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AdobeRGBの有効性とカラーマネジメント

RGBデータによるワークフローの変化

 一眼レフタイプのデジタルカメラが普及し,印刷物製作のための原稿としてRGBデータが数多く入稿されるようになった。これにより,プリプレス部門を取り巻く環境も大きく変わった。また,扱われる画像データは印刷物だけではなく,Webサイトへの掲載やデータ配信などマルチユース対応にも利用されることを考慮する必要がある。
 RGBの入れ物としてのカラースペースは,sRGBとAdobe RGBなどがある。sRGBは,IEC(国際電気標準会議,International Electrotechnical Commission)が策定した色空間の国際標準規格である。CRTモニタの色表現をベースに策定されており,モニタやプリンタなど機器の違いに左右されない,意図したとおりの色を再現するための表現形式を定めている。

 AdobeRGBは,Adobe Systems社が提唱したカラースペースである。一般的なモニタなどで採用されているsRGBに比べて,より広い色域を持っており,DTPワークフローでは一般的なカラースペースとして利用されている。この色空間内にはsRGBよりも広い範囲の色が含まれており,印刷やWebサイトへ展開するのに適した色空間といえる。
 一眼レフタイプのデジタルカメラもAdobeRGB対応になり,ニコン「D2x」は,CMOSセンサ搭載,有効画素数12.4メガピクセルで階調性豊かな高画質を実現する。「D70s」は,高密度大型CCD搭載,有効画素数6.1メガピクセルでAFシステムを向上させている。
キヤノン「EOS-1Ds MarkU」は,35mmフルサイズ大型CMOSセンサ,有効画素数約16.7メガピクセルで色再現処理を高速で行う映像エンジンを搭載する。「EOS-1D MarkUN」は,大型CMOSセンサ搭載,有効画素数8.2メガピクセルである。
 RGBデータによるデジタル入稿についての問題点は,色見本がないことやルールが整理されていないことである。撮影から入稿までのスピードアップという大きなメリットがある一方,目に見えないデータの不安定さが問題になる。

 また,デジタルカメラデータの印刷利用において,問題になるのがRGBからCMYKへの色変換である。RGBデータの品質をいかに損なわず,あるいは品質を補ってCMYKデータにするかがポイントになる。
 RGBをCMYKに変換するツールは,大日本スクリーン製造の「ColorGenius DC2」や富士写真フイルムの「PICTUNE21」などがある。これらは,ハイエンドスキャナの画像処理技術とその蓄積されたノウハウをベースにしたり,ICC プロファイルへの対応も実現する画像変換ソフトウェアである。
従来のカラーポジ原稿の入稿と違い,直接デジタルカメラのデータが入稿されるので,得意先や制作会社,印刷会社間で新たな役割分担やワークフローなどのルール作りが重要となる。

AdobeRGBの有効性と液晶モニタ

 印刷業界では,AdobeRGBがデファクトのように使われ始めてきた。また,前述のように最近の一眼レフタイプのデジタルカメラは,ほとんどの機種がAdobeRGBに対応している。したがって,今まで画像データをCMYKでレタッチしていたが,RGBワークフローと呼ばれるように,RGBで行うこともある。その方が,画像処理やマルチユースを考慮した流れの上では効率がよい。
 また,比較的印刷に向いているAdobeRGB標準色空間をベースに使用することにより,カメラマンや得意先,印刷会社など複数の環境の中で,モニタ上で印刷色をシミュレーションするなど色の共有ができるようになる。AdobeRGBに対応することで,アプリケーションやOSのカラーエンジンによる色変換の影響を受けないので,AdobeRGBの色表示のまま最終確認まで可能になるベースができるのである。

