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DTPソフトはワークフロー型に進化

DTPオペレーション環境における課題

今までのDTPソフトはデザイナーやオペレータ一人ひとりが使うように作られていた。従って,DTP部門の生産性は,結局は作業者の人数に比例していたと言える。しかし,印刷会社などのDTP製版工程では何らかの分散作業が行われている。そして作業を分散すればするほど,ファイル管理の時間の間接時間とミスの可能性が大きくなる。例えば,DTPオペレータは自分が作業するファイルを探す,新旧のバージョンを確認する,作業後には決められたところに決められた名前を付けて保存する,時々は作業を引き継いだ時に連絡が悪くて間違えが起こって大騒ぎになるなど,売り上げにならない時間が2〜3割以上も費やされていると言われている。
このような状況を解消しようというツールが開発されてきた。Adobe Version Cue(バージョンキュー)である。アドビシステムズのDTPソフトを中心にしたサーバ管理ツールと言えるもので,DTPを複数の作業者が分散作業する場合に利用するためのワークフローツールでもある。DTPにおける一つのジョブに関するたくさんのファイルを効率良く分散作業するために,ファイルの新旧バージョンやアクセス宣言の設定,また特定のジョブを行う時に設定しているカラーマネジメントなどの環境設定を複数のDTPソフトに対して一斉に変更することができる。実際には経営者などからは見えにくいような,しかし日常的に起こっている間接作業やそのための時間を大きく節約きできて,DTP部門の稼働率を向上させることが期待できるものである。
デジタル制作環境のベーシックな問題としては,原稿制作から製版出力に至る分散作業体制の中で,基本的なデジタル環境の条件がそろっていないという点があった。DTP作業で使用されるツールの種類,制作手法,作業(分業)手順などの生産管理的な要因,デザイン編集から製版出力までの一連の品質管理的な要因,さらには組織的な要因も含まれる。従来はデザイナーなどが使用するDTPアプリケーションソフトやフォントについて,制作のために利用しているのは制作者や製版会社であり,広告会社・出版社・印刷会社は制作に加えて原稿データを点検するためにも使用されており,ここでの分散作業環境におけるデジタル制作ツールやバージョン不統一は大きな課題である。

できるだけシームレスな作業環境を

図1では説明を単純化するために,広告会社や出版社内の制作部門や印刷会社の製版部門は,プロダクション・製版会社の機能を兼務しているという見方で描いている。DTPで使用されているアプリケーションソフト類はおおむね統一されているが,制作者によって使用するソフトウエアバージョンが異なっていることが多い。そして製版側は,入稿データ作成に使用されたアプリケーション,バージョン,OS,フォントの種類が業者間で不統一なための仕上りの差異や修正作業の煩雑さなどの課題がある


▲図1

また,原稿データの作成手順や設定内容が印刷品質を考慮したものになっていないこともあり,製版工程でデータ修正作業する際の混乱の要因にもなっている。DTPソフトウエアについては,特に2〜3世代も前のソフトで,既に販売が終了していてメーカーサポートが打ち切られているにもかかわらず,同じソフトの後継バージョンの不備などの問題でデザイナーなどが旧バージョンを使い続けているソフトもある。この点については「プロフェッショナル用途のソフト販売やサポート」に対するメーカー側の課題もあった。
現実的には,制作会社から印刷会社にデジタルデータで送付される場合のほとんどはDTPアプリケーションに依存したフォーマットである(Illustrator EPSやQuarkXpessなど)。このために,印刷会社側はあらゆるバージョンのアプリケーションを準備し,オペレータはバージョンごとの条件設定やくせを把握し対応しているが,この煩雑さが,印刷トラブルの一因である。 出版・印刷業界で使用するバージョンを絞り,運用の煩雑さを減らすことが重要である。
また,DTPアプリケーションに依存したデータフォーマットは訂正対応といった融通性には富んでいる一方で,出力エラーの可能性や不確定さをも同時にもっている。そのため確実性をもったデジタルデータ交換フォーマットがいくつか提案されてきている。代表的なものがPDFであり,特に印刷制作での使用を前提にしたPDF/Xシリーズには期待が集まっている。
例えば,中刷り広告の制作を毎週行っている扶桑社では,PDF/Xが使えるようになった時に,従来のOS 9+Illustrator 8で制作したファイルをIllustrator CSで開いてPDF/X-1a用のプリント設定を使ってPostScriptファイルに書き出し,PDF/X-1aに変換した。Acrobat 6.0 Professional上でプリフライトを行い「検証スタンプ」を押した上で,印刷会社にネットワーク入稿していた。受注側の印刷会社でも出力トラブルのないPDF/X-1aであることが確認されているので,カラープルーフ見る必要がなくなった。つまり,完全データが入稿されたことになる。従来であれば,カラープルーフを出力してこれを確認する必要があったが,そのための時間も費用も必要がなくなった。扶桑社ではプルーフ出力を待つために毎週2〜4時間,年間では200時間が節約された。当然,プルーフを出力する側の印刷会社でも,材料コスト,設備や人件費コストがその分,削減されたということになる。
また,講談社では文芸誌「ファウスト」は,今まで出版・印刷業界がやってきたスタイルに近いということと,OpenTypeが使用できるということでInDesignを選択している。OpenTypeによる文字種の問題の解消,特殊文字であってもOpenTypeであれば豊富な文字種を使えるようになり,制限が少なくなる。さらに講談社では印刷だけでなく,InDesign で制作した本をWebメディアに,Webメディアで発信したコンテンツをInDesignを使って本に,という構想も既にあるということで,CreativeSuiteでのシームレスなデータの扱いに大きな期待を寄せていると言う。
このように,DTPソフトもワークフロー型への進化によって印刷会社などで分散作業する時の生産性向上の期待がもてるようになり,さらにAdobe GoLiveのようなWeb制作ツールとDTPの連動など,発注者のニーズに合わせた対応も容易にできるようになっている。さらにWeb制作環境について,アドビはマクロメディアというWebツール大手を買収したことで,さらなる進歩が期待できる。

『プリンターズサークル』8月号より

2005/08/28 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会