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パントン・ヘキサクロームのワークフロー事例

 従来のプロセスカラーCMYKのほかにオレンジ・グリーンの計6色インキを使用したパントン社ヘキサクローム印刷システムの概念や考え方,および事例について,株式会社研文社の三浦芳裕氏にお話を伺った。

パントン・ヘキサクロームへの取り組み

 パントン・ヘキサクロームとは,パントン社が特許取得した6色プロセス印刷である。補色という概念ではなく,6色がプロセスという考え方である。パントン社が各国にインキのライセンスをおろし,国内にもライセンスを受けたインキメーカーがあるので,そこからインキを購入すればパントン・ヘキサクローム印刷ができる。制限が少ないのがパントン・ヘキサクロームの特徴でもあり,AdobeRGB相当の色域を持っている。
 モニタの色域が拡がり,インクジェット,デジタルカメラ等いろいろな意味でRGBのワークフローが広がっている。その中で印刷だけが4色ということを引きずっている状況である。4色を否定するつもりはない。4色も含め,RGBのワークフローを実践するためにどのような流れを作らなければならないかが大切である。

 入力部分がデジタルカメラになり,データ容量も大きいものが撮れるようになっている。モニタやプリンタのコンシューマ機でもAdobeRGB相当の色域が出力できる。それらを色指定,色見本として印刷会社に入稿してきた場合,この色は刷れないという経験があるのではないだろうか。
 それらを印刷機の多色化によって,結果的にクライアントが望む品質の印刷物を上げることができる。これを4色に置き換えるのも1つの方法であるが,色域がAdobeRGB相当出すことができ,そのまま再現できる手法がヘキサクロームであると考えている。

プロファイルの重要性とツール開発

 ツールを使用すると,6色分版したデータが表示できる。プロファイルの違いによって調子が変化することがわかる。あるデータにおいてコンソーシアムのプロファイルは,調子になっているが,パントンのプロファイルでは同じ部分がベタになっている。分版すると,階調性のどこが飛んでいるかよくわかる。
 パントンのプロファイルが色切れした理由は,パントンが取り組み出した頃にはFMスクリーンを使うという概念がなかった。スタート当初は,AMスクリーン,175線で刷られていたのである。  当社も初めはAMスクリーンであり,パントンのプロファイルを使っていた。ただし,これでは現在のようなヘキサクロームの事例はできなかったであろう。プロファイルいかんで,いかにRGBが再現できるかを理解していただきたい。

 また,当社ではいろいろなツールを作っている。販売しているわけではなく,社内でヘキサクロームに長年取り組んできて,ワークフローを組む上でどのようなものが必要かという考えから開発したツールである。
 例えば,プリントシミュレーションツールがある。クライアントとの細かい校正のやりとりのコストを考えて,事前にシミュレーションできるツールを作成した。

 もう1つは,CMYKとヘキサクロームの比較を表示するツールである。営業マンがクライアントへ行き,データを預かり,ノートパソコンを持っていれば,その場でプロファイルを読み込んで,4色と6色の比較や差分等のデータを見せることができる。
 営業最前線でクライアントと話す際,その場でデータを確認できれば,持ち帰ったあとのトラブルが少なくなる。その場でクライアントが確認すれば,もう少し違うデータにしようという話もできるのではないかということで,営業マンにこのツールを持たせて営業活動させている。

RGBワークフローの事例

 株式会社ノエビア様の場合,鶴田一郎氏が毎年原画を描いているカレンダーがあり,2004年度版は,4色プラス特色5色の9色刷りをしていた。2005年度版はヘキサクロームの6色である。
クライアントとしては,原画ありきであり,原画をいかに忠実に印刷ができるかがポイントである。9色で刷っていた印刷会社は,大変苦労していたのではないだろうか。

 クライアントとしては良いものが上がればよいので,なるべく手間をかけずに工程を少なくするワークフローを考え,今回フルデジタルのフローを組んだのである。
 RGBワークフローという形で,絵画等,原画があるものは色域を広げた撮影を行い,その色域が広く出せるヘキサクロームという多色印刷で印刷すれば,商品としてクライアントのニーズに応えられるのではないかと考えている。

 通常は4校,5校でもよいほうであるが,今回は初校でOKをもらうことができた。初校を本機校正で上げたが,クライアントは本機校正の上がりに対して,板紙の原画を並べて比較する。今回は原画に忠実にということであったが,クライアントは「よく合っている」と言った。印刷人としては,最初に上げたものが「方向性が合っている」,「問題ない」と言われれば,これに勝るものはない。
 コストもダウンでき,納期も短縮でき,品質も上げられた。ヘキサクロームのワークフローを組むことによって,クライアントの納得するものが出せれば,このような仕事も増えてくるのではないだろうか。

 また,適切なRGBのワークフローを組むことにより,校正が1回,2回減り,もう校正が要らないという方向に持って行けば,4色で刷るより十分コストダウンになる。コストは,版代とインキ代程度なので,6色で刷ったからといって製本代や紙代が高くなるわけではない。プレートの部分と印刷インキが増えるくらいのコストアップにすぎないので,全体的に見て,それほどコストアップになるとは考えていない。

製造現場における技術のステップアップ

 日本のコンソーシアム活動は,印刷会社だけではなく,インキメーカーをはじめそれぞれの分野のプロが集まっている。私も現場を担当しているが,コンソーシアム活動において現場の人間もレベルアップできている。当社の印刷機長は「4色は簡単である」と言っている。また,分解の人間がRGBでレタッチするのに最初とまどいを感じていたが,今はクライアントの思い通りのRGBレタッチができるスタッフに育っている。
 作家が理解してくれれば,作家のデータをイコールで出せるようなプロファイルを作る。我々は,いかに効率よくワークフローを組んで,印刷側はいかに安定したプリンタに徹するかということであろう。印刷側で上げたり下げたり,盛ったり落としたりということは一切しないというのが我々の信条である。

 今までは印刷というのがオンリーワンの広告媒体,メディアであったが今はインターネットや,いろいろな媒体の中の1つに印刷があるという状況になっている。4色のデータを欲しがっているのは製版や印刷の業種だけであり,クライアントに関してはRGBで作ったものを残しておいてもらえば,CMYKデータを残す必要もない。
 印刷だけが幅をきかせていた時代は過ぎ去っている。印刷が4色だからということも,再度考え直さなければならないと感じているところである。製造に携わる我々が,このような技術も踏まえながら,ステップアップしていければよいと考えている。

(テキスト&グラフィックス研究会)

2005/07/19 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会