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水なし印刷の変遷と顧客から注目されるバタフライマーク

ここ1,2年,水なし平版への関心が高まっている。技術面での改良は以前から進んではいたが,今注目されるのは環境負荷の観点からのようだ。ここでは水なし平版の技術的な変遷と最近の諸事情について述べる。

当初からあったいくつかの問題点

 水なし平版は,1970年代前半に都内のある印刷会社と版材メーカーの共同で研究された。最初に印刷した時は版のシリコン層がはがれて3枚しか印刷できなかった。それから,印刷会社では刷りの研究,メーカーは材料の研究を重ね,1977年のDRUPA77で初めて発表された。
 その後,材料・機械・印刷方法のノウハウが蓄積され,最近では環境負荷の観点から注目を集めている。発売当初は水なし平版もインキのタックが高く着肉が悪かったり,特色インキの種類が不十分,UVインキに対応し切れていない,紙粉や地汚れを拾って汚れが出るといった問題点もあった。このような問題点も,既に解決されているものと解決されていないものがある。

印刷機とともに改良されたインキ

 当初からあった問題点で今では解決されているものとして,まず印刷機の冷却の問題がある。水なし平版は水がないため必然的に版面とインキローラの温度は上がる。そのためタックの高いインキを使わざるを得ず,地汚れ,画線部の汚れ,キズの原因になった。 インキは枚葉だけでも黎明(れいめい)期から4世代代わっている。当初は,機械の温度に対応するため午前用午後用のインキがあったくらいだ。
 しかし,インキ面からだけでの解決は難く,印刷機械側が冷却装置やマルチ温調を装備することによりインキの温度コントロールが可能になった。
 現在では工場内の空調と印刷機のセッティングが正しければ問題はない。 特色やUVについて,当初は水なし専用のインキを製造するメーカーも少なかったが,現在では多くのインキメーカーが対応している。

頻繁に行われた版の改良

 版は細かい改良が多く行われていた。その中で大きな改良が一度あった。それまでは水なし平版はドットゲインをあまりしないことから,水あり平版とは色の再現性が違っていた。そこでメーカーではもう少しゲインするように改良し,水あり平版と見た目はあまり変わらないようにした。現在では版の種類は豊富だ。特定の印刷会社専用の版もあるくらいだ。
 水なし平版の現像は物理的なものである。ポジタイプもネガタイプもともに画線部となる部分のシリコン層をかき取ることによって平凹版に現像する。
基本的に水なし平版は,シリコンを硬くすると画線部となる穴は彫れない。柔らかくして穴が開きやすくなっても問題がある。常にその責めぎ合いで改良が行われてきた。

完全には解決されないゴミ・汚れ・静電気

 紙粉やゴミ,静電気については以前ほどではないが,今でも解決し切れていない問題だ。露光時にゴミがあるとピンホールのような凹部ができ汚れの原因となる。また印刷時に紙粉が付くと,シリコン層が削られて穴が開き画線部となって汚れになってしまう。
 最近は,印刷機に紙粉やゴミ取り装置が付けられているためかなりこの問題は解消されている。特にCTP(Computer to Plate)になってからはゴミも付きにくくなった。しかし,紙粉やゴミはどうしても出ることがあり,非画線部を削って画線部にしてしまう。 その場合は,機械を止めて専用の修正液で開いた穴をふさぎ,画線部を非画線部に戻す作業をする。
 いずれにせよ当初ゴミによるトラブルはあったが,現在では作業の妨げになり,または不良品が出るという大きな問題はなくなった。ただ,完全に解決はされていないということだ。
 静電気対策については,工場内の環境をしっかり整えることが最低条件だ。インキと用紙は温湿度の影響を受けやすいため,工場内は湿度60%前後,室温25度前後に1日中保てるように空調設備に十分配慮しなければならない。

注目されるキーレス

 通常,オフセット印刷機ではインキ供給部に「ツボネジ」があるが,「ツボネジ」がない「キーレス」が注目されている。これにはKBA社が開発したグラビュフローというインキングシステムであり,1998年に発表された一体型DI機(Digital Imaging press machine)74Karatで採用された。
 このシステムはピストン型のインキカートリッジで圧を掛けてインキが出され,ドクターでかき取られ表面が凸凹のアニロックスローラの凹部に堆積され,その後着けローラに移り,版・ブランケット・印刷というコンパクトな構造になっている。
 また,74Karatの版はレーザ・アブレーション方式でレーザにより版面を焼き飛ばして画線部を形成する水なし平版が使用されている。この版材は無処理タイプであり,ゴミを処理すれば現像プロセスが不要という特長がある。ほかの多くの一体型DI機でも機上製版の優位性や自動化の特性を生かすためにレーザ・アブレーション方式が採用されている。
 前工程のデジタル化によりCTPの環境が整備されつつあり,ツボネジを始め印刷機の設定は変えないというのが基本的な考え方になってきている。オペレータの高度な技術も不要,CMS(Color Management System)が確立され,変動要素が大きい湿し水の管理が不要となると上記のようなDI機で水なし平版はその威力をさらに発揮するのではないか。今のところ,この印刷機のメリットは海外では聞かれるが,日本独自の事情もあるためキーレスの評価は国内の稼動実績に基づいてなされるべきだ。

バタフライマーク掲載は世間の要請  WPA(Waterless Printing Association)は,1993年に水なし平版を啓もうする団体としてアメリカで結成された。現在ではアメリカ・ヨーロッパ・日本と世界に3つの組織がある。
 2002年に発足した日本WPAでは当初,生産設備をもっていないブローカーや水なし平版印刷をやっていない印刷会社の加盟を認めていたが,現在では環境保全に積極的に取り組み自社内で水なし平版をできることを条件に加盟できる。
 水なし平版印刷を認証するWaterless Logoであるバタフライマークの商標をもっているのがアメリカWPAだ。バタフライマークを使用するためにはアメリカと日本の2つのWPAに加盟しなければならないが,日本WPAに申し込めば両方の手続きが可能だ。
 加盟すると,ID番号を与えられバタフライマークの使用権が認められる。ID番号を付けることにより,その印刷物がどこの印刷会社が受注し印刷されたかを証明するトレーサビリティとして有効だ。
 また加盟すると印刷会社の規模によって毎月会費を支払うことになるが,加盟している会社は最近急激に増えている。
 加盟する印刷会社が増える理由として,顧客からバタフライマークを入れるよう要請が増えていることがある。世の中が環境問題には敏感になっており,顧客も環境保全に配慮している旨を積極的にアピールする手段として考えている。
(取材協力:文祥堂印刷,文責:伊藤禎昭)

2005/06/04 00:00:00


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