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印刷概況 広がる明暗の差

情報の電子化で印刷が減ることは随分前から予測されていたことではあるが、それが統計的にも現実になった。情報の電子化が印刷需要にどう左右するかについては、直接的に、また間接的にいろいろな関係があるが、よく観察すればそのどれもが最近の現象として確認できるほどである。
工業統計では2003年の印刷事業所数は2000年調査に対して12.9%減であり、毎年平均1,700事業所が減少している。このことで印刷産業の出荷額も相応に減っているのだが、事業を継続している企業にとってみるとマイナス感はないようにみえる。つまり業者数減少の分だけ残った1社あたりの市場は広がる面もあるために、緊迫感が薄らいでいるかもしれない。
紙の統計からみてもここ数年間は国内需要は横ばいである。その中で情報のデジタル化という点ではプリンタでの紙の消費がどのように増えていくのかが注目される。事務用文書に関してはネットワーク化や個人情報保護・セキュリティ問題などから、紙への出力を最小限にする努力もされている。

モノクロページプリンタの出荷はピークを過ぎたが、カラープリンタ化がまだまだ伸び続け、プリント単価もモノクロに迫っていくので、プリントする対象が従来の白黒文書中心からシフトし、販促物などの比重が上がるとみられる。今後は印刷需要の中でも伸びつづけるカラー販促物の分野をプリンタが如何に取り込むかが焦点であるが、そのような方向になれば印刷業も高速プリンタへの投資が盛んになるであろう。
現状では印刷業界で大規模なプリンタ投資をしているのはフォーム業界だけで、プレプリントしたフォーム需要が下がる中で、その分をカバーして余りあるほどプリンタによるDPSの売上が伸びている。これはDPSのようなアウトソーシングは業務処理ソフト開発から含めて受託できるところに限られるからであるが、今後はパッケージソフトウェアの利用などにより業者の参入が容易になる。

フォーム印刷のDPS化は印刷の後処理も含めたフルフィルメントのトータルサービスをすることであり、このことは時代の要求にマッチしているので、今後フォーム以外の商業印刷の用途にも展開可能である。そのためオフセット平版印刷との競合を激しくする一因になる可能性がある。 印刷業者は、自社の顧客の業務の中に印刷需要が伸びる分野があるかどうか、また自社が伸びる分野に投資できるかどうによって、将来像はまったく異なってきている。前述の事業所の減少はその端的な表れであるが、印刷の上場企業と中小印刷業の格差はさらに開きつつある。上場企業の多くは新たなビジネス領域を獲得して会社を成長させている。
一方、需要開拓力や商品開発力がもともと弱い中小印刷業は7年連続して出荷額が前年比マイナスになっており、単なる国内経済の冷え込みで印刷会社の売上が上がらないのではなく、中小印刷業の以前の設備もサービス内容も今日の需要に合わなくなっていることが証明されたといえよう。

クロスメディアでトータルなサービス

紙媒体を作るにしても種々のプリンタが開発されているので生産手段は多様化しているのに加えて、デジタルの情報媒体がこれまた多様化しており、発注者はそれぞれの情報伝達の目的に合わせてこれらの媒体をどのように組み合わせれば、コスト対効果が高いかを判断することが最も重要な課題になっている。
しかしどのような媒体の組合せがよいかについての決まった答えはない。例えばかつてはマスメディアや販促印刷物だけで行っていた集客の仕掛けが、広告媒体と店舗の間に携帯電話が加わったために、まず携帯電話でアクセスしてもらうという中間目標ができてしまった。

マスメディアや紙媒体の意味が薄らいだのではなく、ここでは携帯電話への導線が作りやすい媒体が選ばれることになり、それが地域にフォーカスしているなら新聞チラシの場合もあれば、雑誌広告を出す場合、あるいはターゲットが絞られたフリーペーパーに広告を出すとか、自社のWEBを利用するなど、媒体の組合せ及び予算的には各媒体への配分がそれぞれ異なり複雑化している。
その場合、携帯電話からのアクセスに直接結びついた媒体が有利であり、紙媒体は広告に2次元のQRコードが入れられるから有利な位置にある。しかしどの紙媒体が有効なのかは印刷物を企画制作している段階ではわからず、結局各種媒体が利用者にどのように使われているかを調べなければならない。それは一体誰の仕事であろうか。

媒体の組合せは、広告でいえばメディアミックス、コンテンツ制作側からすればクロスメディア、出力側からみればワンソースマルチユース、などいろんな言い方がされているが、いずれにしても組み合わせた総体を把握することは困難で、サービスを提供する側も使う側も、また情報の受け取り手にとっても流動的なものであり、また次回には違う情報伝達の仕組みになっているやもしれないもので、ビジネスとしては短寿命で経営的には難しいところを通っている。
この領域は今のところは全体をプロデュースする人材と、個別のシステム開発に依存している状態であり、特別な努力を惜しまない先駆者以外は一挙には広がらない。しかし、これからはDPSやバリアブルプリントと同じように、方法論が磨かれて技術的に枯れたものになっていくであろう。携帯電話を使うサービスについてはすでにかなりパッケージ化されつつある。それでも将来とも用途から考えてトータルに受注する方法でないと仕事のリピートが期待できず、大変リスクが多いものでありつづけ、それが参入の障壁でもあり、新たなサービス提供者にチャンスを与えるものでもあるだろう。

