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クロスメディア、ニッポン放送VSライブドア(堀江貴文社長) その2

社団法人日本印刷技術協会 副会長 和久井孝太郎

4.マスメディアとなったインターネット,そしてマスクロスメディア・ビジネスの創造

日本のインターネットのユーザ数が,昨年末で7730万人に達したという今年2月にインターネットに掲載された推定値がある。
一方,電通が最近発表した2004年の日本の広告費(推定値)は,総額5兆8571億円(前年比3%増)で,テレビが2兆436億円,新聞が1兆559億円,雑誌が3970億円,そしてインターネット広告費は前年比153.3%の1814億円となってラジオの1795億円を追い抜いた。いずれにしてもインターネットは,インタラクティブ・マスメディアに急成長しつつあると言って過言でない。
急速にパワーアップするインターネットはメディアとして浸透していくというだけではなく,既存のマスメディアやセールスプロモーションと連携,つまり「クロスメディア化」することで,広告やコミュニケーションのあり方を大きく変えていくとして,電通の長沢秀行IC(インタラクティブ・コミュニケーション)局長がこの領域に対する電通の取り組みを次のようにレポートしている。
〔日本はすでに有数のインターネット大国になっています。モバイルを含めれば世界最先端のユビキタスコミュニケーションがダイナミックに展開され,クロスメディア・マーケティングが各国に先駆けて統合的に実現されるインタラクティブ・コミュニケーション先進国です。
生活者はインターネットやモバイルを通じて,ほしい情報を「手軽に」「効率よく」「より詳しく」知る時代になりました。そのナビゲーター役がヤフーやiモードなどのインタラクティブメディアであり,その情報体験の場が企業のさまざまなウエブです。インターネットメディアプラン,クロスメディアプランの最適化,ウエブクリエイティブの巧拙が新商品のブランド形成,購買誘導,さらにはキャンペーン全体の成功を左右する時代に入っています。…
重点テーマとして,この2月よりクロスメディア部を創設し,マスメディアとインタラクティブメディア連動プランニング,ユビキタスプロモーション,ブロードバンドコンテンツプロデュースなどのクロスメディアサービスを提供します。〕
さて,ここで「クロスメディア」と表記される言葉の意味を吟味してみよう。人間にとって言語は,自らの真意を伝える論理を展開するための道具である。その一方で,自らの感情や感性を伝えるための道具でもある。
前者では,一つひとつの単語が厳密に定義されていて,ブレがあってはならない。これに対して後者は,それぞれの国や地域の文化に深く根差したものとなっている。例えば芭蕉の『奥の細道』の中の一句 〔しずかさや 岩にしみいる せみの声〕は素晴らしい。だが,論理的には,せみが発生する振動音が岩に浸透することはない。
日常われわれが使っている言葉は,科学・技術や数学,哲学や論理学の用語のように厳密なものではなく,文学的表現と言われるほど文化に根差した深い感性のものでもない。特に日本語は,あいまいさを本質的に含んでいる。
そして,変化の早い現代社会において,それを助長しているのが数多く使われるカタカナ言葉と流行語のはんらんである。メディアという言葉自体,かなりあいまいな理解の下で日常的に広く使われている。
英語のmediaは,mediumの複数形であり,意味は中間,中庸,媒体,媒介などである。戦後の日本で広く使われてきたのは「メディア」=「媒体」であった。一般の人々には媒体という表現にはなじみがあっても,専門用語としてのメディアにはなじみがなかった。
カナダのメディア学者マーシャル・マクルーハン(1911〜1980年)が,関係者の間では国際的に広く知られている名著『メディアの理解』(邦訳『人間拡張の原理〜メディアの理解』,新訳『メディア論〜人間の拡張の諸相』)の中で,テレビやラジオ,新聞や雑誌のみならず,貨幣や交通機関まで広くメディア特性を論じ,メディアとは人間の能力を拡張するものだと説明した。
ところで新しい造語である「クロスメディア」が専門用語として生き残っていくためには,将来にわたって通用する厳密な定義がなければならない。
英語のcrossの原点は十字架である。カタカナ言葉の「クロスメディア」に常識的な日本語を当てはめるとしたら,「交差媒体」が有力候補になる,と筆者は考えている。媒体は伝統的な意味での媒体である。一方,交差も伝統的な意味で×印やY印,*印で表されるような特性をもっている。⇒印や⇔印的である場合は,交差とは言わない。
ここで,交差が×印で表されるような例のクロスメディアを考えてみよう。図4のケースでは,×印のそれぞれの先端に左上から時計回りで,インターネット,放送,印刷,モバイルの各メディアが接続されている。

×印の左側は,ネットワークを含むインタラクティブ・メディアに属し,右側は在来メディアに属している。このようなクロスメディアが将来発展するためには,交点の使いやすさがカギになる。交差の交点には人間とシステムのインタフェイスが配備されるものであり,現在の実験的なシステムでは,携帯電話などのモバイル端末が利用されている。一般論として,この「クロスメディアのハブ」の特性と機能は,「ITとIT端末」である。
いずれにしても近い将来には,この「IT」が広い意味でマイ・ロボット化していくのが歴史の流れの必然である。ロボットは,マイクロチップで賢ければよい。

5. まとめ

「テレビとインターネットの融合」などというアバウトな言葉を使うべきではない。デジタル技術の融合は当然であるが,基幹メディアの特性が融合する必然性はない。テレビも,インターネットも,それぞれ特徴をもったコミュニケーションの基幹媒体であり,媒体特性の融合で得られる利益はない,と筆者は考える。テレビ番組でURLや電話番号が紹介されても融合とは言わない。テレビとビデオ,テレビと映画,インターネットと映画しかり。互いに利用できるものは大いに利用すればよい。
あえて融合的な言葉を使うならば,効率を高める経営統合の可能性を検討すべきであろう。今後もテレビも,インターネットも,メディア特性を良い方向へ伸ばすように発展してもらったほうがよい。インターネットがテレビを飲み込むことはない。最適視距離を一つとっても,それぞれの基本的な文化が大きく異なる。
さて,クロスメディアという言葉が意味するものが,ライブドア堀江社長にとって付加価値の宝の山であることに,彼はいつ気づくか? あるいは気づかされたとしても電通やヤフーの孫会長が先行しているので,あえて融合という言葉を使い続けるのか? さらにメディアの社会的責任をどのように果たそうとするのか? など,筆者は注意深く見守っていきたい。

2005年3月25日 記

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2005/04/05 00:00:00


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