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印刷CIM で全体最適を目指す

印刷CIM で全体最適を目指す 6/21に大阪で「JDFフォーラムジャパン公開無料セミナー」が開催(写真下)された。公開無料セミナーの趣旨は、印刷CIM に対応するMIS のあるべき姿や、生産の自動化、JDF の役割りなどについて、印刷企業の経営・幹部の皆様に正しく理解いただくことであった。同じ催しは名古屋(2005.7.5)、東京(同7.14)でも行なわれた。



1.オリエンテーション(JAGAT)
「MISをこう変えるJAGATの全体最適化」ではデジタルネットワークを基盤として、さまざまなITを活用した新たな仕組みによって情報流通におけるボトルネックを解消し、情報の有効活用も可能して、従来にないコストダウン、ミス・ロス削減、顧客満足向上、あるいは新たなビジネスモデルを構築すること。その範囲は自社のみならず、外注先、資材調達先、顧客にも及ぶものとして組み立てていく。新しい仕組みには、JDFワークフロー、CIM、EC/EDIなどのIT技術が応用される。その中核は各社のMISである。


2.4つの最重要課題
大日本スクリーン製造(株)メディアテクノロジーカンパニーIT部 大屋氏からは、JDFワークフローを効果あるものとするためには、4つの最重要課題があるとうことが解説された。これらは(1)紙伝票による情報伝達の遅れ、(2)自動処理の更なる推進で自社の強みの発揮、(3)製版、印刷、加工工程間での製版データの共有化、(4)段階的なJDFワークフローの構築である。

その他にも5つの課題があって、これら9つの課題を解決するには、(1)自動化による処理効率化では、MISからの作業指示でJOBデータを即作成することで、手入力によるJOBの作成時間がゼロになり、トータルプロセスの時間圧縮を行なう。(2)ミスの低減ではミスオペレーションの低減によるトラブルや直しが減少して信頼性を向上する。(3)弱みの明確化では、JDF連携で進捗管理・実績分析して自社のボトルネックと投資個所を明確にすることが必要であるという。
また、国内、海外の導入事例も紹介され、大阪の(株)アーツからは経営者の声がビデオで紹介された。


3.海外事例と導入の効果について(1)
ハイデルベルグ・ジャパン(株)JDFワークフロー専任部長 本田氏からは、ドイツの100人クラスの印刷会社でのJDFワークフロー導入の報告があった。また、内容的に配布ができない経営数字のデータも、画面でプレゼンされた。事例はドイツの大きな地方都市の旧市街地にある印刷会社で、都市部にあるので人件費及びスペースコストは非常に高く、狭い場所で多くの仕事をこなすということを常に挑戦している。しかも ポーランドやロシアなど東欧からの低価格プレッシャがある。価格競争が激しく、結果的には利益につながっていない。全ての受注情報が、わずかな時間に従業員達の中を流れていく。トラブルやミスなしで業務を遂行する必要性があるために、ROCが悪化し、何かあっても問い合わせる時間は殆ど無く、製造は効率的にする必要があったという。

それでは何故 JDFがこれらの問題解決につながるのかについて、全ての受注、製造、生産に必要な情報が一つのJDFに収まること、それぞれの工程において新たな情報を付け加えられること。標準化されたデータフォーマットであるが故に、様々な工程や機械をつなぎ合わせて、プロセスのコントロールが可能で、おのおのの工程において、必要な情報が全て揃っているため、無駄な質問や答えをする必要がなくなるなどの効果がある。

データによって機械・装置がプリセットできるので稼働率が向上し、時間の短縮につながり、さらに効率的なプロセスの実現で、正確な原価計算の為のデータを入手できる。同社が統合化されたワークフローソリューション(JDF)に投資した理由は、プロセスの効率を向上し、プロセスコストを削減して透明性を高め、実績把握が可能で測定可能にするためである。顧客や個人に関する情報も提供できるようになるなど、顧客との関係の強化など顧客メリットが改善し、ビジネスと製造プロセスを結合するためでもある。

工場内をMISを中心にしたJDFワークフローにすることによって、製版部門ではMIS、CTPワークフロー、面付けシステム、CTPが全てMISからのテンプレートで動くように統合された。印刷部門では印刷機の完全プリセットが行えて、稼動状況の常時モニタリングが可能になり、製本機も同様なことができるようになった。
このようなJDFワークフローによって、MISとCTPワークフローで二度入力していた情報が一回で済み、入力ミスが減って、情報がより正確になるなどの付加価値が生まれてきた。仕事の変更にも素早く対応でき、データの正確性のおかげで印刷前準備時間が大幅に短縮され、カラープロファイルの集中管理もできるようになった。そして、プロセスの透明性が向上してきたという。

