本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

遊び心でクロスメディアに挑戦

印刷業界の枠を超えて,さまざまなビジネスに挑戦する印刷会社が増えている。印刷業を本業と考え,印刷物の付加価値向上や付帯サービスの観点から取り組む企業もあれば,本業にとらわれないでメディア展開の一環と位置付ける企業もある。
印刷を中心とした「遊び」をクリエイトするアートプレストは,さまざまなメディアの可能性を探り,クロスメディアへの挑戦を進めている。

印刷を中心とした「遊び」をクリエイト
東京・蔵前のアートプレスト(代表取締役社長 杉浦輝夫氏)は,バンダイ・バンプレストグループの印刷会社として1983年に設立された。グループ企業のキャラクター商品のポスター,パンフレットなどの印刷物や販促物を手掛けてきた。現在の主な事業は,パッケージ,カタログ,チラシ・ポスター,トレーディングカード,POP,文具,がん具,ノベルティグッズ,販促物,ホームページ,キャラクター待ち受け画面などの企画,デザインである。従業員は約70名,営業部とデザイン部が各30名,役員・管理系が10名の構成である。
アミューズメント企業のバンプレストが親会社であることから,アートプレストは印刷を中心とした「遊び」をクリエイトするエンタテインメント企業を目指している。「印刷業界の枠を超え,さまざまな媒体の無限の可能性を引き出すために,常に時代の先端と遊び続けている」。
デザイン部次長の泉公徳氏,同部課長の大槻学氏,営業3部企画の澤山裕一氏に,同社のニューサービスを中心に事業展開を伺った。

中国で画像切り抜きサービスを展開
アートプレストが提供する画像切り抜きサービスは,デザイナーがカタログなどに載せる画像の切り抜き時間に多くを割かれていた折り,中国のSKD(瀋陽木本データ有限会社)と知り合ったことから始まる。SKDは株式会社きもとの100%出資の子会社として,1991年瀋陽に設立された現地法人で,地理情報システムのソフト開発,データベース構築などを行ってきた。現地オペレータのさらなる活用のためにDTP部隊を設立し,DTP受託を行うようになった。
アートプレストではSKDと技術提携を結び,瀋陽に社員を派遣し,自社のノウハウと技術指導を行い,さらに安定した品質を確保できる体制を組み,同じようなことで困っている印刷会社,広告代理店などに向けて,画像切り抜きサービスの提供を開始した。SKDでは30〜40名のオペレータが人海戦術で切り抜き作業に取り組む。低コストが最大の売りものだが,短納期とセキュリティの高さも大きな特長である。
顧客は,専用のユーザIDとパスワードで画像をアップロードし,専用のWebページから作業指示書を入力すると,設定納期には切り抜いたパスデータ付き画像をダウンロードできる。取引を開始する前には試用期間として,無償で仕上がりを確認し,クオリティのすり合わせをすることもできる。
SKDはもともとGIS関連のデータ入力などを行ってきたことから,データ流出には最新の注意を払ってきた。例えば各オペレータのPCはオフラインで,データの送受信はリーダーのPCからしか行えない。インターネットを利用することで,輸送コストが不要で短納期が可能になるだけでなく,HTTPSで通信することで漏えいなどからもガードされる。また,親会社がフィルムを中心としたグローバルメーカーのきもとなので,ほかの印刷会社に出しづらいデータでも第三者的に対応できる。
当初は言葉の壁があって,微妙なニュアンスが伝わらないこともあったが,徐々にノウハウも蓄積されてきた。画像切り抜きだけでなく,画像合成や色彩変更,着彩などのニーズも多く,この2年間で顧客は約20社となった。今後はデザインなどにも取り組む考えである。

印刷物と携帯電話を結ぶ新サービスの提供
2004年には,新しい事業としてピクチャーアルファを立ち上げた(http://www.picturealpha.com/)。ピクチャーコードと呼ばれる電子透かしを埋め込んだ画像をカメラ付き携帯で撮影するだけで,インターネットに接続し,自動的にコンテンツが配信されるサービスである。共同印刷と業務提携し,同社が開発した電子透かし技術「ワープショット」を使用している。
ピクチャーコード入り画像を専用アプリPP-APLIで撮影し,撮影画像を送信すると,管理サーバで認証・解析し,コンテンツが表示される。事前にPP-APLIを取り込んでおけば,携帯で画像を撮影するだけで,コンテンツが自動再生され,サイトに接続される。つまり,接続先の2段階設定が可能なため,CMムービーでイメージアップを図ってから,キャンペーンサイトに接続するなど,ユーザ操作が主導の通常アクセスとは違い,目的のページまで100%誘導することができる。
ピクチャーコードは通常の4色印刷が可能で,墨1色にも対応し,オフセット印刷,グラビア印刷,シルク印刷など,あらゆる印刷方式に対応している。さらに,画像に直接埋め込むことができ,コード掲載のためのスペースを設ける必要がない。推奨サイズは40mm角だが,その約50%の切り抜きも可能で,切り抜きや埋め込みをしない場合の最小印刷サイズは約20mm角になる。
先行するサービスとしてQRコードが無償提供されているが,QRコードはコードに含まれる文字情報を読み取るためのツールに過ぎない。コード化するテキストを用意し,QRコードの作成から,対応キャリア分のサイトの制作やコンテンツ制作,動作検証まで,利用者側で行う必要がある。
ピクチャーアルファの場合,印刷物の色校正時の動作確認から,コンテンツの更新・変更,公開終了まで,アートプレストが責任をもって代行する。つまり,単なるツールではなく,携帯電話を利用した情報提供のための総合サービスとなっている。コードの埋め込みや形状が自由自在で,デザイン・レイアウトの自由度が高いだけでなく,ピクチャーアルファ利用に関するすべての登録・検証を代行している点が大きな違いなのである。
ピクチャーアルファの基本パッケージには,コンテンツ登録用サーバが用意されているので,独自ドメインや自社サイト,サーバは不要で,コストと時間を抑えることができる。コンテンツの自動再生後にサイトへ移動する2段階アクセスを利用すれば,自動再生部分での広告展開が可能となる。アクセス制限やアクセス解析,サービス制限も行えるので,不正アクセスやコピーの心配もない。
また,サーバに登録されたコンテンツを入れ替えることで,配信コンテンツの随時変更ができ,印刷後,配布後にも登録データを更新するだけで,配信内容を変更できる。一つのコードに複数のコンテンツを登録し,ランダムに自動再生させることもできる。
サービス開始当初はNTTドコモのみだったが,au,Vodafoneとの対応も可能となり,さらに利用者の広がりが期待できる。小学館のグラビア誌や新作ソフトの告知などに利用されているが,さらに認知度を上げ,新しい利用法の提案も積極的に進めたいという。オプションサービスとして,オリジナルサイト,システムの制作・運営,アクセスデータの分析など,サービス利用の企画立案も提案している。

JAGAT info 2005年6月号より

2005/06/24 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会