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顧客サイドで進展する印刷発注の効率化

2005年2月4日PAGE2005コンファレンスで開催されたグラフィックストラックの「顧客サイドで進展するパブリッシング」では,プラネットコンピュータ 代表取締役 深澤秀通氏,パワープリント COO 河田京三氏,リダック 執行役員 中川 裕氏,テックコミュニケーションズ 経営戦略室 室長 森本 裕氏に顧客サイドで変化を見せている印刷発注の効率化を中心お話を伺った。


 顧客サイドのパブリッシングがどのような形で進んでいるのか,事例で理解してもらいたい。どのような原因で顧客サイドに移ったのか,それによりパブリッシングはどのようなメリットを顧客にもたらし,パブリッシングを供給する側にはどのようなビジネスモデルがあるのだろうか。そのビジネスモデルは本当に利益を上げるモデルなのかを意識していきたい。
 なぜ顧客サイドなのか,考えたものを問題提起する。印刷機やDTPもほとんどデジタル化が普及している。PDF/Xという印刷用の出力フォーマットも出現してきた。印刷サービスで顧客重視とは,顧客のどこに訴求するのか。IT技術で,どこに利便性を訴求するのだろうか。

 印刷サービス向上のポイントをあげてみると,顧客にとっては,どのようなメリットで後述のような事例のシステムを利用しているのかを考え,定量的な部分と定性的な部分に分けてみた。
 定量的な部分は5つあり,制作コストの低減,印刷コストの低減,在庫コストの削減,制作期間が短縮,入力ミスの削減が考えられる。
 これらが本当に顧客のフィルタを通して見えるのかという問題もある。印刷会社にしか見えないという要素も含んでいる。顧客からダイレクトに見える要素もある。

 定性的なものとして,多様性の向上とは印刷物のバリエーションがたくさんあることである。身近な例で言えば,年賀状で選択できる図柄のパターンが数多いといった多様性の向上である。また,顧客にとって利便性の向上は,入力しやすいことや発注しやすいというところである。
 さらに,仕上がりイメージの向上がある。従来よりも仕上がりが自分の思ったものに近い。この仕上がりイメージは,印刷会社にとって品質がきれいという意味ではなく,顧客が考えているイメージに近いかどうかという観点である。
 この観点を,印刷会社のフィルタで見ているのか,顧客の視点で見ているのかということが,今回の,顧客サイドに立ったパブリッシングの主題になるのではないだろうか。

オンラインプリントサイトの構築

 パワープリントは,オンラインプリントサイトを他社に技術供与し,それをASPで展開していくビジネスを行っている。
 ASPによって画面上でテンプレートを選択し,編集して微調整して画面上でリアルタイムに校正を行い,OKになったところで発注する。発注された後で印刷用のデータを自動生成してバックエンドの仕組みに送っていくというものである。
 最大の特徴は,プロユースのDTPエンジンであるFounderFITがバックエンドにあるところが,この仕組みの強みになっている。

 採用されている理由は,エンドユーザが自分たちでWeb上でオリジナルカードを作っても,届いてみて,少し違うとか何か変だと言われては困る。完全にWYZIWYGで,見たものがそのまま印刷物になるということが保証できる仕組みを評価してもらっている。
 もう1つのポイントは,バックエンドにDTPのシステムがあるため,編集機能が豊富である。これは複雑で使いづらいという評価を受ける場合もあり二律背反であるが,1階層目では単純にテキストデータを入力し,2階層目では文字の位置を動かしたり書体を変えたり,文字の色を変えたり,長体,平体,回転などがWeb上でできる。

 今後の展開として,現状の前工程と後工程を拡大していきたい。1つは在庫管理やユーザガイダンスで,例えば自動発注の仕組みと連動することである。後工程では,バリアブル印刷機との密接な連動,あるいは物流管理システムとデータをやり取りして,工程管理の情報を得て,全体の印刷ワークフローをより見えるような形にしていくことである。
 印刷物の要望の部分から,刷り終わってエンドユーザに届いた後まで,一貫してできるようなソリューションに発展させていくことが重要である。

Web toプリントを利用した婚礼関連の印刷物受注・制作の事例

 リダックでは,結婚式に関わる印刷物を開発して,その生産システムを提供している。特約法人で仙台,福岡,北陸とあり,これらの協力会社に対して紙とシステムを提供している。
 取扱い印刷物は,ブライダル関連が主であり招待状,封筒の宛名や席次,席札,メニュー等がある。例えば,招待状のカバーと中の本状に対して,いろいろなレイアウトがタイプごとに決まっている。
 受注はホテル,式場に代行してもらっているのが現状である。紙に印刷して売るというのが主力の売上を支えているが,協力会社や特約法人に対してはデータを販売したり,紙等のサプライを販売するというビジネスを行っている。

