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Webサイトを利用しての新規顧客開拓実現〜商圏を広げたWeb活用〜

いばらき印刷株式会社

Webサイトを利用する印刷受注は,当然のことながら距離の障害を超える。東京・大阪周辺と比較すれば仕事の数は圧倒的に少ない地方印刷会社にとっては,従来,商圏を広げるには支社・営業所を設置する方法が最も現実的であった。しかし,インターネットの登場によって,地方にいながらにして東京や大阪の仕事が受注可能になった。
茨城県東海村にあるいばらき印刷株式会社は,水戸,日立,筑波,ひたちなかと県内主要都市に営業拠点をもつが,Webサイトでの受注を開始したことにより,東京周辺ほか県外からの受注も伸びつつある。同社の受注サイトを立ち上げた常務取締役の椿本学氏と,Web受注を担当する制作課大部明係長にお話を伺った。

手探りで始めたWebサイト活用

同社は従業員が約60名,年商は6億1000万円という中堅印刷会社である。東海村に立地するということから,同村に立地する原子力関係の企業や研究機関,そのほかに官公庁が主な得意先となっており,会社案内や報告書,研究レポートなどが制作物の中心になっていた。これまでは前記以外の一般企業との取引は少なかったが,企業のコスト削減やパソコン,プリンタの普及によって1色の報告書,研究レポートなど,顧客自らが作成するようになってきた。今後はそのよう仕事が徐々に減っていくことも予想されるため,新たに顧客開拓を考えなければならず,急速にインターネットが普及しつつあったことで,2001年2月に椿本常務が一人で印刷物受注のためのWebサイトを立ち上げた。
当時はインターネット受注サイトが増え始めたころであったが,まだまだ競争相手は少なかった。立ち上げた当初は月に数本程度の受注があるに過ぎなかったが,当時はgoogleなどの検索エンジンサイトの広告もなく,どのようにPRをしてよいか模索状態であった。雑誌広告なども行っていたが,あまりレスポンスはなかったようだ。しかし,徐々に受注が伸び始める。
2003年には,月に30〜40件ほどがコンスタントに受注できるようになり,Web受注が軌道に乗ってきたと確信できた。その後も,受注件数は伸びており,前年比で130%,現在は月に100件ほどの受注になっている。
「もともとWebでの受注は通常の業務に優先したわけではなく,どちらかと言うと片手間の仕事といった感覚でした。
当時,受注の先行きが不透明な中で,新規開拓のつもりで始めました。最初は手探り状態でどうなることかと思いましたが,現状では当初の目的は達成できたのではないかと思っています。そういう意味で言うと,第1段階は何とかうまくいった。今後より受注を伸ばすための第2段階がこれからだと考えています」(椿本常務)。

顧客の中小企業で,チラシ・パンフレットが主流

Web受注の顧客については,70%が中小企業,29%が個人・個人企業で,残り1%が大企業という割合になる。顧客の地域についてはやはり東京,神奈川,埼玉など首都圏からの仕事が多く,数は少ないが北海道から九州・沖縄まで全国から受注の実績がある。
受注している製品については,原則としてカラーもののみの受注に絞り,パンフレットやチラシが主流で,部数は1万〜3万部程度のものが多い。
受注の受け付けは基本的には同社の営業時間内となるが,原稿の入稿に関してはメールなどで随時受け付けしている。同社の場合,ほとんどの顧客が発注や入稿の前にメールや電話で事前に問い合わせしてくる場合が多いので,その辺の受け付けについては問題になることはない。
Web受注を担当するのは椿本常務と大部氏の2人で,データの受け付け,連絡・折衝などを担当する。当初はサイトを立ち上げた椿本常務が一人で運営していたが,受注が増えたために大部氏が新たに加わり,主にリピーターの顧客は椿本常務が担当し大部氏はWeb受注の専任で新規受注を担当している。同社にはほかに11名の通常スタイルの印刷営業がいるが,Web受注には関わっていない。
受注は原則としてデータ入稿で,メールやFTP,無料データ送信サービスと宅配便などが利用されている。その内訳は宅配便が7割で,残りはメール,FTPなどになる。同社の場合には比較的厳しいスケジュールで進行するものは少ないことから,ネット経由での入稿よりCD-ROMなどが宅配便で送られてくることが多いようだ。
納期は入稿日からの4営業日目に発送するというスケジュールになっているが,顧客とのやり取りで納期が調整されることもあるようだ。
データのアプリケーションの種類としては,件数比率で言うと6割程度がOffice系で,残りがDTP系のアプリケーションになる。顧客の制作担当者がほかの社内業務と兼務してデータを作っているようなケースでは,Office系のアプリケーションを使用している傾向が高いようだ。一方,リピーターの顧客になるとIllustratorの使用が多く,ページものの場合にInDesignかPageMakerになる。これはある程度の印刷物のヘビーユーザ企業となると,制作関連,あるいは制作に精通した人員を抱えていたりするということがあるからだろうと見ている。OSについてはOffice系のデータが多いこともあり,Windowsの割合が高く,DTP系のアプリケーションで作成されることが多いリピーターでも,WindowsとMacintoshの割合は半々ぐらいとのことである。
入稿データに関しては,ホームページでデータ制作や入稿の際の注意点を掲載しているが,やはり現実には修正のないデータの入稿となると難しい。
同社の場合はホームページ上に,発注書を載せて,これに入稿データの仕様を記入してもらう。ほかに出力原稿も用意してもらい,制作部門でデータチェックを行う。修正の必要なデータに関しては,原則的に同社で修正しているが,別途修正料金は請求してはない。 その後,出力を行い顧客の出力原稿と照らし合わせて確認を行う。ここで問題がなければ,CTP出力を行い,印刷・製本に回る。PP・型抜きなど一部の加工を除いて印刷・製本はすべて社内で行っている。4色機は菊半裁機2台,四六半裁機1台,ほかにA全の単色機2台とA3の単色機1台を保有している。
「中小企業のお客様が主流なので,どうしてもWindowsでMicrosoftOffice系のデータが多くなります。そうしますと,やはり完全データでの入稿を建前としていますが,実際には入稿してそのまま印刷できるという完全データは少ないのです。
また,修正はお客様側で行ってもらえれば,そのほうがよいのですが,お客様に十分な印刷知識はあるとは限りません。こちらから説明するにしても,どうしても印刷のルールで説明することになって,お客様にうまく伝わりません。例えば,入稿されたデータの配置画像がコピーアンドペーストされたもので72dpiであったと。このまま印刷するとモザイクが出てしまうので,お客様に高い解像度のデータを要求しても,その高い解像度とは何かが分かっていないのです。その場合,お客様の印刷知識レベルに合わせて対応しないといけないのですが,十分にご理解いただけない場合もあります。ですから,不完全なデータだからといって,お客様側ですべて直しもらうということは,いまのところ現実的対応ではありません」(大部氏)。(※続きは本誌にて)

『プリンターズサークル』6月号より

2005/06/19 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会