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e-printerとして新サービスに注力

多くの印刷会社がワンソースマルチユースの具体化に取り組んでいる。自社の制作工程の合理化だけでなく,顧客のニーズを先取りすることで,新たなパートナーシップが可能になるからだ。
2000年1月に「e-printer」宣言をした欧文印刷は,「印刷とWebを融合させる技術を持った会社」として,ワンソースマルチユースの実現を目指し自動化技術を推進している。
同社のマーケティング戦略を担う,専務取締役 和田美佐雄氏と,新サービスのビジネス展開を模索するデジタルソリューション部 部門長松尾孝行氏に,新ビジネスの現状と今後の課題を伺った。

印刷業から「e-printer」宣言へ
1946年創業の欧文印刷は欧文組版を得意とし,企画,翻訳,ライティングから,印刷,製本までの一貫生産を強みとしてきた。しかし,DTP化によって欧文組版技術の独自性が弱まり,プラザ合意以降の急激な円高で顧客の大半を占める輸出企業が大打撃を受けたことを経験して,日本語にも対応できる体制に転換した。
1993年にはマルチメディア制作部門としてデジタルメディア事業部を新設し,1997年には全社でパソコンによるクライアント・サーバ型の印刷業務管理システムOLIVEの稼働を開始し,翌98年にはグループウエアソフト「ウェブサピエンス」を開発した。
そして,2000年1月に「e-printer」宣言を行い,印刷とWebを融合させるサービスを事業の中核とすべく,内外に方向性を示した。
「e-printerを別の観点で言えば,ワンソースマルチユースの実現。それは,一つのデータを印刷物,インターネット,そしてCD-ROMに,自動化技術を駆使して出力する。印刷物作成を通して得たノウハウをベースに,新たなデジタル加工技術を身に着け,ネットワーク社会のニーズに対応させる,それを私どものアイデンティティとして育てている」。
2003年4月には,Webサーバでの自動組版技術と校正機能を組み合わせた「Web名刺事業」を立ち上げ,企業向けのサービスとして開始以来,既に20社を超える企業に導入された。
和田隆史社長が先導してきた「e-printer」の方向性が,Web名刺事業として結実したことに,社長自身大きな手ごたえを感じている。「2年前に立ち上げた事業が,枝から幹に育ってきた。創業60年の来年には,もう1本の柱として傍目(はため)にも認知していただけるものに育っているはずである。そして,恐らく5年後には,それは大黒柱として,内外に大きなインパクトを与えられるようになっていると思う」と,同社サイト連載コラム「経営独言」でも取り上げている(2005年4月「もう一本の柱」より,http://www.obun.co.jp/column/)。

独自技術による「Web名刺オーダーサービス」
「Web名刺オーダーサービス」は,同社がこれまで培ってきた自動組版技術と,Web校正システムを利用している。本格的なDTPと同等のレベルの組版をサーバで行うことに特長があり,ユーザはブラウザより必要事項を入力するだけで名刺の発注から進行確認までを行うことができる。
このサービスの基になっている技術は,同社が独自開発した自動組版ソフトである。開発に取り組んだ直接のきっかけは,デジタル化が進み競合関係も変化する中で,既存ソフトの利用に限界を感じたことによる。1999年から自社開発に乗り出し,Apple Scriptを使い自動組版ソフトを作成し,さらに開発を進め,サーバ上での自動組版システムができ上がった直後の2000年1月に「e-printer」宣言が行われた。同年6月にはデータベースパブリッシングの応用形として,プログラム組版を埋め込んだシステムを開発した。翌2001年7月には,クロスメディアプロダクションシステムを開発し,旅行業界最大手の出版社に納品した。そして,2003年4月に,サーバ組版技術と校正機能を組み合わせた「Web名刺事業」を本格的に立ち上げたのである。
「Web名刺オーダーサービス」は,社員数500名以上の企業,または,年間をとおして大量に名刺を発注する企業を前提としたサービスで,CIルールの統一,業務管理コストの削減,さらなる短納期の実現などのメリットが大きい。
操作が簡単で仕上がりイメージをすぐに確認できるだけでなく,IDとパスワードの発行により,名刺作成と承認・決裁において社員レベルに応じたアクセス制限が可能である。また,すべての発注記録,各自の名刺表記がすぐに確認可能で,統合された名刺のデータベースとして使用できる。受発注のすべてのログデータを取り出すことができ,Excelなどの表計算ソフトを使ってさまざまな分析用の元データとして活用できる。
ヒアリングの段階で,ユーザ企業の実情や要望に応じてカスタマイズし,本稼働の前に試用期間も設けている。また,ASPサービスにも対応している。
社員数500名以上の企業を想定したサービスだが,名刺のコストだけでなく,CIルールの統一などの効果や,業務管理コストの削減などのトータルでの費用対効果を考えて,同サービスの導入を検討する企業も増えてきているという。

B2Cビジネスにも参入
さらに,今年5月には,「郵政公社・郵便局の職員様のための名刺作成・発注サービス」を開始した(http://www.printondemand.jp/postman/)。郵政公社や郵便局の職員がインターネットを使って簡単に名刺の発注ができるシステムで,配送は「ゆうパック」を使用し,午後2時までの注文なら翌日発送,代引き決済となる。郵便局,本社,支社や,かんぽ,ゆうちょなどの事業別マークを自由に選択して,仕上がりを瞬時にブラウザでチェックでき,発注画面も徹底的に使いやすいインタフェイスとなっている。1箱100枚入りで700円のワンプライスで,自費で注文している職員の立場に立った価格設定となっている。
同社としては初めて,B2Cのマーケットを狙ったもので,「Web名刺オーダーサービス」がB2B用で再版を想定してデータベース機能や申請承認システムが付加されているのに対して,毎回新規入力が必要になるが,だれでも簡単に操作できることを主眼に,名刺発注機能だけに絞られている。
ロゴタイプの使用については郵政公社の許諾を得ているが,郵政公社の要望によるものではなく,独自に開発したサービスであることから,ユーザに対しサイトの認知をどう広げるかに苦労している。まずは,東京都内の本局を中心に営業に回り,サービスの紹介から始めているところだ。
Webアプリケーションと自動組版との連携では既に多数の開発実績があり,「Web校正システム」「自動Webレイアウト」などが実稼働している。B2Cとしては,グリーティングカードなどへの展開,B2Bとしてはセールスレターなどが考えられる。そこで,印刷営業の枠を超えた,マーケティングの企画・立案から新規顧客開拓までこなす,マーケティング営業の育成および確保が急務となっている。技術力で新市場を切り開いてきた同社は,マーケティング力でさらなる飛躍を目指している。

JAGAT info 2005年8月号より

2005/08/27 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会