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デジタルコンテンツ市場を利用者側の視点で考察する

情報リタラシー度とメディア多様性
情報メディアの多様化が進んでいるが、各メディアへの接触度合いや活用度は、情報リタラシー度と深く関わっている。電通総研の「生活者・情報利用者調査'99」では、情報リタラシー度の高い人とは、「情報化社会にふさわしい基礎素養や潜在的資質に裏付けされた情報化対応能力を保有し、自己実現欲求が強く社会的関心も高く、情報収集に積極的でPCスキルやインターネットスキルを持っている人」としている。情報リタラシー度が高い人は、全体の2割強、中位の人は6割、低位の人が2割弱という構成である。またリタラシー度の高さと、管理職、専門技術職の比率には相関関係があり、総じてリタラシー度の高い人ほど高収入を得ている。いわゆるデジタルデバイドによる格差である。インターネットの普及率は、情報リタラシー度が高い人たちにより、パソコン利用率とともに牽引されてきた。しかしながら、近年では携帯電話によるインターネットへのアクセスにより、従来リタラシー度の低い人たちと思われていた層を取り込むことに成功している。電通総研では、今後、デジタルデバイドによる格差の縮小は、情報メディアやインターネットへのアクセス方法の「多様化」に、そのヒントがありそうであると分析している。そこには、むしろリタラシー度を意識させないところに、その成功要因があると言えるかもしれない。

パーソナル化の流れ
一方、メディアアクセスの「多様化」には、情報メディアの多様化とメディア利用形態の多様化が考えられる。電通総研「情報メディア白書2005年版」によれば、それまで「家族との共有スペース」で利用されていたメディアが「自室内」に進出(いわゆる情報メディアのパーソナル化)に注目している。例えば電話では、黒電話・プッシュホン・子機付きコードレスホン・携帯電話という「パーソナル化」の流れの中で、通話時間の増加が進み市場が拡大した。現在、テレビは、お茶の間の共有メディアだが、パソコンとテレビの融合、あるいは携帯電話とテレビの融合の流れのなかで、「パーソナル化」が加速する可能性がある。テレビ付き携帯電話は、「自室内」、つまりテレビのパーソナル化を促進させ得るとしている。新しいメディア(ネットテレビなど)が立ち上げに失敗するのは、パーソナル性の強いメディアを無理に共有スペースで利用させようとしてきたためと分析する。今後は、メディア特性とコンテンツのあり方について、生活者の視点からとらえなおす必要がある。

家計と個計
生活者の視点から見ると、携帯電話の普及を導いた一つの要因として、「個人財」である携帯電話が、「家族との共有財」(新聞など)で多く利用される「契約支払型」の導入に成功したことによって、支払時の心理的ハードルが低下したことであると、分析している。つまり、携帯電話の支払いは小遣いという「個計」よりも、「家計」から支払われる傾向にある。コンテンツ市場の不況について、携帯電話による「個計」の圧迫説があるが、一般に語られるほど大きな影響でないとしている。電話やインターネット接続などのインフラ部分は「家計」から支払われるのに対し、いわゆるCD、DVD、ゲーム、などのデジタルコンテンツに関しては、「個計」から支出されている。情報メディア・サービスを開発するにあたっては、どちらの財源(個計か家計か)を狙うのか、というマーケティング上の戦略が重要と思われる。

モノとしてのコンテンツ
さらに、同白書では生活者がコンテンツを購入する際に「コンテンツの視聴」だけでなく、パーソナルな「モノ」として所有し、「いつでも、どこでも」視聴できる権利や可能性なども重要な要素であると分析している。この「パーソナル化」を意識したアプローチに、情報メディア市場を捉えるためのポイントがありそうである。メディアが多様化するなかで、コンテンツの重要性がいわれるが、コンテンツの中身だけでは価値は決まらない。メディアとコンテンツは分離できず、コンテンツをどのメディアに乗せるかで、提供できる「パーソナル化」の価値も変わってくる。生活者にどのような価値を提供するのか、という基本的な視点を絶えず持ち続ける必要がある。「モノ」としてのコンテンツ」の付加価値を見極め、それをどのように演出していくか、という発想でサービスを構築すれば、ユーザーからの支持を得られる可能性は高まると考えられる。

来る5月24日(火)に、(社)日本印刷技術協会では、2005年版「情報メディア白書」の著者の一人である、株式会社電通総研 井上忠靖氏による、「デジタルコンテンツ市場の最新動向」と題して、最新のデジタルコンテンツ市場の動向を生活者の視点から議論頂きます。詳しくは、こちらまで。

2005/05/10 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会