複写機やレーザプリンタ用に開発されて来た電子写真技術であるが、今やオフィス市場で幅広く利用されている。カラーについても数PPMから100PPMまで幅広い機械が提供されている。アナログからデジタル化、モノクロからカラー化を経て、オフィスでは今やMFP全盛である。しかし特許等から見ると、市場にインパクトを与える目 新しい技術はこのところ乏しく、一部メーカを除き生産拠点も中国に移ってしまった。またOEMビジネスの影響もあり、価格競争が激しくなる事で'プリントボリュームで利益を出す'、というビジネスモデルから'機械でも利益を出す'、に変えざるをえなくなりつつある様に思われる。この様な背景から隣接する印刷市場が過去着目されて来 た。しかし印刷業界はオフィスと歴史的な文化が異なっている。印刷業界にとって印刷物は商品である事をまず理解する必要があろう。
一時、オンデマンドプリントが喧伝された。謳い文句はショートラン、低コスト、One to one 等、多々言われていた。しかしショートラン&低コストでは事業は成立しない。また'One to One'対応を行うにはクライアントと顧客との信頼関係を構築し、DBの充分な整備が前提となり、実施するまでに10年以上かかる事は小売業界で良く知られている。印刷業のクライアントがこの対応をしていない限り仕事は無い。 一方、ショートランやOne to Oneの次ぎにバリアブルが謳い文句にされた。これもきちんとビジネスモデルを確立しないと工数がかかる割に、クライアントにはその価値を認めて頂けず、増加分の費用は頂けない事になりかねない。 印刷業においてデジタルプリントに現在求められているのは、このような市場を見ない'キャッチフレーズ'ではなく、市場に根ざした、市場にフォーカスした地道な活動である。刷って幾ら、という'製造業'的な考え方から、クライアントの悩みやニーズを解決するにはどの様な提案が自社で可能か、という'サービス業'として頭を切り替 える事がまず必要である。デジタルの発注者は従来の印刷発注者である購買や総務部門ではなく、営業企画や商品企画部門である。この事を理解した上で、ショートランではなく、大ロットやリピート物に着目し、自社に合ったビジネスモデルを確立する事が重要である。JAGATではこの様な観点から7月にデジタルプリント営業実践講座を開講した。参加者は比較的若手が多く、これから業界を背負ってゆく若い方がこれからのデジタルプリントの主役である事が伺えた。この講座は今後も開催してゆき、デジタルプリント発展の一助としたい。
一方、オフィスやオフセット印刷市場に隣接する業界としてメーリングサービス業がある。JAGATはポスタルフォーラムを通して当業界と緊密な協力関係を構築しつつあるが、この業界では封入封緘という本来の業務から、上流側の印刷分野に参入しつつある企業が出てきている(印刷業界から逆に封入封緘まで行う企業もあるが)。注目すべき点は、メーリングサービス業の宛名印刷は基本的にバリアブルプリントである事、また個人情報保護の観点から、宛名をラベルではなくダイレクトに印字する方式が増加している事、である。IJ(インクジェット)記録技術がこの鍵となっているが、宛名のみではなくバーコードや店舗名、キャンペーン紹介等、多彩な情報を印字する事がクライアントに提案されている。一方、クライアントではなくお客様自体がサービスの一環としてバリアブルプリントを行う例も出て来た。POS等と連動したレジマーケティングである。国内大手GMSでもこのシステム導入が盛んに行われつつある。
以上、デジタルプリントはオフィスや印刷業界のみではなく、周辺業界も巻き込んで多彩な使われ方が始まっている。クライアントや顧客のニーズにどう答えるかが重要であり、これに答えられる手段(記録方式)が単に選択されるだけである。従って、クライアントや顧客のニーズ、先行する海外動向を見ながらデジタルプリントを見直し、新たな展開を考える事がますます重要となっている。昨年に引き続いて、DigitalPrinting Conference を9月に開催するが、今回は上記の様な視点で初日のプログラムを企画した。詳細はここを参照し、ぜひコンファレンスに参加を願いたい(マーケティング・研究調査部 松縄 正彦)。
2005/08/11 00:00:00