2分化する印刷需要

紙の印刷売上の総量の下降が明白であり、一方で好業績の印刷会社と廃業の2極化が起こっている。同時に印刷需要も雑誌は下がり続けるが、チラシ・販促物は増えているように、分野によって逆の傾向を示している。
雑誌でも特に週刊誌の低落を筆頭にほとんどの分野で発行部数が減少している。金額的にはマンガのマイナスが大きく、コミック誌の億冊単位の販売部数減少は雑誌全体の発行部数減少の1/3に相当する。さらに不景気にも強いといわれていた女性誌も減少し、雑誌発行総数を10%強下げた要因である。
同じ出版分野でも書籍はヒットの有無で毎年傾向が変わり、ヒットシリーズの新刊や受賞作品、ドラマ関連作品などで大ヒットがいろいろあってプラスに転じたが、ヒットと関係のない分野は相変わらず振るわず書籍全般の販売状況が好転したとはえない。

一方で販促などの商業印刷物の中でも特に新聞折込チラシは、小売業や連合求人広告が堅調であるのに加えて、パチンコに代表される遊戯・娯楽分野が急成長して市場を拡大し、娯楽業を含むサービス業がチラシの主役の座を占めるに至った。
インターネットによる販促活動はオールマイティでなく、おそらくこれからの地上波デジタルもそうであろうが、地域情報としてのチラシ、あるいは全戸配布(ポスティング)をすることの有効性をデジタルメディアが覆すことはできないであろう。

同じようにDMも総量としては増加しつづけている。金額的にみるとDMは郵送料も含まれるために、封書が減って圧着ハガキが増えることで3年連続のマイナス成長になっている。しかしヤマト運輸の「クロネコメール便」の利用拡大を考慮すればDM全体では増加しているともいえよう。 これらが印刷物の堅実な生き残り領域であるが、封書からヤマトのメール便にシフトしたり圧着ハガキになったように、トレンドの背景にあるのは高コストの回避である。特に個人情報保護法などで宛名管理のコストが増えるとすると、宛名を管理しないチラシのようなものの方が利用しやすいものなる可能性がある。印刷物の無駄は承知で配布するという点では時代にそぐわない面もあるはずだが、いろいろな配布手段が選べるのも印刷媒体の大きな特徴であろう。

新たな印刷媒体

出版印刷の領域を侵しているフリーペーパーも商業印刷の仲間といえる。フリーペーパーは何らかの読み物のついた無料配布物の総称で、実態は形態、配布部数、配布方法ともさまざまである。サンケイリビングのような新聞タイプのものは、この5年間で紙数で8割増、発行部数で約6割増である。フリーペーパーの特色は当然ながら広告主にとってのメリットの多さや価値の高さにあり、それは無料だからこそ読者対象を絞り込んで編集したり配布できることである。例えば専業主婦のいる家庭とか、独身OLとか、ホットペッパーやR25など若者でもそれぞれ特定のターゲットに向けたものなどが作られている。
フリーペーパーの伸張は日本が無批判に消費社会を是としていることの結果であって、高度経済成長の余韻でもある。人生とはモノを買うことなのか、人間は買うために生まれてくるのか、ということが問われだす時代になるとフリーペーパーは沈静化するようになるかもしれない。

もうひとつの大きい動きがバリアブルプリントである。高速プリンタによるオンデマンド印刷やショートランカラーのサービスは、期待されながらも大して拡大したとはいいがたい。しかし近年になって何百万という大規模な契約者に向けて発行される利用明細書がフルカラーでバリアブル印刷されるように変りつつある。
これは前述のDPSの一形態であり、カラー化で商業印刷的なDMとしての内容を盛り込むものである。DPSと同じように業務処理のプログラム化が必要であるが、この場合にはマーケティングのアルゴリズムもソフト化しなければならず、IT側のハードルが一段と高い。さらにIT側には苦手な商業印刷としてのクリエイティブデザインの要素が加わる。そのようなことで結構コスト高になり、それに見合うだけの効果を得るのは厳しい。

どのような業務も結局はITを活用するので、そこをキーに関連業務の共通化をはかり、封入物管理や封入作業などフルフィルメントの集中処理でしかも郵便料金を市内特別郵便にするなどスケールメリットでコスト増を埋合わせる努力がされている。
誰がどのような用途にバリアブルプリントの明細書をプリントしようとも、共通していえることは、開封率が圧倒的に高い明細書が販促メディア化することである。これはフリーペーパーと似ているところがあり、「ゆきわたる」方法がメディアを作り出すといえる。特に金銭に関する明細書では、個人情報保護法以来は個人情報を会社間で動かすことのリスクが高まっているので、広告のために個人情報をどこかに提供するのではなく、個人情報を使う場に広告情報をもってくるという逆転が起こり出しているので、明細書が今メディア化しつつあるといえる。

この項、続く。

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2005/09/10 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会