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御用聞きがECに変わる日

日々のニュースでEC(電子商取引)の話題はこと欠かないが、印刷関係の業界でECがピンときているかどうかは疑問である。ECは新しいビジネスネタという捉え方もあり、ECによって新しい客が見つかって受注拡大するとみるかもしれないが、逆に既存のビジネスを侵食する莫大な力と考えた方がよい。

電話やFAXができたからといって受注が増えるわけで無いように、印刷受発注にECが使われだしても印刷物の総量は変わらず、ただEC化で人間の御用聞きに注文の電話がかかるのが減るだけである。ECが電子商取引のことであるなら、従来の仲介者である営業のコンピュータ化がECであるともいえる。

ECというのは漠然とした定義で、引き合い、見積もり、契約、制作の進行、校正、請求・決済の全過程で、顧客サポートやサービスを含む。従来は原稿や校正ファイルの転送程度にしか通信を使っていなかったのが、印刷発注者は印刷会社のコンピュータに問い合わせて仕事をし、印刷会社は発注者のコンピュータの生産計画や発注予定をみて準備をするというのがECのゴールとなる。

ECが直接メリットを出せるのは、営業のカットに他ならない。これは時間的にもコスト的にも大きな改善が期待できる。すでにコンピュータ化している生産工程は、次第に改善の余地が減って厳密な管理をする以外に道はないが、営業はまだ「濡れ雑巾」で、いくらでも絞れると見られている。

例えば部品代の原価が3万円のものが、工場出荷価格が6万円になり、複雑な流通ルートを通って、その間に広告宣伝費も入って、小売価格が12万円というモデルを考えると、インターネットで工場直売をすれば、ものすごく競争力がでる。これこそDELLが先んじて行ったことであり、パソコンという商品の半分はこのような流通になる。

このECのパワーがいろんなビジネスに波及しようとしているのである。まずBtoC(個人向け)とBtoB(ビジネス向け)では事情は大きく異なる。印刷物でも個人需要と法人需要では比べ物にならないように、ニュースとしてはAmazonなどのBtoCが多く取り上げられるが、実際に行われているECとしてはBtoBの方が圧倒的に多い。

パソコンの直販が当たり前になったあとの競争を考えてみよう。DELLの場合でも仕入れ、製造のところのEC化が競合パソコンメーカーとの差別化になる。これはよくいわえるSCM(サプライチェーンマネジメント)である。要するに競争激化した先には、個別企業内の最適化ではなく、業務関係にある業者間の密な結合によって、全体の最適化を目指すようになる。この最適化のコントロールはネットワークとコンピュータを使った仕組みによって行われる。

ECの潜在的な力が巨大なものとしても、現実に立ち向かおうとするとアレがダメ、コレが困難という「ネガティブリスト」作りをしているのが日本の旧来のビジネスである。しかしそれはECの波及を遅らせる時間稼ぎでしかなく、BtoBのECは確実にやってくる大波である。アメリカでは、AmazonやeBayの成長をみて各産業分野にもECのモデルができつつある。印刷分野でも、印刷発注に対して印刷会社や資材会社が競争入札する PrintBit、PaperDealsを始め、印刷受発注とその後の進行の面倒までみるCollabria、Impresse、Noosh、また印刷資機材のオンライン販売、コンサルティング、情報提供などが1999年後半に一挙に出現した。

これらはまだ原始的なサービスであったり、利用上の制約が多かったりするが、DTPがオープンシステムになってファイルの互換性も次第にとれるようになったごとく、ネットワークを使った広域での印刷物制作共同作業ができるようになるのは時間の問題である。日本でも高度化し多様化するニーズは1社ではまかなえず、他社との提携をするスタイルを多くの会社が考え始めている。これは実はECのテーマとして考えるべき問題なのである。つまりこれからのソリューションのほとんどはEC抜きには語れないところまできているのである。

印刷のECについては、PAGE2000の【電子受発注】トラックをご参考ください。

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また別に 参考記事があります。

2000/01/12 00:00:00


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