JDFの導入で何が一番難しかったのは、普遍的な参考書などはなく全て自ら導入を進めなくてはならないこと、ワークステーションと印刷機械などのインターフェースやソフトウェアの接続性については前もってテストが必要なころと、それぞれの分野では専門家がいたとしても、結局全体を把握してそれらを統合出来るスキルを持った人は少ないなど、専門家同士をコーディネーションするのに時間がかかるという。社員教育は、思いつきではなく、時間をかけて集中的に行う必要もある。

JDFのような標準化されたオープンフォーマットを利用する利点は、クローズドなシステムに比べて、リスクを回避し安全な投資であるということだという。そして。今実現されていない要望についても、オープンスタンダードであればいずれ実現出来る可能性があるという柔軟性も利点である。

同社からのメッセージ
・JDFをプロセスの再構築のためのチャンスと認識しよう
・JDFは経営のツールである
・プロセスの最適化はコストの削減である
・透明性の高いプロセスをもって、クライアントとの関係を強化しよう


4.海外事例と導入の効果について(2)
JDFワークフローを実際に導入しての効果が北米の印刷会社でも見えてきた。クレオジャパン(株)マーケティングマネージャーの平田氏からは3社が紹介された。

商業印刷A社(売上約66億円)ではオペレーションコストが年間で2億円削減でき、納期を2日間短縮、営業的には新規顧客の受注を15%増加できたという。

出版印刷B社(売上約36億円)、社員233名では、年間1.6億円削減のコスト削減ができて、納期も2〜3日短縮、新規顧客の受注を30%増加、3.5%の人員削減と1人あたりの売上が27%ほど増加できたと言う。

商業印刷C社(売上約22億円)、社員60名では、年間コストを約6900万万円削減し、納期を2〜3日短縮、営業的にはMISによる実績把握の精度が向上したことで請求の精度も向上したという。これらをまとめると、NGPコンセプトのワークフロー及びCIMソリューションは、クライアントへのコンタクトから製本出荷までの業務の90%影響を及ぼし、その効果はCTP導入以上の効果を上げている。

また、NGPグループ(JDF対応ベンダーのグループ)が51社になったことが報告された。グループでは、できるだけ速やかに異なるベンダー機器やシステムをJDFで統合して、印刷会社の業務を横断するネットワークを構築することを目指している。

NGPでは、プリプレス工程では、PDF/Xの生成・プリフライト・アップロード・ジョブへの登録を自動化することで、入稿データの問題を減らすだけでなく、データの受け渡しにかかるコスト削減もできるという提案を行なっている。デジタルライブラリー化された折り丁と版面設計から、JDFに従って面付けテンンプレートデータを作成することで、折り丁・版面設計の作業負荷が低減、入力ミスよる無駄を排除する。

そして、JDFの情報に従って自動面付け、デジタル・インキー設定出力によって、指示ミスによる直しを削減、初校から下版までのリードタイムの短縮、校正の宅配コストの削減、入力ミスによるヤレを防止、作業効率のアップによる時間短縮、各生産工程へ必要な情報をタイムーに配信し、経営管理部門へ正確な情報が提供できるという。


5.JDFワークフロー導入の4つのパターン
(株)ホリゾン 販売管理部 マネージャー 衣川氏からは、加工機から見たJDFワークフロー導入の4つのパターンが提示された。

(1)工程設計ソフト(プリプレス)からポストプレスへ
   工程設計ソフトで作成したJDFをポストプレスに投げる場合
(2)MISで全ての段取を作成からポストプレス
   MISで全ての段取りを作成してポストプレスに投げる場合
(3)MISで全ての情報を集約してポストプレスへ
   MISで工程設計ソフトの情報吸い上げ、まとめてポストプレスに投げる場合
(4)MISの粗段取り+工程設計の詳細情報をポストプレスへ
   MISから粗段取り情報のJDFファイルをポストプレスに投げ、詳細情報はID合わせで工程設計ソフトからJDFファイルで受け取り、ポストプレス側で連結する。

この4つのパターンになかで、1と4が現実的ではないかという。

JDF導入の最初のステップとして、1のパターンがある。このパターンでは、面付けソフトや工程設計ソフトでJDFファイルを作成して、JDFファイルでありながらPPFファイル的な一方通行での運用方法にする。製本機を動かすためだけであれば、この方法で十分で最も理解しやすく導入も比較的楽に行く。しかしJDFワークフローとしては機能が限られ、MISとの連携になっていない。

4のパターンはMISがコントロールセンターになっていて、受注が入った時点では印刷工程への指示を細かいパラメータは入れずに工程日程だけをして、プリプレスの指示は指示として出して作業を進め、その後、プリプレス作業が終った段階で、印刷の作業指示を上書きし刷版のID等も渡すという2段階にする。現在の印刷現場の流れそのものであり、柔軟な対応が取れる方法でもあろう。

経営者に対するメリットはつぎの点である。
・デジタルデータの活用による自動化の推進
・ワークフロー全体の見直し(JDFによる企業のイメージアップ)
・ボトルネックの明確化と収益性の見直し


