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続クロスメディア,ニッポン放送vs.ライブドア その2

社団法人日本印刷技術協会 副会長 和久井孝太郎

3. 曼荼羅右半分のクロスメディア技術

マイクロソフトのMicrosoft TVを開くと,Microsoft TV IPTV Editionとしてクロスメディア技術がシステム構成の概念図付きで紹介されている。このIPTVとビル・ゲイツの志の関連で言えば,2005年4月11日号の映像新聞のインタビュー記事に要領よくまとめられているので引用したい。
カリフォルニアのマイクロソフト・シリコンバレーキャンパスにIPTVの取材に出掛けた映像新聞社に対して,グループ・プロダクト・マネジャーのヘマング・メッタ氏が次のように答えていた。

――マイクロソフトがIPTVを始めた背景は。
 「現在のブロードバンドはPCだけに目をつけているが,ブロードバンドとテレビが結びつけば,さまざまな新サービスができるはず。マイクロソフトは1997年にWebTV,2001年にアルチメートTV,02年にMSTVアドバンスドなどを送り出してきた。WebTVでインターネットとテレビの融合を図ろうとしたが,このような経験を積むことでそれぞれの技術の利点,欠点を深く理解することができた」
「それで分かったのが『利用者の方を向かなければならない。テレビはピザを注文するための道具ではない』ということだ。当社ではIPTVは次世代のテレビであると考えている。…正式には『MSTV・IPTVエディション』と称される」

――次世代のテレビとはどのような意味なのか。
「これは,テレビにPCが入るという意味ではない。テレビにインターネットからストリーミング(筆者注:デジタル信号)を流すという意味でもない。PCでテレビを見るということでもないし,ベストエフォート型のテレビでもない。IPTVは'より良いユーザー経験'をもたらすことができる'サービス'だ」

――「より良い」の意味を詳しく説明してほしい。
「われわれが言う'ベターTV'は,コンテンツは普通に放送されているものでもよい。しかし,'つながっている'ことで付加価値が生まれるように考えた。'より良い'の一例が,EPG(電子番組表)の改良だ。番組内容も一覧できる。また,既存のデジタルTVやデジタルSTB(セットトップボックス)と比べてチャンネル切り替えの速度が速いのも,大きな特徴だ。アナログ時代は,チャンネルを替えればすぐに映った。でも,デジタル放送などでは軽快に切り替えられない。ここを改善した。これで心地よくチャンネルサーフィンを楽しめる」

「VOD(ビデオ・オンデマンド)を放送チャンネルの一つとしてEPGで扱えるようにしたのも,工夫の一つ。…DVR(デジタル・ビデオレコーダー)の機能も用意されている。…ユーザーのし好データをヘッドエンド側に持ち,自動的に録画を指示する『知的処理』もある。…これまでのテレビではできなかった,きめ細かいサービスが可能になっている」  メッタ氏は「テレビの機能改良がIPネットワークを通じてサービスすることで可能になる」と言っている。

言わんとするところは,放送と通信の融合などではなく将来に発展性をもたせて,セキュリティの確保,コンテンツの著作権保護と課金を含めてきめ細かいサービスが可能になることをアピールしている。
このマイクロソフトのIPTVに最大の関心を寄せているのは,固定電話加入者の減少に悩む世界各国の大手電話会社である。IPTVのホームページを見るとマイクロソフトとともに実用化開発を進めている北米,ヨーロッパ,中東,アジアの電話会社が多数Our Customersとして名を連ねている。

なかでも,つい先ごろ米国の長距離通信事業者の雄,伝統あるブランドネームをもつAT&T社を買収して地域電話事業者から米国最大の通信事業者(SBC+AT&T社)となった旧SBCコミュニケーションズ社などがIPTVの実用化に最も熱心なようである。いずれにしても米国では,わが国とは政治や行政事情が異なるので,通信事業者とCATV事業者の競争が激化することになるだろう。

4. まとめ

IPTVは,放送業界はともかくとして,通信事業者とCATV事業者,家電業界などに大きいインパクトをもたらす可能性を秘めている。いかにも自由な競争の国,米国らしいスピーディな技術開発,システム開発である。わが国ではこのように業界の壁を越えて,全く新しいシステムを構築するのは容易ではない。
わが国では,互いに業界の既得権益を侵さず,それぞれが分をわきまえて発展の努力をするのが伝統的な文化だからだ。だから,ライブドア社堀江社長やソフトバンク社孫社長などを快く思わない人々も多い。
とは言っても,放送業界もIPブロードバンド・ネットワーク化に自ら備えなければならない。参考までに,NHK放送技術研究所『NHK技研R&D』No.90(2005年3月)における藤田欣裕著「ネットワークシステムの研究」の図を紹介して結びとしたい(図2,3)。

▲図2 放送のネットワークシステムを支える研究要素

▲図3 高度なCAS(Conditional Access System)の概要 出典:NHK放送技術研究所『NHK技研R&D』No.90(2005年3月)

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2005/05/26 00:00:00


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