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伸び悩むマス広告,躍進するSP広告

2005年の広告業界は回復の道を歩んでいる。今年5月の広告会社の売上高(経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」)は,前年実績を1.4%上回り,2004年3月以降15カ月連続の上昇となった。2002年に大幅な減少を見せた広告売り上げも,2004年にはようやく2001年の水準までに戻している。ただ,この5月の増加幅が今年に入って最低となっているのが,気掛かりな点と言える。

伸び悩むマス広告,2005年前半
表1で2005年1月から直近の5月までの動きを追いながら,広告業界の現状を見てみよう。広告業の売上高合計は1〜3月期が前年同期比7.2%増と高い伸びを記録した後,4月は前年同月比2.3%増,5月は同1.4%増で推移している。広告全体の売上げは底堅さを見せているが,媒体別に見ると好不調がはっきりとする。媒体は大別するとマスコミ(マス)4媒体とSP広告の2つになる。マス4媒体はその名が示すとおり新聞,雑誌,テレビ,ラジオの4つから成り,SP広告は屋外広告,交通広告,折り込み・ダイレクトメール(DM)などが含まれる。最近,ラジオを追い抜いたと話題を集めたインターネット広告もここに含まれている。


表1を見て気づくのは,SP広告が好調なのに対してマス4媒体が不振なことである。月ごとの増加率は,SP広告はいずれの月も4媒体合計を上回り,特に3月には愛知万博の売り上げが計上されたこともあり,前年同月比17.9%増という高い伸びを記録した。1〜5月合計では前年実績より9.2%の増加となっている。SP広告の中で高い伸びとなっているのは,交通広告と折り込み・DM,そしてインターネット広告である。同期間の増加率を見ると交通広告は3.3%増,折り込み・DMは8.4%増である。経産省の統計ではインターネット広告は単独で発表されていないため,数字の把握ができないが,ヤフーなど代表的なポータルサイトの広告売り上げやネット広告の専門代理店の業績などから判断すれば,引き続き2ケタ増の勢いで伸びていると見られる。
これに対してマス4媒体は振るわない。2005年初めこそ順調だったものの,3月に前年実績を割り込み4月が横ばい,5月には再び前年同月比マイナスとなった。1〜5月合計では前年同期比1.0%増である。マス4媒体の中で最も不振なのは新聞で同2.6%減。3月から3カ月連続の減少で5月はついに2ケタ減となってしまった。雑誌も同様の動きとなり,同0.9%減である。年初健闘したラジオも5月の落ち込みにより,1〜5月合計でマイナスに転落(同0.7%減),プラスなのはテレビの同2.8%増だけという状況となっている。
マス4媒体の広告出稿量を電通の業種別出稿量統計でみると,前年水準を上回る業種は21業種中,薄型テレビなどデジタル家電が好調な家電・AV機器,外食・各種サービスなど8業種となっており,半分に達していない。4媒体を合計してみた出稿量は1月から徐々に落ちている。印刷媒体で出稿量の多い業種は,新聞では,化粧品・トイレタリー,家庭用品,食品,薬品・医療用品など,雑誌では,官公庁・団体,エネルギー・素材・機械,食品,家電・AV機器などとなっている。

緩やかな回復続く景気
広告の動きは景気と連動している。景気が上向けば企業業績が改善し,広告も上向く。逆は逆になる。2004年末に景気の動きが弱含みになった時,10〜12月期の広告の回復スピードが弱くなったのが,その例と言える。そこで広告の今後を展望する上で,景気の先行きを考えて見たい。
6月の政府の景気の基調判断は「弱さを脱する動きがみられ,緩やかに回復している」と11カ月ぶりの上方修正となった。企業収益の改善は進み,設備投資が増加していることに加え,ここにきて個人消費が持ち直していることで判断が引き上げられた。米国,中国経済の減速から輸出の減少が不安要因と言えるが,景気が踊り場を脱け出すカギを握るのが個人消費の動きと言える。個人消費を巡る環境は改善している。雇用や賃金情勢は好転し,街角の景況感を示す指数(内閣府)も上昇している。個人消費がこのまま堅調に推移すれば,景気を下支えすることになり,景気後退の心配もなくなる。日本経済研究センターのまとめによれば2005年度の実質GDP成長率は1.4%(民間32機関の平均)となっている。景気の緩やかな回復の下で,企業の収益見通しは,6月の日本銀行の全国企業短期経済観測調査(日銀短観)によれば,2005年度の売上高(全規模全産業)は前年度の4.0%増より低いものの,1.8%の増加,経常利益(同)は2.7%の増加である。前期に引き続き増収増益を維持する。

SP広告がリードする広告回復
このような景気,企業収益の見通しを前提とすれば,広告は2005年後半になっても前半の回復基調は続くと見られる。しかし,昨年夏の猛暑とアテネ五輪で広告が大きく伸びた反動から,この夏はその分,減ることが見込まれる。2005年前半の特徴とも言える好調なSP広告と不振なマス広告という対比は続き,SP広告が広告全体を引っ張る形になるのではないだろうか。SP広告が増える背景には次のようなことがあると考えられる。企業はマス広告の効果に疑問を抱き,広告効果がはっきりと計測できるインターネットに目を向け出している。また,あふれるほどモノを所有する消費者に対しては,ターゲットを絞り込んだ,これまで以上にきめ細かな広告展開が必要となってきた,ということである。
図1で分かるように,SP広告は年々増えている。街には広告があふれ,広告主(企業)は,広告に触れる機会を少しでも増やそうと努力している。電車やバスの車体広告や駅の床面,ビルの壁面などさまざまなスペースが利用されている。最近では,街と企業が一体となったプロモーションが多く行われ,街が広告媒体と化すかのような広告展開も見られた。こうした傾向はさらに強まるだろう。


▲図1

JAGAT info 2005年8月号より

2005/08/30 00:00:00


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