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情報加工産業という幻想

新たに市場が拓けているところはビジネスチャンスが多くあるから、どっと人が群がるかというと、必ずしもそうではない。ビジネスチャンスよりも参入の障壁の方が大きい場合だってある。1980年代からマルチメディアが叫ばれて以来、コンテンツという王様が金をかせいでくれるはずだから電子メディアに取り組んだところは多い。これは出版などに限らず、電機メーカーまで随分幅広くの会社がかかわったが、だからといってコンテンツの出番が急速に増えていくことはならなかった。

それは電子メディアに情報を出そうとすると、表示デバイスから、オーサリングツールから、ユーザインタフェースから、データフォーマットから、通信方式まで、すべて開発するとかチューニングする必要があったからである。この20年間の進歩が何であったのかを考えると、過去に個別に苦労していたようなコンテンツの加工に必要な土台が整備されてきたのだといえる。CG・アニメまでPCを並べでできるようになって、デジタルのコンテンツ加工は随分と敷居が低くなった。

日本にはそれなりにコンテンツがあって、加工の環境もそこそこ整っているとすると、あとはビジネスプランが競争のキーになるはずだ。だがそのような競争をするほどデジタルメディアのビジネスが活況な状態にはなっていない。今でもまだデバイス開発を模索しているようなものもあるが、開発途上であることがビジネス化の障害ではない。よりよいデバイスは永遠の課題であり、今できる範囲でビジネス化する知恵が問われているのである。TV放送の初期も儲からないといわれていたが、TVが儲かるようになった時代には参入のチャンスもなくなったのと同じようなことが、今度はデジタルメディアで起こるのではないだろうか。

今、じっとしていてもITがらみの案件として、企業の情報資産をもっと活かせるようにしませんかとか、モバイルでマーケティングしませんか、WEBをもっと魅力的にしませんか、などの提案を携えていろんな業者がやってくるだろう。よほど他にないものであるか、偶然マッチングするかしないと、なかなか提案で仕事はとれない。現状の仕事の流れは、既存の取引の関係の中でWEBやDBの仕事の比重が増えるようなものではないだろうか。

新たな方法を考えて提案してビジネスを起こそうと考える側は、新規の売上目標をたてるかもしれないが、発注する側は既に運用しているものを作り直すからといってプラスアルファの投資をするのは予算的には難しい。再構築は何か既存のものをコストダウンできる要素がある、いいかえると切り捨てるものもある場合はやりやすい。しかしITの仕事がコストダウン競争になれば、トータルで見ればデフレである。DTPによって印刷産業の売上が減ってしまったように、ITが進めば進むほど情報加工にコストがかからなくなり、情報加工産業というものは独立して発展することは有り得ないのではないか。

ではITやデジタルメディア分野では、どのようにすればビジネスとして成り立つのか? 当たり前だが業務を改善して効率化すれば、その分け前にITのプロバイダーはあずかれる。つまり企業活動を支えるコミュニケーションシステムとか、個人の思考や生活を支える知的ツール・サービスといったソリューションビジネスこそ求められているのであって、自社の技術でできることを押し付ける提案とか、よその提案をパクってコピー&ペーストしただけのものとか、すでに信頼関係ができているとか営業力があることを背景に、総論的な提案で契約をとってから考えるというようなスタイルのビジネスの化けの皮が剥がれつつあるのが21世紀に入ってからの様相であり、それまでのようには仕事がとれなくなってしまったといえるだろう。

WEBやデータベースなどデジタルメディア制作の技術的能力があっても、コストが合わない? 開発に手間がかかっても、仕事が継続するのだろうか? 得意先の担当者と上司で意見が異なるし、IT屋さん、現場、プログラマ、誰の言うことを信じればいいのだろう? 自分で提案を考えるとしても、どこまで詰めればよいのだろうか? このような多くの疑問の中で、見よう見真似で提案をしてあとで辻褄を合わせようとしていては、ソリューションビジネスの成長はない。技術や社会的な状況認識をベースに、自社のセールスポイントをおさえて、クライアントの業務をよく知り、その両者にうまく折り合いをつける思考ができて、契約までの要点をはずさないコツを身につけなければならない。

デジタルメディア制作に関するソリューション提案に必要な知識体系と、ソリューションの考え方の定石を身に付けていただくために、JAGATではクロスメディアエキスパート認証制度を開始いたします。2006年3月末の第1回試験に向けて、毎週情報発信をしていきますので、ご覧下さい。

参考情報:10月12日(水)デジタルメディアのソリューション提案

2005/09/16 00:00:00


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