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さまざまな用途へ拡大するバリアブル印刷

バリアブルプリントへの取組みには,フォーム印刷から発展しカラー化が進む請求明細書,CRMや大規模顧客データベースに基づくパーソナルカタログやパーソナルDM,さらには通信教育や各種学校,学習塾で使用する教材や成績表など,さまざまな分野・形態に発展しつつある。バリアブル編集ソフトやデジタル印刷機の進化と,さまざまな立場での用途開発によって,どのように適用範囲が拡がっていくのか。


バリアブル印刷とデジタル印刷技術

株式会社オーピーエス 代表取締役社長 林 護 氏

今から40〜50年前に初めてコンピュータが入ってきた。その当時のバリアブル印刷とは,カタカナ,ひらがな,ほんの少数の漢字しか使えない中途半端な印刷しかできないものであった。しかし,これによって,印刷業界の中に,新しくフォーム印刷という分野ができた。コンピュータで印字するためのいろいろな帳票類,給与計算の明細書や請求書等,さまざまなものができてきた。
今日,ダイレクトメールが非常に流行り,どんどん増えてきた。そうなると,単に定型の封筒にチラシを何枚か入れて届ければいいということでなく,チラシそのものも選別しなければならないし,チラシの中にも個別の情報を入れたいということで,ダイレクトメールそのものが変わりつつある。さらには,多種少量印刷などへと発展していくだろう。

オーピーエスは,オンデマンドプリントサービスコーポレーションから付けた名前で,デジタル印刷ソリューションと印刷サービスを行っている。1996年からIBMのマニュアルのオンデマンド印刷を始めている。IBMのPCは,年に何回もモデルが変わるので,そのたびにマニュアルを印刷することはできない。IBMではある程度のボリュームのマニュアルを作ったら,そこから先は全部オンデマンドでやるという仕組みを考えた。
また,デジタル印刷ソリューションとは,印刷するための仕組みをソリューションという形で販売している。たとえば,コンビニで支払いに使われてるEAN128というバーコードがある。非常に高精細なバーコードだが,そのもととなる部分をオーピーエスで開発し,現在4つのプリンタでサポートしている。これはコンビニ協会の承認をもらっているレベルである。また,IBMのプリンタ,他社のプリンタをソリューションとして販売している。
データ印刷,ブックオンデマンド,カラーオンデマンドの印刷サービスも行っている。一番の特徴はワンストップサービスである。データを受け取って編集して印刷,封入・封かん,はがき圧着,製本とあるが,一度データをもらったらこの全部ができる。
バリアブル印刷は,最初はフォームへの印刷から始まり,だんだんと大量・バリアブル印刷になっていき,オフセット印刷の分野とも重なってきて,最後はもっと少量多品種と予測される。
オーピーエスでやっているバリアブルの事例で,「ハッピーバースデー」という絵本がある。絵本の中に,誕生日を迎える子供の名前を入れる。送り主のところにパパ,ママ,おじいちゃん,おばあちゃん等を入れている。絵本の中には12〜13ヵ所,文章の中にその子供の名前が入るというものである。「クリスマス」や,「学校に行こうよ」とか,「ABCの本」等,いろいろある。インターネットのカタログで売られていて,直送されるので,書店には出ない。
また,オフセットで作った45kgの薄いレター用紙がある。45kgの紙に対して,カット紙のプリンタを使い,実際に文章を入れて送っている。文章の幾つかは可変になっている。数字が変わり,宛名も変わるということで,さまざまなバリアブルを作ることができる。しかも,DMにするために,極めて薄い紙をカット紙にしている。
要は,クライアントの仕事に対してどう応えると満足してもらえるのかが重要である。あるいはクライアントの先の顧客である。印刷会社のクライアントは企業だが,企業の先には本当に受け取る顧客がいる。受け取る顧客が満足するためには何をするといいのか,これがバリアブルプリントの一番大きな狙い目である。印刷技術がいくら進歩しても,人間の心のアナログの部分をどのようにバリアブル印刷で伝えていくかということが課題である。

