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非価格競争へのシフト

去る2月2日〜4日,池袋サンシャインシティにて「ポスタルフォーラム2005」が開催された。ポスタルフォーラムでは,ダイレクトメールの活用やその基礎となるダイレクトマーケティングの考え方の普及を目指しており,印刷のクライアント向けの情報発信が多い。
基調講演より,株式会社日清食品 営業本部 営業企画部 課長 面谷勝己氏の講演を紹介する。特にFSP(フリークエント・ショッパーズ・プログラム)に焦点を絞った内容であるが,クライアントの新しい動きを知ることで,新規開拓等の参考にしていただければ幸いである。


非価格競争への挑戦

日清食品(株)営業本部営業企画部 課長 面谷 勝己 氏

最近,小売業でもFSPへの取り組みが多くなされるようになってきた。FSPとはフリークエント・ショッパーズ・プログラムの略称である。これは顧客情報を収集するツールであり,CSM(カスタマー・スペシフィック・マーケティング:顧客識別マーケティング)の中核をなすものだと言われている。CSMの原則は以下の2点である。
1.顧客は一律ではない,従って一物多価である。顧客の愛顧の度合いに合わせて個々に売価を決めるという考え方で,より多くの売り上げ・利益を与えてくれる顧客に対してより安く商品を提供しようとすることである。
2.購買行動は特典で決まる,ということでもある。つまり,望ましい(利益・売り上げに貢献してくれる)顧客に特典を与えるということになる。従って,バーゲンハンターには特典を提供しない。

従来の小売りではチラシ中心のハイ・アンド・ロー戦略がとられている。チラシの目玉商品で集客を図るのである。ところがこの時の顧客はバーゲンハンターが主である。従来は不特定多数が対象であったが,FSPでは顧客の属性に焦点を絞ったマーケティングプログラムであることが大きな相違点である。これからはマスマーケティング,ターゲットマーケティングをその政策・戦略等に応じて使い分けること,バランスをとって使い分けることが重要になる。

FSPの効用

米国の例では,売り上げ・利益の7割は3割の優良顧客からもたらされている。下位5割の顧客は店の売り上げの1割しか寄与しないことが報告されている。日清食品で日本について調べた結果,大型スーパーや地方のスーパー等では,店舗顧客のうち,優良顧客(デシル1〜3)からの売り上げが70%以上,また下位5割(デシル5〜10)の顧客は店舗の売り上げの10%しか寄与していないことが判明した。従って,やはり上位3割の優良顧客にアプローチして囲い込みをはかることが日本でも重要である。日米の例からも分かるように,FSPにより優良顧客の囲い込みを図ることは小売業にとって非常に重要といえる。

小売業にとってFSPが有効であることが判明したが,FSPはメーカー・小売りにとって共通の非常に有効な手法といえる。

※デシル分析:全顧客を購買金額の高い順にならべ,顧客数で10等分する。次に各区分ごとに,購買金額の高い方から,顧客をデシル1,2,…10と番号付けて区分し分析する。

FSPの4つのステップ

FSPを実践する段階には以下の4ステップがある。

<第1ステップ>
会員の獲得が主な目的である。このステップで確実に行われなければならないのは,顧客データの蓄積である。現在FSPで行き詰まっている会社は,この最初の段階のデータ蓄積が十分実施されていないことによる。

<第2ステップ>
会員の区別化。優良顧客とそうでない顧客を区別化することである。ロイヤリティの高い顧客ほど,より多くの特典を与え,顧客の囲い込みを促進する。この区別というのは特定個人ではなく,個人の持つ「属性」である。属性を明確にすることが重要となる。従来の方法は不特定多数へのバラマキであったが,FSPでは店舗の優良顧客の3割に,またカテゴリーの優良顧客であれば来店客の1〜2割にアプローチすれば良いことになる。バーゲンハンターにかかる経費を優良顧客に振り分けることで利益と売り上げを向上させるのである。

<第3ステップ>
優良顧客の識別化である。優良顧客を属性別に分類し,属性別に対応するのである。顧客をベースとした販促と売場管理がまずポイントとなる。顧客を属性別に分類し,属性別に購買商品や購買パターンを踏まえて販促策を作ること。チラシや売場管理等をこれに沿って実施するのである。逆に売りたい商品があれば,この時にターゲットとなる属性を選定し,この属性をもつ顧客にアプローチすることになる。

<第4ステップ>
顧客の利益性の最適化である。これは顧客がもたらす利益に応じた還元と特典の提供ということである。従って1対1のマーケティングになる。一人ひとりの損益表がベースとなり,その集合が店舗のそしてチェーン全体の損益表となる。この第4ステップを実施するには5年から10年かかると言われている。

ここでFSPの狙いを復習すると,「優良顧客の囲い込み」である。また究極の課題として「非価格競争へのシフト」がある。EDLP(エブリディ・ロープライス)という低価格戦略に対する生き残り戦略として出てきたのがFSP(非価格競争)である。非価格競争によって優良顧客を囲い込むことがFSPの狙いである。一般的にFSPというと,優良顧客の囲い込みだけが言われ,「非価格競争」が忘れられてしまうが,2つがセットでFSPであることが重要なポイントである。

次世代の戦略

これからは経済構造の変化から所得の二極化,購買行動の変化から特定少数に焦点を当てたマーケティングの2点が重要となり,これをもとに戦略展開をしていく必要がある。所得の二極化に対しては戦略の二極化が必要である。高所得,低所得別の対応である。ただしどちらかを選択して対応することも1つの戦略である。
特定少数に焦点を当てたマーケティングの実践では,モバイルとWEBが非常に重要となる。絞り込んだ対象に直接アプローチし直接レスポンスを返してもらう。このためのツールとしてこの二者はなくてはならない。優良顧客の囲い込みを実現する上で,バーチャルの世界であるWEBとモバイルをリアルの世界のツールであるDMと連携することが重要である。

(詳細は「Printers Circle」5月号に掲載予定)

2005/03/17 00:00:00


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