 現在は,顧客のオリジナル志向を受け入れるような商品や,価格的に合う生産システムが必要である。また,機械設備で問題解決できる商品は,力のある印刷会社ならどこでもできる。機械の設備だけでは,今後は生きていけない。このようなことを解消するためにASPを採用した。
 内的な理由としては,専用DTPソフトベースの自動組版生産における拡張性への疑問がある。以前はInDesignベースの自動組版システムを使っていたが,DTPソフトの習得と人材の確保が必要になる。専門技術者の雇用による固定人件費の負担も大きく,得意先や地域性によるカスタマイズと緊急対応も考えなければならない。また,新商品開発にともなうバージョンアップやメンテナンスの負担ということで,全国展開したとき,各生産拠点にそのような人材を確保するのが非常に難しい。

 ブライダルシステムは,取引先の担当者,また新郎新婦に同時に校正紙が配信できる。PDFで出てくるので,手作業でメール添付すれば誰でもどういうソフトでもできるが,1回1回メール添付していたのでは仕事にならない。1日何百件という招待状を処理しなければならないので,入力編集の中で自動的にメールで添付するような仕組みが必要である。このシステムでは,ホテルの担当者と,新郎新婦がメールアドレスを持っていれば,校正データをPDFで自動的に添付して配信することができるようになっている。
 式場にインターネット環境さえあれば,そこで自分で入力して画像も入れて,新郎新婦が画面確認及び画面出力にて確認できる可能性もある。また,オリジナル商品の提案・作成ができる。オリジナル画像のアップデートもでき,オリジナルレイアウトの登録もできる。

 ASP利用者のメリットを考えると,ネット環境とプリンタの設備だけで新しいビジネスが展開できる。簡易なオペレーションシステムの取得,最小限の設備投資,専用システムならではのプロフェッショナルな品質,安価な使用料,ビジネスの拡張性,取引先・顧客との関係を密にする営業的なメリットの大きいサービス提供,システムに合ったサプライの供給がある。
 顧客サービスの可能性としては,オリジナル志向への対応,納期の短縮,消費者でもプロフェッショナルな組版を提供できることなどがある。

XMLワークフローによるドキュメント制作

 顧客サイドでパブリッシングが進行すると,制作会社の仕事がなくなるのではないかということもあるが,テックコミュニケーションズでは,XMLによるドキュメント制作を展開している。
 人を集めて一ヵ所で制作するという意味合いだけではなく,ドキュメントのデータベースを構築すること,そしてコスト削減につなげていくというのが大きな目的である。
 例えばマニュアルは,過去に制作したものを流用しながら作っていくことが多いが,流用率は約70%で,流用の内容はテキスト部分だけを修正したり,イラストだけを差し替える,あるいは全く修正せずに流用するというものがある。

 組版処理は,簡単なイラスト処理や改ページの処理といったレイアウト調整作業を除いて不要である。各パーツが揃ったら,あとは出力形態に合わせてスタイルシートを適用する。例えばHTMLにしたり,PDFにして最終的には印刷する。
 当初は,各連絡事務所から原稿をFAXやメールで送り,それを本社の編集チームがXMLデータで編集していた。全く1から新しいドキュメントを作る場合はこれでもよいが,ほとんどのドキュメントが過去のものをベースにして,直すところはテキストレベルの修正やイラストの差し替えといった作業である。また,納期も簡単な修正だからすぐやってくれと言われることが多い。

 連絡事務所から送られる指示はテキストデータであり,FAXの場合もある。それを編集チームでコピー&ペースト等によりXMLデータを修正している。いわゆるテキスト入力という作業を,重複して行っていることになる。もし連絡事務所で,XMLデータの変更が直接できれば,編集チームの負荷が軽くなるのではないか。
 そこで,テキスト入力するならXMLデータに直接入力しようということで,先ほどのシステムにWebサーバを追加した。InternetExplorerを使って閲覧・編集するシステムを構築して,現在社内で利用している。
 このシステムに自在空間という名前を付けてASPサービスとしても提供しているが,社内での利用で実績を上げている。
(PAGE2005コンファレンスD6セッションより)

2005/02/26 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会