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お客様との関係をサポートするダイレクト宛名印刷

拡大するDMと産業用ダイレクト宛名印刷

マーケティング手段がマスマーケティングからダイレクトマーケティングへと変化しつつある。不特定多数に情報を提供するマス広告手段が,'顧客維持・管理'という側面で充分な役割を果たせなくなりつつある。この傾向に拍車をかけているのが,近年の[個性化] である。他人と同じではなく自分だけの,自分の好みや考え方を反映した商品・サービスが好まれる時代になってきた。
ダイレクトマーケティングツールではDM(ダイレクトメール)が重要である。ダイレクトマーケティング発祥の地アメリカでは,歴史的経緯もあり図1のように広告費全体の中でDMの占める比率は非常に高い。日本でもバリアブルDMが広告郵便の割引対象として昨年春より正式に認められ,ようやく市場拡大の動きが本格化しつつある。
顧客の維持・管理という観点では,個々の顧客特性にパーソナライズされたバリアブルなデータが重要である。ダイレクトなバリアブルプリントにより,この一人ひとり異なるデータを生かすことが現在可能となった。宛名についても,従来のラベルではなく直接葉書などに記録する事例(写真1)が増加している。日本では宛名ラベル印刷とダイレクト宛名印刷がいまだ共存しているが,海外ではダイレクト宛名印刷の市場規模が既に宛名ラベル印刷市場を凌駕している。DMの効果を高めるには,顧客やお店の特徴に合わせたバリアブルな対応が個別に必要となるためである。また,印字フォントの選択,メール便や広告郵便への対応,カラー化など,クライアントニーズへの柔軟な対応が可能なこと。さらに,在庫削減や個性化の動きに対応し,従来ラベル印字の主要市場であった100万単位の大ロットの需要が減少し,数万から数十万ロットのミッドレンジの需要が増大していることもこの流れに拍車をかけている。また,ラベルを使用せず直接印字することで,低コスト,貼付作業がないことから,速く美しい仕上がり,地球資源の節約などに寄与することも期待できる。特にラベル印字に比べ,ランニングコストが約2分の1になることは大きな利点であろう。

HP社のダイレクト宛名印刷への対応

前記ダイレクト宛名印刷の主流はIJ(インクジェット)記録方式であり,米国HP社は自社技術・ヘッドを宛名印字市場へOEM提供している。IJ方式は大別して連続式とオンデマンド方式に分かれる。連続式は主に高速プリンタに使用される。オンデマンド方式はサーマルとピエゾの両方式があるが,HP社が採用しているのはサーマル方式である。この方式ではIJヘッド構造が非常にシンプルで,低コストで高記録密度化しやすく, 環境に優しい'水系インク'が用いられる。HP社はサーマル方式のパイオニアとして各種産業用ヘッドを市場に投入してきた。前記特徴のほかに,ヘッドと一体化したインクカートリッジが 交換可能で,メンテナンスしやすく,常に新しいヘッドで印字が可能。大量印字への対応のため 大容量インクタンクの提供。多孔性度の低いオーバコート紙などへの対応として 溶剤系インクの提供。さらに スポットカラーや紫外線・赤外線対応ステルスインクカートリッジも用意されている。このように,HP社IJヘッドを搭載したダイレクト宛名印刷機は,幅広く利用が進んでいる。図2のような通数のミッドレンジ市場で過半数以上の台数シェア(欧米)を確保し,圧倒的な支持を各ユーザ企業様から得ている。この宛名印刷機にはコンパクトな卓上タイプから1万5000通/時の高速印字が可能なハイエンド機まで,多彩なラインアップが提供されているが,本稿ではこのダイレクト宛名印刷機を活用し成功されている企業を以下で紹介する。なお,HPのインクジェットについての詳細は,以下にて紹介されている。
http://www.hp.com/oeminkjet/jp/





