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付加価値を出すための特殊印刷・後加工知識 その1

一般の印刷物は価格競争が激しく,いかに他社との差別化を図り得意先を満足させるかが課題となった。
他社と差別化をし,商品に付加価値を出すには今までに使われたことの少ない手法を活用することがある。例えば,ポスター・カタログなどの通常の印刷物の絵柄の上に人間の五感に訴えるような特殊印刷や特殊加工を付加すると効果的だ。

■特殊印刷の特殊なインキ
 印刷という技術の特徴の一つにインキの種類の多さがある。それぞれの印刷物の用途目的に合わせて多くのインキが開発されている。
[1]熱で変化するインキ
 熱で変化するインキの多くはスクリーンで印刷され一定の作用により効果が出る。 熱で変化するインキには,温度によって色が変化する特性をもつ液晶をマイクロカプセルに封じ込めたインキや,温めたり冷やしたりすると色が現れたりなくなったり,熱を加えて昇華(固体が気化)させることにより昇華性の染料を転写紙に印刷したり,するものがある。また,ドライヤーやアイロンなどで不可逆性感温染料をインキ化して100℃に過熱すると,雑誌の付録や抽選券などに隠し絵柄が現れるインキがあり,隠ぺいすることにより消費者の興味を誘うことを狙いとしている。
 用途としては,熱源を特定することにより体温計やお風呂の温度計や室温の空調管理の省エネカードなどでの利用がある。そのほかにも,バスタオルやマグカップなどに感熱インキを刷りこんでおくとお湯の温度を感じた時に絵柄の色が変わる。
また,転写方式により,キャンペーン用ののぼりや垂れ幕・エプロン・ユニホームなどに利用されている。

[2]力により作用するインキ
 これは,隠し印刷と香りの出る印刷に分けられる。隠し印刷には,銀色の特殊インキでスクリーン印刷された部分をコインやつめで擦(こす)ると絵柄が現れるというスクラッチ印刷と,銀インキの特殊性を生かした印刷で擦り取ることはできないが粘着テープなどの粘着性を利用して剥(は)がす手法がある。
 香りの出る印刷は,香料をマイクロカプセルに封じ込めインキに加工して印刷したもので,コインやつめで擦るとマイクロカプセルが破壊されカプセルに封じ込まれた香料が飛散して香りを感じることができる。
 隠し印刷の用途はゲームカードや宝くじ・くじ付きはがき・キャンペーン用品などに利用されており,その場での即時性に優れている。 香りの出る印刷の用途は,シール状にして香料を透明フィルムに印刷し剥がすと香りが出るといった販促用プレミアムや雑誌の付録・絵はがき・しおりなどに利用できる。香りの種類はリンゴ・バナナ・レモンなどの果物,カーネーション・ばらなどの花,チョコレート・カレー・バニラなどの食品,ウイスキー・コーヒーなどの飲料水その他,いろいろな香りを製造できる。しかし,香りなら何でも作れるわけでもなく,製造可能か否かはインキメーカーに相談する必要があろう。

[3]光るインキ
 光って見えることは,印刷物の印象を人間の視覚に訴える作用がある。光るインキには蓄光顔料をインキ化して印刷し明るい時に光を吸収・蓄積した光エネルギーを徐々に発散させるものや,微細なガラス粒子を混ぜたインキ・パールが顔料を含んだインキ・紫外光で可逆的に反応し発色するフォトクロミック物質をマイクロカプセル化したインキなどがある。
 日中の間,光を蓄積しておくと夜になると光るポスターとして利用できるし(もちろん時間的には限られる),雑誌の付録や交通安全ステッカー・学童用バッグなどに利用される。
 また,パールインキで印刷すると光の屈折で色が変わりオシャレ感を出すことができるほかに,偽造防止対策として現在ではお札にも利用されている。 フォトクロミックインキでの印刷は,紫外線の存在を色によって確認できることが特長であり,化粧品会社の日焼け止め製品の販促品などに利用されている。

[4]凸凹感を出すインキ
 印刷物の中で特に強調し訴えたい部分に凸凹感が出るインキで印刷する。 エッチングや彫刻刀による直彫り銅版画のようにインキの盛り上がりを表現したり,印刷面のUVインキを厚盛りで印刷したりしてエンボス効果を出す。加熱による方法として,熱によって膨らむパウダーを印刷した絵柄の上に乗せ加熱しパウダーを溶解したり,塩化ビニールを被膜として揮発性物質をマイクロカプセル化したインキを加熱させたり,熱硬化性の樹脂をインキ化したもので印刷し,絵柄の表面に透明な結晶状模様でひび割れ感を出すものがある。
 また,隠し印刷の一つとしてマット剤の入ったメジュームインキで印刷し,鉛筆で擦ると鉛筆の粉がマットインキに付着して絵柄が現れる手法である。 これらの目的は,印刷物の一部に立体感を表現したり強調させたりすることにある。用途は,ポスターや書籍カバー・名刺・カレンダー・カタログ・子供用玩具(がんぐ)・複製絵画などに用いられている。特にバーコ印刷や厚盛り印刷は電車の中吊り広告でも見られる。

[5]水を使って絵柄を出す
 隠し印刷の一つとして,水を含ませたスポンジで絵柄にタッチして絵柄を出したり(水出し印刷),水を塗ったり浸したりすると隠されている絵柄や文字が浮かび出る印刷(アクアフィック)がある。用途は幼児用玩具やスピードくじなどに利用される。また,転写紙を水に濡らし転写したい物の表面に貼り合わせ転写紙を剥がして,インキの皮膜だけを素材に移す方法もある。
 用途としては,文具用シールやキャラクターシール・プラスチクモデル用などに利用される。 水やお湯に溶ける性質のある紙に印刷することを水溶紙印刷という。これは軍事用,産業用,医療用の機密文書・メモ用紙・玩具などに利用されている。湿度が高いと紙の腰が弱くなり,また水を使ったオフセット印刷では印刷できない。

(研究調査部 伊藤禎昭)

『プリンターズサークル』9月号より

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2005/09/04 00:00:00


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