6.自動化の姿を実現しつつあるPOD
イー・エフ・アイ(株)マーケティング シニアマネージャー 田中氏からは、自動化の姿を実現しつつあるPODが紹介された。

JDFを利用した自動化に最も近いところにいるのが、POD(デジタル印刷)である。EFI社はサイテックス社の流れを汲むハイエンドカラー処理技術を搭載したPostScriptRIPを主要PODの各ベンダーに供給している米国のメーカーである。しかし近年は、複数のMISベンダーやインターネット利用の印刷受発注システムであるPrintCafeなどをM&Aによって取り込み、PODからハイエンドなCTPワークフローやオフセット印刷へのJDFワークフローシステムの開発にも力を入れてきた。

今回、新たに発表されたJDF Connectorとデジタルプリントによるシステムは、印刷の入稿から出力まで自動化を目指すものである。流れは、印刷物発注者→Web経由でPDF/JDF→DigitalStoreFrontに入稿→デジタル印刷・簡易製本→出力後JDFの内容を確認して発送を可能にするものである。

EFI JDF Connectorは、EFIのサイトから無料でダウンロードできる。まずはじめにアドビのアクロバット7のJDFジョブ作成機能を使ってJDF情報をアクロバット上で入力し、Windows 2000/XP経由でEFI社のFieryRIP(System 5.5/5.5e以降)に、このJDFをインターネットなどで送信する。こうするとJDF電子伝票は、必要なPDFページデータを連れてくる形になる。これをFieryでRIP処理して、PODでの印刷をリモート化してしまうことができるのである。このときに、実績データとしてJDFは更新され、MISへのフィードバックも可能である。


7.計画と実績把握
(株)トスバックシステムズ 印刷システム事業部長 若狭氏からは、計画と実績把握(工程と原価の進め方)について解説された。

現状の主な工程・原価収集方法はバーコードなどによって、リアルタイムなデータ取り込みや日報データの入力によりデータ取り込みである。そして生産管理部門に進捗や受注情報の問合せが行なわれる。

これがJDFフローになると、生産仕様はMISから面付ソフトへ、面付JDF情報はCTPコントローラを経由してCTPへ、また印刷コントローラから印刷機へ、断裁や折り情報も各々のコントローラから断裁機や折り機に送られ、稼動実績(JMF)がMISにフィードバックされる。

入力された作業指示データ、日程計画データ、号機別山積データ、印刷・加工データなどはMISで号機別の作業データ(JDF)として生成される。プリプレス部門への作業指示のJDFデータとして出力機などに渡され、稼動実績(JMF)がMISに戻る。 印刷部門ではMISで号機別作業データから号機別予定データ(JDF)が生成されて印刷機に渡され、号機別実績データ(JMF)がMISに戻る。

こうして実績はサーバにリアルタイムに集約され、全号機の日々の稼動時間/稼働率/通し枚数/色数等がリアルタイム把握、号機別の日々のJOB別作業実績状況、全号機の予定に対して日々の作業進捗状況のリアルタイム把握ができるようになる。


8.次世代の印刷業と印刷業務のEDI化
(株)オリーブ システム・コンサルタント 竹井氏からは、次世代の印刷業は短納期・多品種・小ロット製品化されていくフレキシブルに対応しながら、タイミングよく生産できるようなる為にCIMの導入を目指していく必要があるという解説された。 これによって、人手を介さないので効率よく低コストで生産し、特に高品質、信頼性ある製品作りが可能となり、ローコストオペレーション&高品質の印刷物を作成できることになる。

JDFをベースにどのような方法で今後の印刷業務を管理するかについては、まず作業の標準化を行う事が必要となる。たとえば、印刷物を作成するにはどの程度の時間が必要かを求める為に作業工数の算出なくてはならない。これによって、工程務管理者以外でも標準化された内容に於いて各工程別の工数算出が可能となる。そして、予定工数と実工数の差がきちんとつかめるようになる。

ここまでは、内なるデジタル化であるが、次ステップは外なるデジタル化である。 これは印刷業務のEDI化で、外部との受発注情報の交換であり、電子商取引の標準伝票のルール化で、これには統一化された共通の言葉が必要になる。このような観点から、用紙JANコード化を紙商グループが提唱してJANコード化をすすめている。

全国の紙商8社で構成するグループ「コラボエックス」では、'印刷用紙のJANコード化'の必要性を訴え、印刷用紙のJANコード情報を公開サーバで共有化し、情報として含まれる用紙の表面色や彩度、サイズ、厚さなどをMIS情報として加えている。これは用紙取引の統一化された共通の言葉になり、電子取引のルール(EDI)を作成できるようになる。

サーバで公開取引情報の例えば製紙業界などの異業種ともデータ交換がXMLで可能になる。双方の業界で標準化された仕様に則ってJDF仕様のようにXMLを使っての、お互いの情報のやり取りをめざしている。

関連情報:印刷CIM実現への疑問に答える  なぜJDFに取り組む JDFに投資した見返りは

2005/06/27 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会