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技術の発展と人材の課題 その3

先ず、基本技術の徹底ということをお話しました。徹底というところから見ますと印刷の製造現場はまだ徹底しておりません。よく話題になるトヨタ自動車の製造装置に対する現業部門の取り組みと較べると印刷業の現場は徹底に欠いていると認めざるを得ません。 印刷雑誌に小森コーポレーションの川名茂樹さんが、「顧客感動」を呼ぶ印刷機械の予防保全という連載記事を書いています。その記事に書かれているように、機械保全一つ取っても非常に深い技術の理解が必要ですし、またその技術で徹底的に機械保全に取り組む高い意識も必要です。単価ダウンに対応するには機械の償却負担を半減しなければなりません。それを実現するには機械の寿命を2倍に伸ばすことです。
また機械を故障をさせて、印刷が出来ないという事態を引き起こしては、短納期対応が出来るわけがありません。高品質要求も印刷機械に不備があれば対応できません。予防保全という基礎技術を徹底すれば厳しい現実に対応できます。それには製造部門のリーダーになれる専門技術者が求められます。同じことが製本加工をはじめ他の部門でも言えます。印刷物を製造する全部門で基本技術のレベルを上げる人材を必要としています。
印刷あるいは印刷関連技術は成熟してしまったのでこれ以上の進歩発展はあまり望めないという主張を耳にすることがあります。そうではありません。実例としてカラーマネージング一つ取り上げても、映像ディスプレイの進歩と印刷メディアとの関連で解決しなければならないことが多くあります。PAGE2005のコンファレンスで「拡張色空間の色再現と標準化動向」というテーマが取り上げられました。そこでは、ソニー、ニコン、三菱電機、セイコーエプソンというメーカーの専門技術者が話をしてくれました。その内容全体を理解するには相当の覚悟が要ります。印刷業界がその技術を使ってビジネスに挑戦するのであれば、自分たちが使おうとする技術の本質あるいは全貌を知る必要があります。印刷業界は夫々の分野でメーカーの技術者と対等に議論を交わせる専門技術者を持つ必要があります。

印刷CIMを構築して全体最適を追求する中で、これからの課題を解決しようと申し上げました。
新技術、新システムとしてオフ輪を入れれば高速印刷が出来て、明らかに成果を出すことが出来ます。CTPを入れれば、原版フィルムを使わなくて済みますし、実用版の品質のバラツキが少なくなります。
ところがCIMのシステムは導入して稼動を始めたとしても、システム自体は何も成果を出してくれません。CIMの製造系システムからはJDFワークフローに沿って全工程の情報がリアルタイムに取れるようになるでしょう。しかしそのシステムを使う人、マネジャーがシステムから出されるデータを眺めているだけでは何の改善も出来ません。マネジャーとしての判断に基づいて、次々と改善の手を打ってこそ、成果に結びつくのです。
全体最適を実現するには、例えばTOC、制約条件の理論と呼ばれる管理技法を身につけるなど、高いレベルのマネジャーの養成が欠かせません。
クロスメディア社会の中でビジネスを展開するにはプロデューサーの役を担える人材が必要です。お客さんの意向を忠実に実現しようとする受注型の人材ではなく、お客さんと共にビジネスを創造していくプロデューサーが求められます。
プロデューサーはプロジェクトの先頭に立ちますから、新しい時代の動向の全体像とその本質を把握しなければなりません。

2005年6月23日「JAGAT大会2005」講演より

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2005/08/22 00:00:00


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