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世界の電子政府・電子自治体動向を探る

インフラは世界のトップクラスにありながら、アプリケーション、コンテンツレベルが弱いと見られていた日本の電子政府だが、昨年末早稲田大学が日本ではじめて発表した「世界の主要23ヶ国ランキング」では日本は7位に入った。
これまでの国連などによるランキングでは経済、人口規模の小さなIT立国が上位を占め、経済大国が下位に置かれる結果が多かったのだが、それは首都部とその他地域との格差が平均化された形で反映してしまったためで、世界への影響度、貢献度の検証には不向きだったと言う。 それらを考慮して行なわれた今回の調査から電子調達、電子入札、電子申告などは各国で導入が進みつつある……等々の特徴が浮かび上がったと言う。
2002年12月に電子政府・自治体研究所を設立した早稲田大学では小尾敏夫教授を所長に、この調査をはじめ電子政府・自治体による国民経済への波及効果、グローバル・スタンダードの策定・推進などを行なっている。その小尾氏に、世界の電子政府・自治体の動向ならびに日本の課題を解説いただいた。

米国の状況

米国では2001年になって電子政府法が制定されたが、クリントン政権の時代に開設した情報スーパーハイウェイと電子政府法の前身である政府改革法が既にあり、先進国の中では一番早く電子化が進んでいる。2002年にはOMB(行政予算管理局)が電子政府の司令塔に決まった。
First Gov.というアメリカ連邦政府のWebサイトがあり、ポータルとしてそこからさまざまな役所に入っていけるようになっている。
電子納税に関しては、納税者の無料納税ファイルがサイトに用意されている。電子政府ができて以来最大の節約は給料の支払手続きである。支払手続きの電子化(E・Payroll)により12億ドルが節約できた。
またブロードバンドに関しては、日本、韓国のほうが進んでおり、何とか追いつこうとアメリカ(ブッシュ大統領)はブロードバンド政策を発表した。
アメリカでは電子政府というものをeコミュニティ、電子社会という発想で捉えており、日本で言う霞ヶ関LANとか地方自治体の電子化という狭い範囲では考えていないのである。

ヨーロッパの状況

ヨーロッパの場合は「e-ヨーロッパ2005」が発表されていて、ブロードバンドの普及が盛り込まれているが、今25の加盟国があるEUすべての公共機関に接続可能なブロードバンドの普及ということになっているため、かなりの金額がかかる。ちなみにブロードバンドのスピードの定義は各国で違い、日本は1M以上でないとブロードバンドと呼ばないが、ヨーロッパでは0.5Mほどでブロードバンドと言い、アジアでは128キロほどである。
相互事業展開としては、全欧州電子政府サービスの支援実施を2003年に完了していて、フランスにいるドイツ人が、ドイツの電子政府サービスを受けようと思えばできないことはないという状況である。
電子調達も2005年末までにすべての政府が調達の電子化をするということを目標にしている。しかし実際上、2004年に加盟した中東欧、ハンガリー、ポーランド、チェコ等の小さい国が電子調達を完璧にできるまでには時間がかかるので、修正が必要だろう。

アジアの状況

アジアの中では中国、韓国、インド、そして日本の4つの国がこれから重要な意味合いを持つ。 インドの電子政府は、ほとんど電子政府になっていない。電子政府ができることで効率化、能率化、生産性向上につながるが、11億人も人口がある国であまり効率的なシステムが入ってしまうと、失業者が何億人も出てしまうという問題を抱えている。
だからあれだけソフトウエアが発達していて、ソフトの輸出が世界のトップクラスにも関わらず、自国では電子政府がなかなか普及しない。
中国、特に北京に関しては、2008年の北京オリンピックに向けた「デジタル北京」という大きなITプロジェクトがある。これは電子自治体のプロジェクトで、世界の電子自治体の最先端グループに北京が到達しようということである。
中国のデジタル・デバイドは非常に大きく、これを是正するために中国政府は電子政府を普及させたいと考えていて、そのコアに北京がなっている。
2004年から中国都市電子政務発展研究課題グループが、全国336市町村のeガバメント化の実現状況をまとめるために市政府のポータルサイトの評価を行ない、ランキング化を始めた。これはオンラインサービス力とオンライン応用力の二つの項目を主な指標とたもので、1位が北京、2位が上海となったのである。
韓国は日本の半分ほどの大きさの国だが、中央政府が主導してIT立国に向かった典型的な国である。
政府が電子政府化もかなり急速なスピードで始めている。特にナレッジベース、知識型政府という新しい概念を持ち込んでいる。そして2008年に努力目標を置いて世界のトップクラスになろうとしているのである。

日本の状況と課題

日本ではe-Japan計画に続き2003年7月にe-Japan戦略パート2が発表された。パート1はインフラネットワーク中心だったが、パート2ではコンテンツ、アプリケーションにかなりのウエートを置こうと2005年度末までの間に相当な努力目標が設定されている。
これらはASEANを含めたアジアで大体共通している。
行政サービスではワンストップサービスの仕組み構築を考えており、これはアジアのどの国でも同様である。
しかしインドネシアなどではインターネットを使っている人はまだほんの一部のため、電子政府と言ってもGtoB、GtoCではなくGinG、政府の中の電子政府化ということになる。要するに官僚機構の効率化を電子政府化としている。
また日本の構想では高度な電子政府を考えているので、商取引も当然電子商取引(EC)となる。日本政府がアメリカ、ヨーロッパと同様に数年以内にすべての供託取引をオンラインで行うとなれば、電子政府が電子商取引普及の呼び水になるということはあり得る。
そしてe-Japanの次はu-Japanということで、日本はユビキタスネット・ジャパンを目指そうとしているのである。
課題には、キラーコンテンツの発見、プライバシーの保護、知的財産権への対応、情報リテラシーの向上、等々あるが、特に強調しておきたいのは電子政府による電子商取引普及の応援と情報セキュリティの強化である。
そして今後の重要な役割として減災への対応がある。災害時に電子政府、電子自治体が正確な情報を確認して、どこが安全かという情報の配信をパソコン、携帯電話、PDAなどと通信衛星を使って行なっていくことである。
各市町村には行政防災無線等、ルールや仕組みがきちんとあるが、実際の地震、台風、津波は10秒、20秒の世界で、そのときにマニュアルを読む時間はない。
ほとんどの国民が持っている携帯電話の電波を非常時には国や地方自治体がジャックして、緊急避難のシグナルを送るシステムを合法化しないとだめだと考えている。

(通信&メディア研究会)

『JAGAT info 5月号』より

2005/05/16 00:00:00


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