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PDFワークフローの実用化とガイドライン制定の動き

Adobe Acrobat 7.0の発売や,PDF/XのISO規格化などにより,ワールドワイドでPDFによる電子データ入稿は普及しつつある。しかし国内の出版印刷業界においては,PDF/Xへの関心は高まりつつも,依然としてPDFによるデータ入稿は少数派である。本稿では,PDFワークフローの実用化の現状とガイドライン制定の動きについて紹介する。

国内のPDFの実用化動向

国内のCTPの普及率をPS版とCTP版材の平米比率で比較すると,既にCTP版が全体の30%を超えたという。フィルム出力という中間工程のないCTPは,いったん導入してワークフローが確立すると,中間工程や中間材料を削減するため,さらに加速して導入される。特に,国内の大手〜中堅印刷会社へのCTP導入は,かなり進んでいる段階である。
CTP導入に伴って,ワークフローRIP製品の導入も進んでいる。プリプレスベンダーの各社とも,アプリケーションファイルをPDFに変換し,システム上の中間データとして運用する方式を推奨している。面付け仕様などは,印刷機や製本加工によって変更されるため,ノーマライズされたPDFを中間データとすることが安定性につながるという考えに基づいている。このようにプリプレス部門内では,PDFが日常的に使われている。

一方,データ入稿でのPDF利用はそれほど進んでいない。2003年頃から,PDF/X-1aが注目されるようになった。また,Adobe InDesign CS上でPDF/X-1aの設定・書き出しやプリフライトができるようになった。しかし,カタログ・パンフレットなどの商業印刷,一般書籍や雑誌記事などの分野では,完全データ入稿自体が普及していない。書籍や小冊子などでは,Wordデータを中間データとして入稿し,仕上げは印刷会社にて行うことも増えている。また,雑誌等では画像のすり替えを印刷会社で行うケースもある。その場合は,ラフ画像をレイアウトしたアプリケーションファイルが印刷会社に入稿されている。

雑誌広告や,新聞広告の分野では,以前からEPSファイルによる入稿が行われていた。一部では,EPSからPDF/X-1aでの完全データ入稿への移行が進められている。しかし,PDF/X による完全データ入稿は,原則としてジャパンカラーやJMPAカラーといった印刷標準を前提とし,画像の修正や色校正が終了していることが求められる。したがって,広告以外の分野でのPDF入稿は,進んでいないのが実情である。

PDF/Xのメリットと限界

PDF/Xは,元々は米国のDDAP(Digital Distribution of Advertising for Publications)によって,広告の電子送稿を推進するために検討され,その後ISO規格となったものである。PDF/X 1-aでは,フォントのエンベッドが必須で,CMYKおよび特色のカラースペースのみが許容される。OPIが許されないため,画像のリンクエラーも起らない。また,PDFを生成する上での制約が大きいため,より厳格なプリフライトが可能である。すなわち,PDFデータ入稿において頻発する問題を回避できることが最大のメリットである。

しかし,PDF/X-1aによって印刷工程上のすべての問題が回避できるわけではない。たとえばPDF/X-1aには画像の解像度に関しての制限はない。また,PDF/X-1aでは特色を設定することも許容されている。さらには,トンボや裁ち落しの設定,レイアウト方法などはPDFを生成する以前のアプリケーション上で設定,指示を行わなければならない。このように,PDF/X-1a準拠であったとしても,印刷工程における品質保証の面では,注意すべき点も少なくない。

ヨーロッパでの電子データ入稿の動向

ヨーロッパでも,出版社や広告業界,パッケージ印刷などの分野でのPDFデータ入稿が進んでいる。もともと,PostScriptファイルやEPSによる電子入稿も少なくなかった。
しかし,PDF/Xによるデータ入稿は,先に触れた画像解像度や特色の使用など,品質保証上は十分でない項目も少なくない。さらに,トンボや裁ち落しの設定の他にも,商業印刷,新聞印刷,オフ輪/枚葉などの印刷対象,方式によって異なる制約もある。

