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本質は「インフラ」の変化

PAGE2005におけるMID/JDFトラックの後半3つのセッションで確認されたことは、JDF、JDFワークフロー、CIMのいずれにしても「道具」、「手段」であって目的ではない、ということである。至極当然のことである。いままで、これから目指す全体像が示されない中で「JDF」が強調され過ぎて、JDFが全てといった誤解が多く見られるようになったことの裏返しである。しかし、「道具」、「手段」という言葉が強調され過ぎることも、別の誤解を生み出すことになるのではないかと危惧している。何故ならば、いま我々が見るべきことの本質は、道具ではなく「インフラ」の変化だからである。

JDFの登場は、アナログからデジタルへの転換を果たした印刷産業のインフラが、デジタルネットワークに移行していくことを根拠としている。このデジタルネットワーク化への移行は、少なくとも技術的な観点からはどこでも見られる必然の流れである。JAGATが、JDF,MIS,CIM,EDI/ECに注目するのは、これらがデジタルネットワークを前提としてデジタル化の次ぎに目指すビジョン実現の仕組みだからである。その基本認識は、JAGATが2001年に出した「印刷新世紀宣言」で述べている。

人間の判断、行動、あるいは生産設備のコントロールは、全て情報、データに基づいて行なわれる。したがって、デジタルネットワーク化によって情報の流れが変われば、そこに関わっている各部分の機能や各部分の関連性が変わることになり、部分によってはその必要性自体が問われることになる。
現在、印刷物生産に必要な情報は、顧客から営業へ、営業から工務へ、工務から社内の生産現場や協力会社、資材調達先へと伝言ゲームのように伝達されてきた。営業は顧客の要望を製品仕様として受注伝票に書き表し、工務は製品仕様を元に製造仕様を決めて、いつ、どこで作るのかを計画して作業指示書によって生産現場に伝えていた。それは、情報伝達の主要な手段が伝票以外にはないという環境の中で、印刷物生産を効率的に行なうために形作られた情報の流れであり組織であり役割分担である。

ただし、企業によって最適な形はやはり違っている。リピート物が多い企業の場合には、工務機能を省いて営業から直接現場に情報を流している場合も多い。工務が行なうべき製造設計という機能の比重が軽くなるからである。規模の小さな企業では、工務部門がかなり細かな仕事の状況把握、コントロールができるが、規模が大きくなると工務では情報が取りきれないために、細かな調整は生産現場に任せることが最良になる。
いずれにしても、情報の流れはバケツリレーのように途切れ途切れになるから、それぞれの部分での処理もバッチ的に処理することになる。しかし、情報の変更は突発的に起るのでそのたびに臨機応変に対応することが求められ、営業や工務は日常的に右往左往せざるを得なくなる。

1点当りの売上額が小さい小ロット端物印刷物では、営業にしてみると手間をかける割りに売上が小さい製品であり、逆に得意先から見ると何故そんなに手間と時間が掛かるのかという不満がある。
通信ネットワークが普及し、ページアップまでDTPで出来るようになった現在、印刷にデジタル印刷機が適するような場合には営業を通さずに現場に近いところに情報を直接流して生産することが最適な方法になりつつある。印刷会社側では小ロット端物印刷でも利益の出る仕事にすることができ、顧客から見れば発注の煩わしさを省きながら短納期で得たい印刷物を得ることができるというメリットをもたらす。
現存の各部分の道具を変えて改善するのではなく、新しいインフラと仕組みを使って、顧客側にも印刷側にもメリットをもたらす最適なやり方に変えるということである。

JDF、CIM、あるいは全体最適化として考えようとしていることは、個々の部分を個別の方法で解決しようということではなく、デジタルネットワークというインフラを前提として、仕事の流れや各部の位置付けや機能を全体として見直そうということである。だから全体最適化なのである。
そのような中から生まれてくる可能性は、現在の仕事のやり方を前提に考えている限りかなり見えにくいだろうし、実際にそのような中に新しい仕組み入れても、投資対効果は期待したものにはならないだろう。ポイントは、デジタルネットワークの上で使うデジタル機器について、それを単独の存在として使う場合とは異なる「働かせ方」を考えることであり、考える範囲は社内だけではなく顧客や協力会社を含めた全体である。したがって、現場からのアイデアを集めて全体を構成するのではなく、あるべき姿をトップダウンで提示することが不可欠である。

2005/03/02 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会