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デジタルイメージングにおける色管理技術の流れ

 カメラマン,デザイナー,製版技術者などは,印刷工程における各デバイスの色管理に携わるケースが増加している。さらに,デジタルカメラの一般的な普及に伴い,これまでにも増して色管理技術が重要となってきた。
 デジタルカメラのファイルフォーマット(Exif)で採用された色空間などを例にした色管理技術の流れについてソニーの加藤直哉氏にお話を伺った。

色管理技術の流れ

 「PAGE98」のコンファレンスでICCプロファイルの話をしたことがある。その時点では採用されるか分からなかったが,印刷業界では現在デファクト的に使われているようである。
 従来の印刷業界の製造工程では,慣れたオペレータが限られた機器間でつながっていたが,次第にオープンシステムになってきたため,おのおのの機器を一度正確な色再現に直すようなカラールックアップテーブル,デバイスプロファイルなどを各デバイスに用意するという考え方が出てきた。デバイスディペンデントな色空間から,デバイスインディペンデントな色空間へ変えていくことがポイントであった。

 課題としては,機器ごとにプロファイルが必要であり,メーカーのサイトからダウンロードしなければならない。ユーザも大変であるが,メーカー側もサポートするのがけっこう大変なのではないだろうか。
 また,プロファイルを作る側とCMM(Color Management Module)を作る側が違うベンダーであることも多い。この場合,整合性が取れているかという問題がある。さらに,ユーザが間違って使用したり,デバイスが安定せずにバラついていることもある。

 1990年代後半のデジタルカメラやインクジェットプリンタは,整合性が適切に取れていなかった。それぞれの機器をつないだら思ったとおりの色が出なかったという経験は,皆もっているのではないだろうか。一時,Photoshopのプルダウンメニューを見るとRGB関連が数多く出てきた時代があり,どれを使えばよいのか,ユーザが混乱してきた。そのため出てきたものがsRGBという色空間である。
 sRGBはHub空間という考え方で,やり取りする色空間を一意に決めてしまうというものである。IEC(International Electrotechnical Commission;国際電気標準会議)という団体で標準化がなされている。例えば,ソニーはCRTのsRGB対応モードを付けたり,それぞれの機種あるいはソフトウエアがsRGBに対応してきた。

 さらに,デジタルカメラの画像フォーマットであるDCF規格Ver.1.0で,sRGB準拠になった。そのような環境があって,sRGBが使われるようになってきた。
 背景としては,CRTが有力であったことが挙げられる。最近では,CRTからLCDに移行するケースが多いが,その当時,LCDはカラー画像の確認には使えるものではなかった。CRTのメーカーは限られていて,技術的にも成熟していたので,蛍光体の色度点はそれほど大きくずれない。sRGBの色度点は,世の中に出ているCRTの蛍光体の平均的なものを用いたということで世の中に受け入れられた。
 例えばそのころ,ソニーのトリニトロンで用いていた蛍光体の色度点は,AppleRGBと言われるものと近く,ほかの規格ともそれほどずれていない。それに対して,LEDその他のディスプレイになると,3つのRGBのポイントが収束していることがない。それらが拡張色空間に結び付いている。

 当初,民生用ではsRGBが普及して,色管理も一段落したが,一方プリンタでは得意な色領域が存在する。モニタとプリンタの色域は,単純にどちらが広いというより,得意,不得意がある。基本的にモニタが明るい色が得意で,プリンタは暗い色,濃い色が得意である。
 プリンタ側が広い色が入ってこないということで,sRGBは色域が狭いのではないかと,ハイエンドグラフィックスユーザから問題提起された。そこで,2000年ごろから拡張色空間の議論が始まった。
 提案はいくつかあり,RGB色空間の乱立の再来のようにも見えるが,その位置付けが異なり,使い分けがなされているので,乱立はしていないと捉えている。

sRGBから線形変換で求められるsYCC

 sYCCは,Exifでも採用している輝度(Y),色度(C)分離色空間であり,画像処理しやすい面がある。コダックではProPhotoRGBという色空間を使用している。AdobeRGBを含めデジタルカメラで用いられているものはこの3つ程度である。また,動きが始まった動画用拡張色空間xvYCCが提案されている。
 デジタルカメラのファイルフォーマット,ExifとDCFについては,1996年デジタルカメラが一般的に使われ始めたのに色が合わないということで,Exif2.0にsRGB色空間が導入された。その後デジタルカメラの色管理もそれなりに向上してきた。

 2002年,Exif2.2(Exif Print)からは,sYCCをサポートすることになった。概念的には,デジタルカメラとプリンタが両方Exif2.2に対応していれば,途中でクリップされることなく出力するというものである。さらに,2003年9月Exif2.20とDCF2.0でAdobeRGB色空間への対応が始まった。
 民生用のデジタルカメラ画像は,JPEGで圧縮された画像であるが,それはJPEGになる前にYCCという色空間に変換されている。数学的には,RGBが0〜1ではなく,マイナスや1以上を許すところがポイントになる。

AdobeRGBの有効性

 印刷業界ではAdobeRGBがデファクトのように使われ始めている。また,最近発売されているデジタル一眼レフカメラは,ほとんどの機種がAdobeRGBに対応している。これまでCMYKでレタッチしていたものをRGBワークフローと言われるように,RGBでレタッチするようになった。そのほうが,画像処理をする上で分かりやすい点が多い。
 ただし,一般ユーザに分かりやすいかというと,必ずしもそうではない。Photoshopのようにカラーマネジメントされた環境で扱わないと,AdobeRGB画像は間違った表示をされてしまう。

 例えばAdobeRGBモニタを使わずに,通常のsRGBモニタで編集する場合,見ている画像は通常のsRGBである。データだけがグラデーションをもっているのに,画面上のデータはつぶれている。マウスを動かし情報を見ながら,グラデーションが残っているのを確認し編集していく。そのようなことに慣れている人なら,データのグラデーションがつぶれないという意味ではよいが,一般ユーザには敷居が高いのではないだろうか。
 sRGBとAdobeRGBを間違えて開いた場合を考える。カラーマネジメントが適切に行われていない場合,sRGBで撮影してsRGBで開いた場合,AdobeRGBで撮影してAdobeRGBで開いた場合,この2つは正しいが,AdobeRGBで撮影してsRGBで開くと,くすんでしまう場合がある。また,sRGBで撮影してAdobeRGBで開くと,逆に彩度が上がってしまう。

 AdobeRGBは印刷工程の編集用途に使われており,印刷の色域はほぼカバーできているが,実在する物体の色域がすべてカバーできるわけではない。また,よく誤解されているのは,AdobeRGBはプロセスインク,CMYK印刷の色域をカバーしているが,逆は真ではない。すなわち,AdobeRGBで作成したからすべてそのまま出せるわけではない。AdobeRGBのグリーンなどをそのまま印刷に掛けても出ないので,そこは編集上で注意しなければならない。
 ポイントは,適材適所ということで,AdobeRGBとsYCCの使い分けがなされればよいと考えている。

(テキスト&グラフィックス研究会)

2005/05/17 00:00:00


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