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多様化するクロスメディアビジネス

社団法人日本印刷技術協会(以下,JAGAT)では,クロスメディアのビジネスを円滑に進める上にはどのようなリテラシーが必要かを検討し,クロスメディア制作のエキスパートになるためのカリキュラムをまとめた。その結果は現在ではクロスメディアパブリッシング講座という通信教育になっているが,すでにこの分野の教育を行っている各学校や機関と連携して資格制度化する準備を行っている。

クロスメディアに関するサイト

準備の一貫として,2004年はDTPをしている方にアンケートを行った(集計結果)。今回は,2005年1月17日〜1月28日に,Web制作プロダクションを対象にFAXとメールで1072社にクロスメディアビジネスに関するアンケートを送付し, 76通の回答が得られた。

●回答者プロフィール

問1 業種 

回答者の業種は全体の3分の2がWeb制作で,1割強がグラフィックデザインをしている企業である。ソフト開発などIT系に近い業種は1割に満たない。技術中心というよりは,サービス業に近い企業が大半を占めている。つまり,先に技術があってそれをもとにビジネスをしているというよりは,サービスに必要な技術を習得している業者であろう。

選択肢センタクシ 回答数カイトウスウ 回答カイトウ%
Web制作 48 62%
グラフィックデザイン制作 8 11%
ソフト開発・販売 6 8%
映像制作 4 5%
出版・新聞  2 3%
広告・企画 2 3%
印刷・製版 2 3%
その他 4 5%

問2 職種

回答者の職種は,社長およびプロデューサ,役員で8割を占める。作業というよりは,経営的視点で回答が得られているとみてよいだろう。

選択肢  回答数カイトウスウ 回答カイトウ%
代表取締役 47 62%
Webプロデューサー 5 7%
プロデューサー  4 5%
IT担当タントウ役員ヤクイン 4 5%
ゼネラルスタッフ 2 3%
プランナー  2 3%
システムインテグレーター  1 1%
プロジェクトマネージャー  1 1%
制作ディレクター  1 1%
その他 9 12%

3. 社員数

企業規模は,9名以下が73%,50名以下は93%である。Web制作を中心とした若い企業から中心に回答が寄せられたようだ。

選択肢センタクシ 回答数カイトウスウ 回答カイトウ%
1−9名 55 73%
10−49名 15 20%
50−99名 3 4%
100−199名 1 1%
200−499名 1 1%
500名以上  1 1%

●メディアビジネスの変化

問4 メディアビジネスの売り上げにおける現在と2〜3年後の売り上げ上位

現在と2〜3年後の主力ビジネスの1位から3位までを聞き,1位の項目は3ポイント,2位は2ポイント,3位は1ポイントとして集計した。 現状では,1位がWebサイトデザインで2位が運用・構築である。回答群としてみると,2番目にくるのがプログラミングや広告企画・制作である。次に電子カタログからモバイルまで広く分布している。現在は業務が広範に散らばっているといえる。

一方,2〜3年後の主力ビジネスについては,Webサイト関連が1位から2位なのは同じだが,それに肩を並べるくらいの値までモバイルサイトデザインが増えている。 回答群として2番目にくるのは,プログラミング,映像制作,広告企画,コンサルティングである。特にコンサルティングが重視されていることが特徴である。 その次にモバイル用サイトデザインがきている。電子教材,電子カタログなどの制作も現在よりはぐっと増える。全体としては従来のビジネスの出発点のサイトデザイン,サイト運用の比重は今後かなり下がり,デザインよりも構築・運営のほうにサービスの焦点が移るとともに,映像も含めて多様なものを作るようになるということがわかる。しかし,音楽関係を手がけようという会社はなかった。

選択肢センタクシ 現在ゲンザイ 2〜3年後ネンゴ
Webサイトデザイン 145 92
モバイル用サイトデザイン 9 23
Webサイト構築・運営 117 96
プログラミング 48 40
映像制作 22 36
音楽・MIDIデータ制作 0 0
広告企画,制作 45 37
コンサルティング,リサーチ 11 36
CD-ROM,DVD制作 11 12
電子カタログ制作 4 11
電子マニュアル制作 3 3
電子教材制作 7 11
電子書籍等のコンテンツ制作 0 2
その他 13 9
トクになし 20 47