そこでヨーロッパでは,各国の広告・印刷関連の団体が中心となってPDFの使用ガイドラインをさらに厳密に規定することとなった。それが, Ghent PDF ワークグループという団体となった。

Ghent PDF ワークグループの活動

正式な設立は,2002年6月である。Ghent(ゲント)とは,ベルギーにある都市で,Eskoグラフィックス ,アートワークシステムズ,PitStop Professionalの開発元であるEnfocusの本社などもある。元々は,2000年頃に,ヨーロッパで電子入稿の方法が検討されていたときに,各国の広告・印刷関連の団体で情報を共有できないかと考え,ベルギーとオランダで共通仕様を検討していた。具体的には,ジョブオプション(Acrobat Distillerでの設定)の仕様と,プリフライトのチェック項目とを決めることになり,スタートしたという。その後,フランス・スイスの団体も賛同し,組織化された。最初は各国の広告・印刷関連の団体がメンバーだった。
2004年からはアグファ,クレオ,スクリーン,ハイデルベルグなど主要プリプレスメーカーやRIPメーカーのグローバルグラフィックス,アドビ,クォークなどのアプリケーションメーカー,他にEskoグラフィックス ,アートワークシステムズ,Enfocusも参加している。2004年までの正式参加メンバーは,18団体と10社とのことである。

PDFによる電子入稿のための検討項目は,大きくは3つある。第1は,PostScriptファイルをどう作るか,である。PPDファイルやQuarkXPress,InDesignなどのアプリケーション上の設定方法も含まれている。第2は,PDFを生成するときのガイドライン,設定(ジョブオプション)である。第3は,PDFをプリフライトするときのチェック項目である。

また広告,雑誌,新聞,パッケージなどの用途や,オフ輪/枚葉,グラビアなどの印刷方式,さらに特色使用の有無でもジョブオプションの設定は異なる。ISOの仕様であるX1,X3の上にさらに細かい基準を設定し,ドキュメントや設定ファイルを公開することが,このグループの目的である。国際規格を制定することではなく,実用のためのガイドラインや設定ファイルの共有が目的である。そのためにテーマごとに検証作業を経て,文書化を行っている。ドキュメント,設定ファイルは,すべてWeb上で公開されている。

2004年のdrupaの際に,PDF/X-Plus ver.2を発表した。それは,PDF/X1-a:2001に基づく9種類とPDF/X3:2002に基づく9種類の仕様が含まれている。9種類には,雑誌広告,新聞広告のほか,輪転/枚葉,特色の有無,高解像度/低解像度,新聞/一般の違いによって区分されている。

ワークグループの今後の活動と日本の状況

ワークグループは,現在いくつかの分科会ごとに,より細かい基準作りを進めている。PDF入稿のためのジョブチケット,カラーマネージメント,パッケージ印刷用のPDF,PDF仕様,RIP/アウトプット,Officeドキュメント印刷のためのPDFという分科会がある。さらに,今後のテーマとしてグラビア印刷,シルクスクリーン印刷,デジタル印刷,高速インクジェット用のPDFなどを取り上げて検討していく。

現在,日本国内ではPDF/Xの入稿が一部で行われているが,その際のジョブオプション設定やプリフライト項目,アプリケーションでの設定などは,ユーザごとに検証しながら,決定されている状況である。このままでは,印刷・新聞・出版・広告などの会社ごとにPDFの設定の検証が行われ,さまざまな標準が策定されることが懸念される。言わばローカルルールが乱立することで,かえって混乱が起こり,普及自体にブレーキがかかってしまうだろう。

既にヨーロッパを中心に検証が行われ,出来上がったガイドラインであるPDF/X-Plusの実績をベースに,標準化のためのグループを組織し,協力してアジアや日本国内のガイドラインを策定することが望まれる。JAGATでも,当面オブザーバとしてこのワークグループに参加し,その活動やガイドラインに関する情報発信を行う予定である。

2005/03/13 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会