フルカラー請求明細書の可能性

コダックヴァーサマークジャパン株式会社 セールス&マーケティング部 セールスマネージャー 中野 純一 氏

超高速バリアブルインクジェットシステム

バリアブル印刷と聞くと,多品種小ロット印刷を考える人が多いが,コダックヴァーサマークの機械は超高速で,大ロット大ボリューム,かつバリアブルで印刷するシステムである。分速300m,A4換算で1分間に2,000枚以上の印字が可能である。このスピードで,100%可変の内容を印字することができる。また,バリアブル印刷というと,どうしても1枚当たりのコストが高いという印象があるが,インクジェットなら非常に低いランニングコストで実現できる。印字幅は,約22cmから最大約45cmで,解像度は300×600dpiである。スポットカラー,およびCMYKプロセス4色にも対応している。搬送機もロールtoロール,ロールto折り,ロールtoカット紙に対応している。
現在,日本において一番多い用途は,公共料金,携帯電話,クレジットカード等の利用請求明細書がある。それ以外に,ダイレクトメール等の宛名印字がある。また,スクラッチくじという削って当てる宝くじもある。他に,ビジネスフォームや書籍,その他可変情報を含む印刷物に使われている。

フルカラー請求明細書の可能性

取引請求明細書は,現在ほとんどがモノクロか,2色,3色のスポットカラーである。今後の方向として,それをフルカラーにしようという動きがある。また,空きスペースに広告を入れていこうという動きがある。さらに,請求明細書はもともと1人1人違う内容のものを打っているので,広告も1人1人内容の違う広告を載せることが可能である。そこで,明細書とダイレクトメール,クレジットカードの場合は顧客の購買履歴,データベースを利用したOne to Oneの広告を載せていく。結果的に,CRMあるいはOne to Oneを実現する新たな広告媒体として提供していこうという動きがある。

明細書と広告の融合

取引明細書は,毎月,顧客の手元に届く。クレジットカードなら,一度に毎月数百万部,電話の明細は数千万部が発行されている。また,明細書は,手元に来たら必ず一度は開ける。開封率100%である。受け取った顧客は,必ず目を通すメディアと考えられる。明細書と一緒にオフセット等で印刷した他の広告を同封しているケースもあるが,それは全然目を通さず,明細書だけを見る人が多いのではないか。
また,クレジットカードの履歴はカード会社が持っている。そういうデータベースを利用して,各人に合った,個別の広告を載せることができるだろう。総合して考えると,マスメディアの長所,Web,eメールの長所を兼ね備えた,最も効果的な広告媒体になりうるのではないかと考えている。
海外では,クレジットカード会社が,広告やクレジット会社からの情報を,可変印刷している例がある。ゴールド会員,一般会員,シルバー会員によって内容を変えてフルカラー印刷することも可能である。

今,IT技術・電子メディアが急速に発展している。比較的簡単にパーソナライズされた情報が提供できるというのが,電子メディア普及の大きな理由ではないか。印刷は最も古くからある代表的な情報伝達手段であるが,電子メディアの影響を受けて,パーソナライズされた高付加価値印刷物への需要も増していくだろう。むしろ,こういった印刷物に対応できないと,どんどん電子メディアのほうに流れていってしまうのではないか。今後,情報伝達手段として印刷物が生き残っていくためには,大ロット,中ロット,ロングランに対して,可変で,しかも低ランニングコストの印刷物の提供が必要である。

