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JDFでは日本のベンダーに対しては2つの大きな期待がある

JDF規格の議論は実装上の課題に移っている。進捗中に起こった変更への対応や,日本の商習慣から欲しい仕様項目とグローバルスタンダードとの整合性など,具体的な部分への対応策や見通しなどを,CIP4から迎えたJDF技術最高責任者のDr.Rainer Prosi氏に聞いた(PAGE2005 コンファレンスE-1より)。

モデレータ:大日本スクリーン製造 中村安孝氏
パネラー:CIP4 Dr.Rainer Prosi氏、オリーブ 竹井聖浩氏、富士写真フイルム 山下宏明氏

1.CIP4の概要と活動内容、傾向について?
印刷機コントロールとしてのCIP3/PPF運用は過去数年に渡って行なわれてきた。CIP4はプリプレス・プレス・ポストプレスに加えて、プロセス、つまり相互に各工程間の橋渡しなど、工程が重視されてきた。昨年のdrupa2004では各ベンダーがJDF対応機器を展示したが、それに先立って各ベンダーのJDF対応機器が互換性を持って運用できるために、2003年に第1回IOT(インターオペラビリティ−相互互換−テスト)が、米国サンノゼで始まり、四半期に一回のペースで開催されており、2004年秋はSCREENがホスト役になって京都で、2005年1月にはハイデルベルグで7回目のIOTが開催され、今年4月には米国ピッツバーグで8回目が開催される。

IOT(相互互換テスト)の主目的は、機器ベンダーが製品を出荷をする前にJDFによって異機種とのデータ互換性をテストするためにCIP4が中立的な場を提供し、接続に問題があれば各ベンダーが改善していく。従って、IOTとはベンダーの技術者が集まって行なう合同テストの機会であり、販売的な判断が入る各企業の製品出荷に連動するものでもない。

JDFには専門分野のベンダーのJDFへの参入障壁を低くできるような、ICS(Interoperability Conformance Specifications)という、ひとつのインターフェースに限定した小さなJDFがある。これはMISと印刷、プリプレスと印刷というような限られた間での通信仕様である。例えばカラーマネージメントのデータはRIPにとっては意味があっても、折り機には受取る意味が無いということがある。ICSはこのようなところに使われる。
PAGE直前の1月下旬までに、ベースICS、製本ICS、MIS-ICS、デジタル印刷ICS、MIS→一般枚葉印刷ICS、MIS→プリプレスICS、プリプレス→一般印刷ICSという7種類のICSが提供され始めた。

2.欧州、北米の動向は?
ヨーロッパでは約半数の印刷会社がMISを利用している。しかしJDFに対応しているMISは未だ少ない。また、規模が大きいほどMISの導入に割合は多く、地域的には北欧・中欧は多いが、南欧・東欧でのMISの導入割合は少ない。欧州では旧共産圏諸国からの低価格攻勢という事情もあり、顧客から印刷会社への印刷物価格に対する圧力はますます大きくなっている。小ロット化や短納期への要求にも拍車が掛かっている。このため、印刷のCIM化による効率化への可能性に関心が高まっている。

JDFは多言語環境で使え、日本語のような2バイトフォントの扱える仕様になっている。実際の多言語システムはアプリケーションソフトウエアの範疇であり、JDFに直接関連するものではないと考える。

3.技術動向は?
JDF1.1aからJDF1.2ではプリフライト機能が追加され、レポーティングやプロファイル機能が追加されている、JMF(ジョブメッセージファイル)が各々の生産機器からフィードバックされて、連携がさらに緊密になってきた。現在のJDF1.2は枚葉印刷やデジタル印刷機を想定していて、内容的にも熟成されてきた。さらに次期バージョンのJDF1.3では輪転機、新聞印刷、紙器パッケージ印刷も含める。また、IOTから上がってきた1.2の曖昧な部分も順次解決していく。
JDFは下位互換なので、開発ベンダーは常に最新のJDFバージョンを使って欲しいという。JDFが下位互換性を重視しているのは、ユーザーのシステムや機器はいくつかのJDFバージョンが混在した状態でも運用する必要があることが想定されることによる。

印刷機などがの非稼動時の分析には、MISDetailsというタグが用意されていている。例えば「刷版待ち」も記述できるが、実際問題としては、客の要求による再製版で請求が可能な場合と、社内で刷版を傷つけての再製版で請求できないものを区別して入力するところは、難しさがあるかも知れない。

4.工程ごと及びユーザーメリットと課題は?
CIMを導入したときのメリットは全ての印刷会社が得られることであるが、規模が大きいほど短期間でメリットを得られるだろう。小規模では時間が掛かると考えている。しかし大切なことは全ての企業が現在おかれている状況と問題を把握して、導入したCIMで問題を解決しようとする姿勢である。ただ単にCIMを導入して、これで何らかの救いにならないかと望むだけでは、何も始まらないと考える。