ダイレクト宛名印刷:ユーザ成功事例
バリアブルプリントで企画提案をサポート

(株)ブンカ 大阪市城東区古市
システム部データベース課 課長 樋口久和氏
当社は1948年に印刷会社として創業した。現在は商業印刷分野に加えDB(データベース)の運用管理,これをベースとしたメーリングサービスまで一貫したサービスを提供している。単に'刷る'だけの事業ではなく,クライアントに対する'企画提案力'が当社のコアコンピタンスである。QMSやISMSなども既に導入済みであり,パート社員も含めて常にクライアント中心の考え方で事業を推進している。ダイレクト宛名印刷機を導入した契機は,大手チェーンストアからの会員データの入力・データ更新管理の受注である。会員様向けの大量の宛名印字は当初協力会社で対応していた。しかし,クライアントの店舗ごとのニーズや顧客の層別プロモーションなどに対応するには,店舗名,顧客属性やバーコードなどのバリアブル印字を実現する必要がある。また,情報漏洩リスクの低減という面から顧客データを外部に出すことの危険性などを考慮し,ラベルではなく,社内でダイレクト宛名印刷を行うことが必須となった。印刷機を導入して約1年経過し,ComposeIQを使用し,約1万5000通/時でバーコードなども安定的に印字されている。今後はこのノウハウを用い,スポットカラー化や溶剤系インクなどの利用による新たな提案もしていきたいと考えている。

顧客ニーズへのフレキシブルな対応
武蔵野コーポレーション(株)東京都三鷹市北野1-3-29
専務取締役 高橋 城二氏
URL:http://www.mckk.co.jp/
当社は1973年に創業以来,メーリングサービス業に携わって来た。発送代行からスタートし,顧客データ入力,送付物在庫管理,宛名出力まで,クライアントへのサービス提供という観点で事業の幅を広げてきた。
昔に比べ最近は小ロット化が進んでいるが,数百〜十万通/件の仕事が現在の中心である。ダイレクト宛名印刷は5〜6年程前から多くなって来た。現在,件数で6〜7割,通数で2〜3割のDMをダイレクト宛名印刷機で出力している。仕上りが美しいことから,お客様がダイレクト宛名印刷を直接指定されるケースも多い。ダイレクト宛名印刷が増加している主な理由は,工程や人手が掛からないこと,10万ロットまでの仕事では,ラベルと比較しコストが約半分ということがある。さらにラベルでは,単に貼ることで作業が終了してしまうが,ダイレクト宛名印刷では,バーコード印字によるメール便用シール貼付の不要化,ラベルサイズに制約されない印字,毛筆フォント対応など,クライアントニーズへの柔軟な対応が可能となる。単に宛名印字を行うのではなく高い付加価値をクライアントに提示することができる点を当社では高く評価している。また個人情報保護法施行の結果,リスト業者から仕入れた大量の顧客データではなく,小規模ではあるが丹念に集められたハウスリストをもとにDMを送付する例も増加している。このため,小ロット化が進んでいるが,この分,クライアントニーズに合った工夫が必要になってきている点も見逃せない。
印刷機は最初のセッティング,印字ヘッド部位の使用頻度を押さえておけば,運用上,特別なノウハウは不要であり,アルバイトにも任せられる。当社では顧客ニーズにフレキシブルに対応するダイレクト宛名印刷を事業の核として今後も事業を推進していく。

大量印字への対応
(株)セイジョー 東京都府中市矢崎町1-39-1
営業本部 顧客管理室 三瓶 祥三氏
URL:http://www.seijo.co.jp/

当社は首都圏を中心に約200店舗を展開しているドラッグストアである。接客第一主義を唱え地域に密着した'美と健康'のアドバイザーとしてお客様の健康をケアしている。お客様とのコミュニケーションパイプとして,名前を覚えた顧客数が各50人,100人になった店舗スタッフを「50人クラブ」「100人クラブ」と登録する制度を設けている。来店時に自分の名前を呼んでもらうことで常連様,ロイヤリティの高いお客様を育成するきっかけを作っている。そのような中'セイジョークラブカード'という会員プログラムを2003年9月から開始した。現在85万人が登録し,近々100万人に拡大予定である。会員様の購買とPOSデータを連結しデータベース化を行った。お客様がお店に何を期待しているのかをデータベースを基にDM対象者を抽出し,お客様が必要と思われる健康情報や商品情報をピンポイントでご紹介することが可能となった。これらのDMは毎月約30万件に達している。一方,個人情報保護の観点から,全社的な「個人情報管理マニュアル」「個人情報運用規程集」を作成し当社では個人データの扱いには細心の注意を払っている。このような背景から,大量の宛名を印字するにはダイレクト宛名印刷機はなくてはならない存在である。昨年2月に1台導入したが,1万5000通/時で稼働している。毎月のDM送付が遅れるとお客様からお叱りの電話をいただくほど当社DMは定着しており,今や地域密着のコミュニケーションを支える重要なツールとなっている。

『プリンターズサークル 2005年9月号より』

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2005/09/09 00:00:00


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