問5 業務の現在の中心分野と2〜3年後の中心分野

業務の中心分野については,現在と2〜3年後は大きくは変わっていない。圧倒的に多いのはビジネスサポート系で,その半分くらいの数値で販売促進関係が位置している。ビジネスサポートや販売促進は,紙のメディア制作においてビジネスの主流であったが,クロスメディアにおいても主流になっていくとみている これに対して,Webにおいて新たにおこる要素である,EC,eラーニング,エンタテインメントは,増えてはいるが,こういった分野に大きく進出しようという意向はみられない。現状では,ほとんどはWebでやっていたことをモバイルにするとか,表現をビジュアル的にリッチにするとか,既存のコンテンツを別の表現系にシフトすることを中心に考えられていると思われる。

●今後の課題

問6 デジタルコンテンツ制作業務,およびWeb関連ビジネスに対する課題

ビジネス上の最大の課題は,営業力・提案力が44%,技術力28%,パートナーが19%,以上の3要素で9割を超す。 技術については問7で重要視するものを聞いたところ,コンテンツ制作関係の技術が43%,セキュリティが16%,XMLが15%,ECが13%となり,問5の業務分野にあった回答となっている。

選択肢センタクシ 回答数カイトウスウ 回答カイトウ%
営業力・提案力 33 44%
技術力向上,人材育成 22 29%
信頼できるパートナー企業探し 14 18%
トップの方向性決断 4 5%
グラフィックデザイン・センス 2 3%
その他 1 1%

問7 今後,最も重要視する技術

選択肢センタクシ 回答数カイトウスウ 回答カイトウ%
デジタルコンテンツ・Web制作 33 44%
セキュリティ技術   12 16%
XML  11 14%
ERPやSCM,電子取引等 10 13%
知的財産権など法的知識    3 4%
電子ドキュメント技術 2 3%
その他 4 3%
特になし 1 1%

問8 今後,あなたが取得したい資格,または会社として社員に取得させたい資格(複数回答可)

取得させたいまたは取得したい資格については,25%がXMLマスターとITコーディネータをあげている。情報処理のプロジェクトマネージャも20%ある。この上位3つがずばぬけて大きい。課題においては「営業力」があげられていたが, ITコーディネータやプロジェクトマネージャが要望されているということは,コンサルティングやディレクション能力が重視されているからだろう。 技術力としてXMLも要素として重要視されている。XML単独でビジネスがあるのではなく,現在のXMLは作業上の常識として必要とされている。このためXMLの基礎的知識の保有を証明する「XMLマスター」の取得に関心が高いのだろう。今回の回答者は,ソフトを作る側の人ではなく,コンテンツ制作側の人が中心なので,コンテンツ制作の基礎的な知識としてXMLが重視されている。

選択肢センタクシ 回答数カイトウスウ
XMLマスター 20
ITコーディネータ資格認定制度 20
情報処理 プロジェクトマネージャ 15
オラクルマスター  10
情報処理 上級シスアド 7
情報処理 基本情報技術者 7
情報処理 初級シスアド 6
情報処理 システムアナリスト 6
マルチメディア検定 7
インターネット検定 5
DTPエキスパート認証試験 4
CG検定 4
シスコ技術者認定 1
COMPTIA認定資格 1
その他 10
トク 11

問9 資格取得後の会社の対応(複数回答可)

資格取得後の処遇としては「特に無し」が約半数と一番多い。現状の資格は仕事にすぐ結びつくというのではなく,仕事をするための知識的な背景として資格が存在しているのだろう。

今後はコンテンツビジネスに直接関係した能力の向上策が求められるだろう。 32%の企業には資格手当があり,14%の企業は一時金を支給している。企業におけるモチベーションアップの取り組みはされている。

選択肢センタクシ 回答数カイトウスウ 全体ゼンタイタイするワリ
資格手当の支給 24 32%
一時金の支給 11 14%
昇進 9 11%
社内表彰 6 8%
希望部署への異動   4 5%
社内報等への掲載 3 4%
特になし 38 50%
その他 1 1%

●まとめ

今後のWeb制作はモバイルやビジュアル重視へ向かっている。一方,ECやeラーニングへの対応はあまり考えられていない。しかしホームページ作りはカタログ的に作る方法とデータベースから自動的に作る方法があり,ECのサイト作りは後者であるが,そちらへの関心はまだ薄い。しかし,XMLが注目されるのも,Web制作も手作業から自動的に情報を表示させるという機能的な面に進もうとしていることの現れである。Web制作が今後どのようになっていき,全体としてどうなっていくのか,勉強したらどのような仕事に結びつくのか,といったビジネスのイメージが描かれるのはまだこれからのようである。


【JAGATの通信教育】
1. クロスメディアパブリッシング講座 必修知識習得
2. クロスメディアパブリッシング講座 テクニカル実践

2005/02/18 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会