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各デバイスの拡張色空間における色再現動向

2005年2月3日PAGE2005コンファレンスで開催されたグラフィックストラックの「拡張色空間の色再現と標準化動向」では、ニコン 映像カンパニー開発統括部 芝崎清茂氏,ソニー デジタルイメージングカンパニー 加藤直哉氏,三菱電機 先端技術総合研究所 杉浦博明氏,セイコーエプソン IJX開発部 藤野 真氏に拡張色空間の色再現動向についてお話を伺った。



正確な色の表示・表現とは

 色空間・色再現は理解度がそれぞれ異なるテーマということであるが、白黒の時代からカラーの時代になって随分長く時間を経た。ハードコピーである印刷物、写真プリント、電子表示媒体のほとんどがカラー化され、色が着いていて当たり前の世界になって数十年たっている。RGBデータが色を表示できるということは、既に常識化している。
 ただし、色を表示することと、正確な色を表示・表現することは異なる次元であるということが、まだ理解されていないのではないだろうか。1990年代、印刷ワークフローの中にRGBデータが広まり、特に画質向上が著しいデジタルスチルカメラの画像データは、色空間・色再現において、良くも悪くも議論の対象になってきた。

 デジタルカメラのインフラとして、大雑把に入力系、処理系、出力系の3つに分けてみる。正確な色を表示・表現するには、データが同一の基準の上で作成され、運用されることが必要である。
 例えば、入力系なら色空間の指定、色再現特性の設定をしっかりする必要がある。ホワイトバランスを合わせることも重要なことである。また、撮影時の光源色温度によっては再生するときに見え方が違うことがある。
 処理系では、各メーカーが提供しているRAWデータの現像ソフトウエアの設定や、最近では色空間を選べるソフトウエアが増えてきたので、基準となる色空間の設定および色再現特性の設定が必要である。さらにPhotoshop等、レタッチソフトのワークスペースの設定も重要である。

 出力系では、プリンタの場合はメディアホワイトといった紙の選択が重要である。どのような白を基準とするか、ドライバソフトの設定等もある。プリンタが安定して色を出すということは、なかなか困難である。
 モニタの場合は白色点の指定がある。9300Kで出荷されているWindowsのモニタに対して、本当はD65で見なければならない。それから、色空間、表示色域の指定、さらに機器の調整項目があり、キャリブレーションを取っていないモニタで色を見ることは難しい。そのあたりのインフラをしっかりする必要がある。これらをすべて問題なく設定するには、ある程度の知識が必要となっている。

 入力系であるカメラ系を見ると、90年代から2005年までの15年間でかなりRGBデータに対するインフラの変化があった。1993年にICCが結成されて活動を開始し、カラーマネジメントシステムの技術的な議論が開始された。90年代後半に入ると、Exifの規格が色空間を採用して、カラーマネジメントをスタンダードとしていこうという動きが出てきた。
 ただし、あるカメラメーカーがNTSCという色空間を採用して、ユーザに多少迷惑をかけた時代があった。それも、RGBデータは色を決めるのが難しいという課題を投げかけた1つだったということである。

作業色空間「AdobeRGB」の普及

 業務用廉価版デジタルスチルカメラの普及等があり、色空間に対する意識、知識が広まってきた。そのような中で、印刷業界でAdobeRGBが普及し、カメラにも昨年AdobeRGBが採用された。その前に、sRGBがsYCCをサポートして取り扱える色空間を広げていくという動きもあった。2005年以降どうなるのか、ディスカッションで考えてみたい。
 次に、色空間か色再現かということで、何社かのカメラを並べてみた。色再現モードも別々のものである。150色の色鉛筆を見た場合、結構鮮やかに見えるが、異なる色の鉛筆がつぶれてしまっているものと,かたや色あせて見えるが、それぞれの色が分別できるもの等がある。そのような色再現特性の考え方が、ここ数年、カメラメーカーが異なるものを出していたので、印刷業界のワークフロー上、少し難しい面があったのではないだろうか。

 また、色再現というと測色的な色再現(Color Reproduction)と好ましい色表現(Color Appearance)がある。最近ではCAM技術、カラーアピアランスモデルというものがCIEでも扱われ、どのように色を表現していくかということが学会レベルでも議論されている。色空間に対して、どのような味付けをして絵を出していくか。カメラメーカー等が今、日々努力をして良くしようとしているところである。
 処理系に行くと、ワークスペース、作業用色空間の選択ということで、90年代前半は大手メーカーがシステムを組んでいたので、サポートも一貫性があり、あまり問題なかったと思う。90年代後半になると、いろいろなデバイスが出てきて、それぞれが性能を上げてきた結果、デバイスごとに色表現域が変わってしまった。それを吸収するシステムとしてICCプロファイルが注目されてきた。
 2000年以降になると、Adobe社というこの業界では影響力が大きいソフトウエアベンダーがAdobeRGBをデフォルトにするということもあり、とにかくAdobeRGBだという動きになっている。
 一昨年のPAGE2003では,電通がリーダーシップをとって「RGB画像運用ガイドブック」を発行した。データ運用の統一化ということでも、ここ数年激しい動きがある。

出力・表示環境の複雑化に対応するプリンタやモニタ

 出力系については、ここ数年プリンタではインクジェットの色数が上がり、インクの改良もあって、写真画質を非常に短期間に達成してきた。プルーフとしての運用も開始されている。
 よく聞く話であるが、カメラもそれなりにきれいになってきて、インクジェットプリンタも安価で絵をきれいに出しやすい。それをもとに,なかなか印刷で出ない色を含めたプリントを色見本として渡されて、印刷会社が困るということもあるようだ。デジタルデータを渡すが、RGBデータより色見本をスキャンして運用するほうが手っ取り早いということも、しばらく続いていた。
 モニタについては、90年代後半はバルコ社のリファレンスキャリブレータのような高安定のCRTモニタが一般化されていたが、液晶パネルの高精細化や広色域モニタの開発が進み、運用上広色域の表示域を持つモニタがユーザの手元に届くようになってきた。

 モニタを使う上で安定性、階調性能を見ていると、随分白い点が明るさによって色がずれてくる。モニタによっては明るさを変えても色がずれない高価なモニタもある。また、加法則を表示してみると、RGB単独で入力する場合と、白い信号を入れて表示する場合で色を測ると、多少加法則がずれていたり、ハイライト側でつぶれてしまったりということもある。こういうことは運用上、感じていることではないだろうか。
 スキャナの時代は,ワークフローを大手が提供していたので、メーカーサポートによる問題点の改善が進んでおり、利用者側は便利であった。処理系はMacが画像を扱う環境が進んでいたため、初期AppleRGBが普及していた。現在は,AdobeRGBがデファクトスタンダード化しており、Adobe社という影響力の強いベンダがサポートしている。

 また、高画質デジタルスチルカメラと高画質プリンタの普及、および通信インフラの高速化・一般化に伴ってデータフローが多様化している。各メーカーの思想の違いが運用面に表面化しているようである。どこでも電子データは画像が見えてよいが、正確な色を見せているかというと、多少問題がある。
 さらに、カラー画像の用途も、紙出力のみならず、インターネットの普及に伴い、表示環境が複雑化している。PAGEでも何年か前から話題になっているワンソース・マルチユースの展開が加速している。用途に合わせて色再現特性も変化している状況である。
(PAGE2005コンファレンスD2セッション)

2005/02/18 00:00:00


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