってきた。以前は企業のロゴを作る,テレビコマーシャルをたくさん打つということが重要であった。
さらにユーザが直接的にWebサイトにアクセスするという体験をとおしてその企業のイメージを感じている。例えば,ある会社のWebサイトは情報が分かりにくいと思ったら,分かりにくいことをやっている会社だと思ったり,Webサイトで情報を収集しようとして時間が掛かると,反応が鈍い会社だと思ったり,Webサイトに掲載されている情報が分かりにくいと,ユーザに対して不親切な会社だと感じたりする。
Webサイトをとおしてその企業のイメージを感じられる時代になってきているのではないか。そういう意味では,Webサイトの使いやすさを向上することで,結果として企業イメージの向上につながるというのがポイントである。

6段階のプロセス

ユーザセンタードデザインのプロセスは6段階ある。第1はどんな市場であるかと定義し,第2に対象ユーザ,競合メーカーを調べていく。第3はコンセプトのデザインを作り,第4は設計を洗練させていく。第5は評価と妥当性を検証し,第6は市場の評価を行う。
大事なことは,競合商品情報の理解やユーザがどういうふうに使っているかという段階でも,簡単なユーザ調査を加えていく必要がある。コンセプトデザインの段階でも,数年前まではユーザビリティ評価というと,Webサイトができ上がってから被験者にテストしていたが,紙の上の手書きスケッチレベルでもいいので,ユーザや社内で意見を聞いて問題点の発見をしていくことが重要なプロセスになる。

2005/02/20 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会