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エキスパートを目指して

交友印刷株式会社 取締役生産部部長 寺西 誠

 
はじめに
2002年当時,当社のDTPエキスパートは,個人的に受験したMacのオペレータ一人だけでした。ほかにもこの資格取得を目標に入社してきた人もいましたが,残念ながら受験には失敗していました。DTPエキスパートについては,時折耳に入ってきても何げなしに聞き流して,興味すらなかったように覚えています。当時は,DTPイコールMacという印象が強く,実際に試験の内容も分からないまま,分野違いという感じが強く周りの雰囲気もそんなふうであったような気がします。
私自身,業務上必要に駆られてMacを使うようになりましたが,バージョンアップを繰り返すアプリケーションに対しては,実績が伴わないというジレンマから,目新しい技術に対して,ちぐはぐな知識しか得られなかったと思っています。
その後,WindowsDTPが具体化するにつれ,DTPの分野は今まで以上に幅広い知識が必要となってきました。顧客からのWindowsデータも年々増え,編集をやり直すよりもイメージ変換・加工して刷版工程に流すことが頻繁になり,今まで以上にMacDTP以外の知識の必要性が高くなってきました。

次に
その年の6月,「DTPエキスパート認証試験への挑戦」が会社の方針となり,営業部を中心とした講習会が計画されました。外部の研修機関から講師を招いて7月早々から約1カ月間,定時終了後,計10回の予定で実施されるました。受講者の大半は営業部で,生産部の希望者も含めて開催されましたが,基本的な知識に乏しい営業部にとっては,短期間でもあり大変な試練であったと思います。
講義は特に,過去の問題を基本に解説を加えるという進め方で,初めは問題の多さに圧倒されましたが,何度も復習することで,今までの知識の穴埋めができ,意外とストレスなく吸収できたように思います。模擬試験も幾度も繰り返し行われたことで,試験の雰囲気にもある程度慣れることができたような気がしました。例年の7月はそれほど忙しい時期ではありませんが,やはり定時後と多人数ということもあって,全員がそろうことはほとんどなかったように思います。

いよいよ
同年8月の試験本番当日,私たちは暑い最中,大阪の試験場まで足を運び試験に挑みました。本試験は希望者のみだったので,講習会受講者全員ではなく,営業部10名,生産部3名の計13名という陣容でした。当時,私は生産部の責任者で,受けるのが当然ということよりも,せっかくの機会を無駄にしたくないという気持ちから,講習会当初より本試験を受けることは既に決めていました。試験という経験から数十年遠ざかっていることや,会場の広さ,人の多さも手伝って,妙に武者震いに襲われて,予想に反した雰囲気であったことは今でも記憶に新しいところです。途中の昼食時間では,試験内容を仲間たちと議論していると,徐々に不安な気持ちになってきて,決して自信があるといった気持ちにはなれませんでした。
2カ月後の合否結果は,営業部2名,生産部3名の計5名が合格で,生産部全員が合格したことで何とか面目を保ったわけですが,合格率38%という低さに加え,不合格者の中にわずか1点足らずが数人いたのが非常に残念でした。しかし,この1点が意味することは何かを,振り返ってみました。試験は確かに時間との戦いという印象が強いですが,DTPエキスパート試験の目指すところは,トータルな知識のバランスを考慮に入れ,カテゴリー別の採点方法を行うことで,運が左右することを極力抑えようとしているのではないでしょうか。結果からして,たとえ1点でも,努力が足りなかったとしか言いようがありません。

つれづれ
DTPエキスパートの受験者の中には,印刷業界以外の方が多くなっているということを少なからず耳にします。DTPエキスパートを含め,資格と名の付くものにはほかにもいろいろあります。長引く不況で企業の人材の受け入れが渋くなるのは,当然の成り行きですが,能力主義がうたわれる今,求職者にとっては就職の術として,資格を取得することが近道に思えるのかもしれません。
資格が就職における約束手形みたいな役割をしているケースもありますが,資格を取得したからといって,必ずしも受け入れられるとは限りません。資格も大事ですが,それに伴う技量を持ち合わせないと,今は厳しい時代だと思います。
企業が元気なころは,人材育成に労力を惜しまず,一方で会社の発展や勝ち残りを懸けて,設備投資に躍起になっていた時期もありました。しかし現状は,ややもすれば即戦力優先の傾向が強く,期間を設けて養成する余裕すらなくなりつつあるのは,時流に沿った結果の現れとも言えます。既に社員として活躍している人にとっても,資格取得によって待遇が良くなったり,成績が上がるという結果は,期待外れになるかも知れません。かと言って,資格取得が無意味であるとは限りません。資格にしろ何にしろ,挑戦するという気持ちのあり方で,現状に甘んじてハードルを避けて通るか,または一歩踏み込んで飛び越すかで,自分自身の行く末がおのずと決まってしまう気がします。
私自身,DTPエキスパートは生産部より営業部が取得すべきものだと,常々思っていました。生産部としては力量を試す機会でもあり,営業部では顧客に与える印象や,コミュニケーションの幅を広げるためにも,付加価値があると思っていました。とかく現場は内弁慶になりやすく,インターネットでいろいろと情報が手に入る環境があるにしても,実際に業務につながらないことは多々あります。繁忙期が続けば,資格うんぬんより仕事優先という傾向になりやすく,挑戦する意欲が希薄になっていくケースが多いような気がします。

それから
それから2年後の2005年,社の方針として「プロ化を目指す」というスローガンの下,その一環として「DTPエキスパート認証取得の指名制」が告知されました。本年は3名の社員を候補として取り上げ,外部の研修機関に登録しました。この3名は営業部1名,生産部2名で,期待された社員として3月の試験に挑みました。結果は期待どおり3名とも合格で,これで当社のDTPエキスパート有資格者は,今まで男性ばかりだったのが,新たに女性1名が加わり10名となりました。今後も社の方針として,「プロ化を目指す」をモットーに,DTPエキスパートに限らず,資格取得に対してバックアップを行い「プロ集団」としての交友印刷が確立できれば,他社との差別化にも拍車が掛かり,埋もれつつあるライバル意識の掘り起こしにも,期待できるのではないかと思っております。

おわりに
DTPエキスパートを取得してから昨年初めて更新試験を受けました。当社に出入りするメーカーの方々の中にもDTPエキスパートを取得しておられる方がいらっしゃいます。時折,当時の様子を話し合うこともありますが,今は懐かしい思い出となりつつあります。そして今年,永年の取引先の知り合いの方が,2度目の挑戦で見事に合格を果たしました。当人は今回受験するかしないかで迷われていましたが,途中でやめることに抵抗はありませんか? との助言を差し上げ,何かしらお役に立てたのかという気持ちもあって,非常に感激しました。資格に年齢は関係ないという言葉もありますが,若い世代にはもっとチャレンジ精神を旺盛にしていただきたいと思っております。

 
JAGAT info 2005年7月号

 
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2005/07/15 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会