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出版向け,辞書事典向けのXMLパブリッシングの実現

中間データをDTPに依存しないXMLとすることで,出版社のワークフローを効率化し,電子出版にも対応したシステムを構築した例を,壮光舎印刷の堀静氏に伺った。

出版社の要望と印刷会社の現状

出版市場は縮小傾向で,1点当たりの発行部数も減少している。出版社としては,コストを削減しながら,なおかつ品質を維持するという方策を印刷会社に求めている。さらに,電子出版などへのデータ2次利用も低コストで実現したいと考えている。出版社によっては,編集部内で内製化する方向のところもあるが,優秀なスタッフ確保や設備投資が必要になり,品質維持も容易ではなく,現実的とは言えない。
印刷会社がこれらの要求にこたえるには,完全データ入稿による制作工程の効率化と,電子出版などデータの2次利用に適したデータ保管が必要となる。また,印刷会社内でも,DTP依存形式での保管では2次利用を行う際に余計なコストが掛かってしまうこと,多様なDTPソフトやフォント,多様なバージョンへの対応を続けることなど,負担が大きい。

壮光舎印刷では,これらの課題に対処するために,XMLパブリッシングを手掛けている。入稿データ,保存形式をXMLにすることにより,組版ソフトやフォントに依存しないパブリッシングシステムが可能になる。XMLから写研のDTPにデータを流すこともできる。著者・出版社とのワークフローを効率化することができる。写研のDTPを使っているのは,既存のシステムがあり,オペレータの習熟度も高く,また,直しの効率が一番良いからである。

XML出版入力支援システムの開発

データの保存形式は,JepaXを拡張したXMLを採用している。JepaXは,日本電子出版協会が作成した標準フォーマットだが,これだけでは不足があり,注釈とか図版の貼り込みの部分,Texに対応できるよう拡張している。
入力ツールは,著者が入力することを前提にしており,操作性もWordに似たものとなっている。書籍の論理構造として,章,節,項を設定できる。壮光舎印刷では学術書を扱うことが多く,Texで入稿されることも多い。外字については,今昔文字鏡の外字を著者が選択して入力できるようにしている。書籍向けのXML入力支援システム「ASP-Editor」と,辞書事典用のXML入力支援システム「DicASP-Service」がある。

ASP-Editor

ASP-Editorの目的は,編集者の負担軽減,印刷会社の負担軽減,納期短縮,マルチメディアへの対応である。品目としては,一般書籍,学術書,理学書などを対象にしている。モノクロ,2色・4色のカラー書籍にも対応できる。縦組み・横組み,2段組みなど,書籍のスタイルを登録することによって,どんなものにでも対応できるようになっている。
システム全体は,著者が原稿執筆のために使用する入力ツールASP-Editor,XMLデータを一元管理し自動組版を行うASP-XMLサーバ,編集者がサーバにアクセスして進捗確認などを行うASP-Serviceから構成される。ASP-Editorは著者に無料で貸与している。ASP-XMLサーバは,WebサーバとXMLのDBサーバ,自動組版のサーバから構成されている。

著者がASP-Editorを使用して,原稿入力すると,それがXMLデータになってサーバにインターネット経由で転送される。サーバはデータを受け取ると,あらかじめ編集者と印刷会社が打ち合わせし,登録されたスタイルに従って自動組版を行う。その結果はPDFとして生成されるので,編集者・著者が校正を行うことができる。
そのサイクルを回して,文字校までを完全に著者にしてもらう。編集者がOKを出すと,印刷会社にてXMLデータから組版ソフトへのデータ変換を行う。写研システム,InDesign,その他の組版ソフトに持っていくことができる。壮光舎印刷は,現在は写研と自動組版エンジンのDiovを使用している。

ASP-Editorの特徴は,著者が入力したものが自動的にXMLになることで,タグを意識せずに書籍の構成に従った入力ができる。Texの数式,外字も入力できる。ASP-Serviceは編集者が進捗管理を行うためのサービスで,出版社の管理番号と連動し,著者がどのくらい入力したのかも参照できる。原稿の受け渡しや校正作業もWebを経由して行うので,全体工程の短縮ができる。著者がまだ途中でも,途中の結果をPDFで見られる。

ASP-XML Serverの自動組版サーバは,出版社ごとの組版ルールを定義できる。点丸,ですます調といった用語の統一や語尾の統一も出版社ごとに定義できるので,自動組版の段階で統一を掛け,PDFを作ることができる。ASP-XMLサーバ上ではXMLデータとして管理するので,プラットフォームに依存せず,マルチメディアへの展開がスムーズに行える。また,著者,編集者はソフト,フォントを準備する必要がなく,Windows PCとWeb接続環境さえあればよい。
このシステムの課題は,自動組版の完成度で,例外処理に対応できないということがある。例えば,この章だけ写真の位置を変えたいという時は,最終のページアップの段階で手を入れなければならない。すべて統一されてしまうので,そういうことは不得手である。また,ページごとにレイアウト体裁が変わるような月刊誌や週刊誌にも不向きである。
本稼働しているのは10社程度で,例を挙げると大修館書店の本がある。3種類の英語の教材で,本を作ると同時に電子出版したいという要望であった。XMLデータから組版コマンドに変えて組版し,なおかつXMLデータから電子出版用のデータに置き換えたケースである。

DicASP-Service

書籍向けとの違いは,自動組版がないことである。ASP-Editorも使わない。インターネット上でブラウザを開くと,入力フォームが出てくるので,それに従って入力する。そのデータがXMLとして管理され,サーバに蓄えられる。
従来の辞書事典の場合はカード形式の入力を行っていたが,それがWeb上ででき,最終的にソートしてプリントしたりする仕組みである。本稼働中だが,辞書事典はサイクルが長いので,まだ本にはなっていない。
操作手順は,IEを起動して辞書事典のサイトに入り,IDとパスワードを入力する。そうすると,執筆可能な辞書の一覧が出てくる。アクセスした人の権限によって,分類や記事の番号を登録したり,記事のタイトルを登録する画面が出てくる。
辞書事典の項目入力をしようとすると,入力可能な記事が表示される。この記事は,インターネットを経由してサーバにアクセスして持ってきたデータである。既に登録された項目に対して内容を追加入力をする。

辞書事典の場合,棒組みで確認する場合が多いため,簡易組み表示機能がある。事前に何字詰めという定義を行う。20字詰めと定義すれば,そのように簡易組版した結果が表示される。例えば推定行数42行,文字数650字,図版としてはJPEG画像が3つという組版結果が表示される。その画面からプリントアウトもできる。
このシステムに直接入力せず,Word上でルビやアンダーライン,強調文字などを含めて入力し,XMLに変換して登録することもできる。その場合,Wordで作ったXMLは複雑なので,不要なものを削除するというソフトも用意している。

(Jagat Info 2005年5月号より)

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2005/05/29 00:00:00


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