Web to プリントとバリアブル印刷によるマーケティング

オペラ株式会社 代表取締役COO 古澤 伸浩 氏

マーケティングインテグレーターとして

オペラは顧客マーケティングのサービスを提供する会社として設立した。社員は50名で,そのうち30名がデザイナー,クリエイターである。オペラが考えるOne to Oneマーケティングのフローとは,データベースの収集,CRMシステムの設計導入,データベースのマイニング,テスト&プランニング,制作,配信,効果分析という長いプロセスである。通常は,これらを広告代理店,データベース分析コンサルタント,メーリング会社,印刷会社等が携わっているが,各プロセスが分断されている。これが,今までCRMが失敗したり,One to Oneマーケティングがうまくいかないと言われた1つの原因である。オペラでは,この各プロセスの提供と,他のサプライヤーと協力しながら,クライアント企業に対する顧客マーケティングサービスをおこなっている。
オペラは,データベースの収集・管理,データマイニングによる分析とプランニング,プランニングしたものをダイレクトメール,eメールその他のメディアに落として制作・配信し,効果分析までのサービスを提供している。
データベースの収集・管理として,Webサイトから顧客のログ,アクティビティの他,eメール,モバイルメール,コールセンターからの情報,また購買データ等を収集する。ユニバーサルデータベースと言って,各チャネルから入ったものを顧客情報として整理する。データベースの設計構築も,オペラでおこなっている。集まったデータをマイニングして分析し,分析結果をプランニングに活かしていく。プランニングしたものは,実際にダイレクトメール,eメールその他のメディアに落として制作・配信・効果分析する。

DOMSシステムとは

DOMSシステム(Database One2one Marketing System)は,5年前から自社開発してきた。大きく2つの特徴がある。1つはWeb to プリントで,インターネットを介してオーダーできる機能と,バックエンド側は,One to Oneのデータを生成する機能,これが組み合わされた仕組みである。
従来のDMワークフローでは,印刷・投函まで2〜4週間かかっているものが,この仕組みを使うと,パソコン上で簡単にデザインでき,その場でプレビュー校正確認,パソコン上からオーダーでき,印刷データが自動生成される。そして印刷・投函ということで,リアルタイム配信が可能になり,eメールほど早くはないが,かなりリアルタイムなマーケティングが可能になる。したがって,売り時を逃さない情報配信ときめ細かなカスタマーケアができるようになる。
ブラウザ上から簡単にオーダーできるというイメージだが,まずテンプレートを選択し,テンプレートの中の画像を選択する。テキストも,選択するか,自分で入れることもできる。プレビューで最終イメージを確認し,何通でいくらということを確認して注文すると,インターネットを経由して,サーバ側で印刷データが生成される。
Web上からオーダーが可能になるので,たとえば営業マンや店舗から,現場に近い,きめ細かいダイレクトメールをオーダーすることが可能になる。
このオーダーを受けるオペレーションセンターは,クライアント企業の本社と打ち合わしせながらデザイン,素材を管理する。
全国に散らばる営業マンがWeb上でオーダーできるので,ジョブを集中化できる。多頻度少量でありながら,まとめると大量になるため,規模のメリットが活かせる。これまで,少部数オンデマンド印刷では採算が取りにくかったが,この仕組みを入れることによって,収益が上がるものになる。
One to Oneの部分は,アップされる顧客データ,顧客の属性によって内容が変わる。

このような仕組みを5年前から自社開発してやってきた。オンデマンド印刷という少部数・多頻度の業務で収益を上げるのは大変である。細かいデータを処理して,かつマーケティング効果を上げていくためには,ワークフローを効率化してコストを下げなけれならない。そのために,クライアントからオーダーしてもらい,自動的にデータ生成ができるということが必要であった。
この仕組みは,クライアントのデータと印刷データのマッチングをしてバリアブル処理をして印刷機に流し込むということもすべて自動化されている。One to Oneにまつわる煩わしい,もしくは経費が嵩む人の部分をカットするという仕組みに仕上がっている。

今後はどんどんシステム,出力機が進化していくことにより,コストが安くなり,より多様なサービスができるようになる。また,マーケティング部分ではいろいろなアイデアを形作りながらサービスしていくことが必要になると考えている。

2005/03/02 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会