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メーカーから見た印刷機メンテナンスの問題

印刷機械についてはできるだけ長持ちさせて使うという考え方と、技術革新への対応の面から短期間にフルに使って交換するという考え方があるようだ。 
 しかし、いずれにしても品質の安定と生産性向上にとってメンテナンスが重要であることに変わりはない。
 以下あるメーカーからみた印刷機械のメンテナンスについての考え方を紹介する。 印刷機のメンテナンスには2つの見方ある。一つは機械を維持し故障を起こさないために何をするかということで、もう一つは印刷機の性能を維持するために日々の保守点検をどうするかである。 
 何もしなくて故障を起こさず性能を維持できる機械はないが、メンテナンスというときにはこの2つを分けたほうが考えやすいのではないだろうか。

機械を故障させないためのメンテナンス

 結論からいうと印刷機は定期的に清掃・給油しなければならない。しかし、実際にはそれが不十分であるようだ。
 この大きな原因は、印刷機メーカーと印刷会社とが定期的な給油について共通の認識を持てていないところにある。
 印刷機メーカーは納入すると必ず使い方を説明しているが、その中で給油を含めてメンテナンス個所、メンテナンス周期・方法を説明している。
また、どこの印刷機メーカーの機械でも、給油個所毎の給油周期(毎月・1週間等)が決まっていて、それぞれの印刷機には清掃を含めたメンテナンスの一覧表がある。
しかし、印刷会社ではその指定のサイクルでメンテナンスがなかなかできていないのが現状だ。印刷機の性能向上に伴い給油する個所も頻度数も多くなっているため、印刷現場としては全てを指定とおりにすることはなかなかできない。また印刷機メーカーから提出される取扱説明書が膨大で読みきれないという背景もある。
 印刷現場からは「毎回こんなにやっていられない・ここまでやらなければならないのか」という声が聞こえてくる。だからといってメーカーが取扱説明書を簡単にした場合、もし機械が故障したときに、何も記述されていないからということで印刷機メーカーの責任を問われかねない。したがって、取扱説明書は膨大にならざるを得ない。
こういう印刷機メーカーと印刷会社の間のジレンマは昔からあり今後の両者の課題でもあろう。

高性能維持のためのメンテナンス

 印刷会社はどのように日々の調整をして高品質を維持できる状態にもっていくかという問題だ。
これについてポイントはたくさんありこの紙面だけで語れるものではないが、基本的な事項は以下のようなことがある。
 まずインキや紙とローラ管理があげられる。周知のとおり印刷工場には温度と湿度に指定の条件があるがこれらが変化したときにインキ、紙、ローラは影響を受けやすい。温度や湿度の影響によって歪んだ紙や流動性が適切でないインキで印刷するとトラブルが発生しやすい。 
紙とインキとは他の場所から印刷工場に搬入しすぐに作業するのではなく、印刷工場の環境に馴染ませてから作業したほうがトラブルの頻度は少なくなる。しかし、実際は特に紙については現場にそのようなスペースがなく不可能な場合が多いかもしれない。
 ローラーはゴム性で温度により伸縮する。ここではローラーニップ圧をどの状態でみるかということがポイントだ。少なくとも機械の稼動状態になったときのにローラーニップを測定して、稼動時は一定に保つことが大切だ。
 胴仕立てについては計測器を活用すること以外に管理の方法はなさそうだ。ブランケットは使用するとヘタるため、計測器を使って胴仕立てを頻繁に管理しなければならない。
 湿し水はいつ交換されるかということが大きなポイントだが、十分意識されてはいるがあまり頻繁に行われていないことが多いようだ。特に大型機については導電率を計測して定期的に交換するよう指導している印刷機メーカーもある。
 しかし、例えば印刷機を10台所有している印刷会社にとって、頻繁に湿し水を交換するとエッチ液と水道代は経済的に大きな負担になる。また、湿し水は一回入れたら減ったときに足すくらいであと何もしたくないというのが作業の手間からみると現実的だ。
 どの印刷機でもインキのカスや紙粉などが出る。しかもエッチ液はインキに影響を与えインキのカスは結果的に湿し水タンクにもどり、ヘドロとして底に溜まる。どれくらいの期間使うとヘドロになるかはそれぞれの機械の使われ方により異なる。
 湿し水を交換する目安の例としてタンクに白いプラスチック板等を固定して置く方法もある。タンクを開けて白いプラスチック板が見えにくくなったら交換時期とすれば判断がしやすい。 また、湿し水をpH値で管理している会社が多いが、それだけでは湿し水の状態は安定しにくい。例えば通常測定器のpH値を6.0で設定していてその値で印刷しても印刷物が汚れる可能性もある。
 だから、各々のエッチ液の仕様に合わせて希釈率を正確に計測してからpH値を測定したほうが湿し水は安定する。実際、毎日ビーカー等を使ってエッチ液・水道水・IPAを計測し湿し水を管理する会社もある。
 デリバリではパウダーの管理がポイントだ。印刷機は水を使用して湿気もありパウダーも固まりやすく、ノズルが詰まるとパウダーは噴射されない。放っておくとパウダーの噴射が均一性を損ないトラブルに繋がる可能性もある。それを防ぐために少なくとも月に一度ノズルの状態をチェックする必要がある。例えば、ノズルの下に黒い紙を置き手動でパウダーを噴射して満遍なく出ているかどうかをチェックする方法が一般的だ。
 以上のことをまとめていうと、機械を故障させないためのメンテナンスとは印刷機メーカーが推奨する清掃・給油を定期的に実行することであり、高性能を維持するためのメンテナンスとは印刷機が常にあるべき状態を印刷会社が独自に維持・管理することといえよう。

絶対必要なメンテナンスと新たな考え方

 メンテナンスは直接的には非生産的な時間だが、間接的にはそうではないはずだ。後になって機械が故障しないで経費が安く収まるなど目に見えないメリットが出てくる。
そうはいっても印刷現場にとって現時点での仕事が多忙でメンテナンスの時間を十分とれてないことが現実だ。そのために故障してから修理することが多い。
 印刷機メーカーもオペレータの経験が浅くても、そこそこ印刷できる機械を開発・製造している。昔は手で調整していた作業はボタンを押すとモータ駆動、あるいは数値の入力通り動いて精度を出せるようになっている。しかし、外観が電子制御でタッチファイルやパソコン画面などが並んでいてもその先は鉄の塊だ。操作は自動化したが、機構的な部分は殆ど変わっていない。だから、メンテナンスはどうしても必要だ。
 最近では修理費に大きな費用をかけるよりも、例えば5〜7年使えば買い換えるほうがいいというように印刷機を消耗品と考えている印刷会社があるのも事実だ。
そうではなく頻繁にメンテナンスをして動かなくなるまで何十年も使うという従来の考え方もある。どちらの考え方も正論だ。消耗品と考えるのか、財産として考えるのか、どちらを選ぶかは印刷会社の考え方次第だ。

伊藤 禎昭

2005/02/27 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会