デザイン・クリエイティブ工程は大量生産型では無く、修正作業やレタッチなど無作為の作業があるので、JDF/CIMによって自動化することは出来ない。しかしJMFによって作業時間などの記録をたどることは可能である。また、外部のデザイン会社が制作したい製品についての詳細な記述が可能であり、このJDFをPDF/Xなどの原稿データとともに入稿すればエラーが削減できるだろう。印刷会社がデータ提供を許可すればデザイン会社が製造過程の製品の状況が把握できるようにもなる。

大切なことはJDFは決して魔法の杖ではないということである。最初に作業工程を組織化して効率的なものにしておかなければならない。そうしないと非効率で無駄が多い工程になる。JDFは手段であって目的ではない。JDF対応機器を導入したり、業務工程や生産を効果的に支援するために、機器やシステムを統合するものである。

また、JDF対応機器は高価であるという噂を耳にするが、システムや機器のそのものの新たしい装置やソフトの価格が95%以上であって、JDF化部分のコストは5%以下であるというのが一般的である。

JDFがオープンシステムであることのメリットについては、機能的にはJDFと似たようなことができるようなクローズドなシステムでは、他と接続するためのインターフェースを作るたびに高いコストが掛かる。これに対してJDF対応のオープンシステムが揃ってくれば、そのようなコストは小さくて済む。従って、長い眼で見ていけば今のうちからJDF対応システムに投資することは、将来にわたって賢明な方法であると考える。

ユーザーの利点は、JDFは国際基準に基づいたコミュニケーションが可能になり、国際的に標準化されたインターフェースを用いることによって、長期に容易に維持管理できること。統合によって、前準備作業の短縮、ミスの低減、製造工程からのJOB管理はコスト管理のためのたくさんのフィードバック情報を得るようなことが可能になることである。

CIP4はユーザー向けには会費の安い準会員(Associate Member )を設定(年会費US$150)していて、すでに120社が準会員として参加している。ベンダー以外の会員も募集しているが、JDFが普及してくれば、ユーザーレベルの活動はさらに増えると思われる。

5.日本市場とJDFについて?
2バイトコードへの対応について、CIP4ライブラリはJDFの読み書きに使うものであるが、日本のベンダーや、さらに日本のユーザーがCIP4への参加が望まれる。これによって、2バイトに対するさらなる検証がすすむ。

日本のベンダーに対しては2つの大きな期待がある。一つは、日本語環境や2バイト環境におけるJDFの動作を確実にするための資料の提供と、2つめは未だJDFで扱われていない日本語の部分を解決していくことである。用紙に関する記述、サイズや連量に関するところ、日本のワークフローに関するところは、日本の皆さんの参加によって解決していけると考えている。日本で必要なJDFのタグがあれば、これらをまとめた形でCIP4のタグを検討しているワーキンググループ(WG)に情報を公開してもらう必要がある。ここで解決方法を探っていく。

JDFは用紙についての詳細な記述も提供する。何か不足の情報があればWGで話し合いをして追加する。サイズ、厚さ、重量、色、紙目などを定義して追加していく。ロール紙、段ボール、ラベルについても作業している。特に日本ではJISで定義されているので、米国の規格が組み込まれているのと同じように、日本のJIS規格をJDFの中に組み込んでいくことも考えている。

いずれにしても日本におけるタスクフォースを作って、日本独特の問題を先に集めて、CIP4に提供していくことが非常に大切になってくる。

6.会場からの質問:
Q:JDFを最初に作るところはMISが主であろうが、Adobe Acrobat7.0でもJDFが作れるようになったということは、デザインサイドからもJDFが供給されることである。この2つのJDFはどうリンクしてどう使われるべきなのか?

A:Acrobat7で作られるJDF情報はドキュメントに関する情報であるし、MISであれば顧客情報、仕事に対する情報を含んでいるので、それらをマージして必要な部分同士を結合させていくことで実現できると考える。

7.まとめ
くり返すが、JDFは魔法の杖ではなく、JDFが何かしてくれるのではない。各印刷会社がCIM構築のための組織つくりをしたうえで、非常の有効になるツールであるということである。
次回のdrupa2008まで3年半あるが、3年半はソフトウエアの世界では非常に長い時間になる。drupa2008ではシステムや機器がJDF対応であることはは当たり前になるだろうし、印刷業界では新製品の必須条件になっていると考えられる。全ての主要ベンダーはCIP4メンバーになっているだろうし、全ての作業はJDF化になっていると思う。

(文責:JAGAT  PAGE2005コンファレンスE-1セッションより)

2005/02/16 00:00:00


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