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マスメディアの規模へ成長する企業サイト

自動車メーカーはテレビや新聞などの広告・宣伝費に数百億円の予算を掛けてきた。Webサイトへの参入も早かった業界である。自動車メーカーのサイトで高いアクセス数を誇るのがホンダの企業サイトである。インターネット調査会社のネットレイティングスによると,2005年5月のユニークユーザ数(あるWebサイトを一定の期間内にアクセスした人のうち重複を除いた数)はホンダが約178万人,朝日新聞や日経新聞が約300万人,フジテレビが415万人と発表した。ホンダの企業サイトはマスメディアのWebサイトの2分の1に迫る勢いである。 ホンダ 宣伝販促部課長 渡辺春樹氏にホンダのインターネット広告戦略を伺った。

「独自でメディアをもつ」理由

インターネットが普及し,個人でも手軽に情報を載せるメディアを作れるようになった。ホンダは企業ホームページを単なるWebサイトというだけでなく,マスメディアにまで成長させようと,さまざまな試みを行っている。

自動車とバイクのメーカーであるホンダは,消費者とコミュニケーションするために3種類のルートを築いてきた。第1は販売店で,営業担当者をとおして顧客に情報を届ける「営業」を行う。第2は雑誌などで間接的に顧客へ情報を届ける「広報」である。第3はメディアのスペースや時間を買う「宣伝」であり,これまで最も重要なルートであった。

何億円も掛けたテレビや新聞の宣伝では,新車とその優れた機能という2点を告知してきた。しかし,2つの情報のために,莫大な費用を掛けるのは効率が悪いのではないか。これが「ホンダが独自でメディアをもつ」ことの出発点であった。ホンダは企業サイトを作れば顧客が自分のお金で情報を取りにに来て,広告費が削減できると考えた。

購買プロセスとメディアの役割

購買プロセスごとにメディアの効果は異なる。ファーストコンタクトではテレビや新聞,チラシが最も効果が高い。特に関心の薄い層に告知する場合,マスメディアの影響は大きい。

購入を検討している層へのセカンドコンタクトは,カタログや販売店,友人・知人の影響が強い。サードコンタクトとなる最後の一押しのメディアは,2000年の段階では専門誌が最も優位であった。ところが,2003年にはインターネットと逆転する。さらにファーストコンタクトやセカンドコンタクトにおいてもインターネットは影響を強め,上位に位置している。

これまでの「インターネットはサードコンタクトで使う」という常識が変わりつつある。インターネットの広告・宣伝における重要性の高まりを,ホンダでは強く認識するようになった。

4つの目標

ホンダはインターネットによって実現したい(1)集客,(2)販売促進,(3)コミュニティ,(4)ブランド価値創造,という4つの目標を立てた。

トップページを通過するユーザは現在年間3200万人だが,2010年には5000万人まで集客すること目指している。人が多く集まるとマーケットができる。そこで,関心の高い人に情報を渡せる販売促進の仕組みを提供する。メールなどで顧客との長期的な付き合いをして,コミュニティを形成することで,ロイヤルティーがさらに増加する。ロイヤルユーザの増加が企業ブランドの価値創造に結び付き,売り上げにつながる。

ホンダはWebサイトでネットの情報の活用状況に関するアンケートを継続して行っている。1998年には「車を買う時にネットの情報を使った人」は2割程度しかいなかった。2004年になると半数がネットを使ったと答え,さらにその6割が自動車メーカーのホームページを利用したという。

特にホンダが注目したのは,Webサイトからカタログ請求をしたユーザである。買う意欲が高い層である。カタログ請求から3カ月後に購入したかどうか追跡調査を行うと,1998年は12%,2003年は14%,2004年は15%と上昇している。

例えば,自動車では26万部のカタログ請求があり,3カ月後に15%が購入したとすると約4万台が売れたことになる。2004年の新車販売台数が74万3000台なので,新車販売の5.3%がネットからカタログが請求され,購入までつながった。

一見さんと常連さん

ホンダの企業サイトにアクセスする顧客は一見さんと常連さんの2種類いるという。一見さんは7年から8年に一度,新車を購入する時だけにアクセスする。カタログ請求する人は主に一見さんである。

常連さんはホンダが好きで,頻繁にアクセスし,メールマガジンも登録する。本来長く付き合うのは常連さんではないか,と渡辺氏は指摘する。自動車メーカーに限らず,企業サイトは現在の売り上げに重点を置いている。もう少し長い目で商売をすることも大切である。

ホンダではS2000の新車である実験を行った。S2000はスポーツカーのため,一般の乗用車と比べて購入者の数が少ない。そこでS2000についてはマス広告をしない方針にした。インターネットだけで顧客が長期間付いて来てくれるか,販売促進ができるのか,などを検証した。その結果,同時期に最もCMを流していたオデッセイのWebサイトよりも,S2000のWebサイトへのアクセス数のほうが多かった。

S2000のメールマガジンは,新車発表の時に3万人が登録した。6年半経過した現在でも2万人以上が継続している。メールマガジンの登録者の半数に当たる約1万人がS2000を購入した(2003年11月現在)。メールマガジンを開始した当初,S2000の購入に関するアンケートを取ると,絶対に購入しないという人も多かった。何年も掛けてコミュニケーションを続けると,お金を貯めたり,家族を説得したりして買う人が出てきたという。

自動車業界の場合,販売店からのダイレクトメールが顧客との付き合いを継続する道具だった。メールマガジンもその役割の一部を十分担いつつある。

クロスメディアによる広告戦略

ホンダでは1996年からWebを核とした広告のクロスメディア戦略を展開している。インターネット広告は,代理店に頼らなくても効果検証の数字を入手できるため,ホンダでは自社でち密なデータや分析結果を収集してきた。

例えば2004年にレジェンドの新車のバナー広告を出した。通常,新車のサイトは初日にアクセスが最も多く,翌日は一気に落ちるが,Y媒体のバナーを出したことでアクセス数の減少は抑えられた。数日後にA媒体,N媒体へバナーを出しアクセス数は若干持ち直したが,カタログ請求は増えなかった。

9日後にゴルフダイジェストオンラインにバナー広告を出すと,アクセスが増えただけでなく,カタログ請求の数も劇的に上がった。レジェンドの購入層は50代である。ゴルフを趣味にする50代が多いということで,ターゲットが一致した。

これまでのマスメディア広告は,広告代理店主導でスペース売り,時間売りをし,広告主はそれを買って広告を出してきた。ホンダは,経費の掛かり過ぎる広告の現状に疑問を抱き,自社で仮説と検証を繰り返しながら,インターネットを効果的な広告メディアに作り上げている。 (通信&メディア研究会

JAGAT info 2005年8月号より

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2005/08/23 00:00:00


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