 しかし,データがAdobeRGB になっていてもAdobeRGB対応モニタを使用せず,通常のsRGBモニタで編集する場合,見ている画像はsRGBである。データだけがグラデーションを持っているのに,画面上のデータはつぶれていることになる。それらをモニタ上で扱うには,ある程度のスキルが必要になる。AdobeRGBで撮影してsRGBで開くと,くすんでしまい,sRGBで撮影してAdobeRGBで開くと,彩度が上がってしまう場合があるので注意が必要である。
 近年開発されている液晶モニタは,色再現の問題を解決しながら印刷業界の1つの標準色としての色域であるJAPAN COLORやJMPAカラーなど,sRGBモニタでは再現しきれなかった色域も再現することが可能になりつつある。
このように,今後印刷業界でも普及すると予想される液晶モニタは,環境光の影響や経時変化が少なく,省スペース,省電力というメリットもあり,印刷・広告業界で標準とされるJAPAN COLORやJMPAカラーの色域をカバーするよう向上していくと,その活用方法は広がりを見せてくるであろう。

 ナナオの「EIZO ColorEdge CG220」は,AdobeRGB色域に対応したキャリブレーション対応カラー液晶モニタである。滑らかな階調表現や製品出荷時のガンマ値を最適化している。イーヤマのハイパフォーマンス・ディスプレイ「ProLite(プロライト)」シリーズは,RGBの3原色に加えCMYの6色調整(カラーマトリックス)が可能である。  また,三菱電機は,色票集「Munsell Color Cascade」で規定された色の96%を表示できる「広色域6原色LEDバックライト液晶ディスプレイモニタ」の試作機を開発した。これにより,印刷機の色をモニタでより忠実に再現することが可能になり,印刷・写真業界の校正作業など高い色再現性が求められる分野での活用が期待される。  AdobeRGB対応など広色域モニタの普及によって,より印刷の色に近い色域表示が可能になり,印刷業界の環境を含めたワークフローにも大きな変化をもたらすであろう。

カラーマネジメントの重要性

 カラーマネジメントの基本は,デバイスの特性に依存しない(デバイス・インディペンデント)色再現の実現である。しかし,スキャナ,モニタ,プリンタなど,入出力のデバイスにはそれぞれに特有の入出力機構と特性があり,色再現域にも違いがある。
 そこで,あらかじめどのような印刷物をシミュレーションするのか基準を決めておく必要もある。その色再現をICCプロファイルというデータで用意する。
 ICCプロファイルとは,ICC(International Color Consortium)により策定された,あるデバイスがどのようにカラーを再現するか,そのカラースペースや特性について記述したファイルであり,実体は変換テーブルである。RGBとCMYK の間で色の設定を変換する場合や,モニタやプリンタの色を調整する場合に参照することで,より正確な色の再現性を得ることができる。

 例えば,AdobeRGBをベースにJAPAN COLORなどのICCプロファイル変換をすることにより,印刷結果の予測ができるようになり,安定した品質管理を行うベースになる。
 これらの実現のためモニタプロファイルも重要である。モニタの発色は固体差や経年変化がある。ガンマ値を調整しても,人間の目は調整したカラーに慣れてしまうため,ガンマ値のカーブだけでは正確なモニタ調整はできない。
 モニタのカラー再現をより正確にするためには,測色計を利用してモニタ上のカラーや濃度を測定して正しいモニタプロファイルの作成が不可欠である。

 GretagMacbeth社のProfile Maker は、スキャナ,デジタルカメラ,CRT,液晶モニタ,プリンタ,印刷機など,いろいろなデバイスのICCプロファイルを作成する。プロファイル作成を行うには,測色作業が必要となり,人間の目が感じる380nm〜730nmの分光波長域を10nm単位で分光反射率を測定する測色器としてGretagMacbeth社のEye-oneやx-rite社のDTP70などがある。
 また,一貫した色管理を実現するためのカラーマッチングサービスも提供されている。富士写真フイルムのi-ColorQCは,各社の色基準に従って液晶モニタと印刷物の高精度なカラーマッチングを提供する。富士ゼロックスのinter-Graphicsは,各社の校正用プリンタの出力色をインターネット経由で統合的に管理できる環境を提供するASP方式のプリンタカラーマッチングサービスである。

 以上のように,さまざまな基準をベースに活用して,色再現を管理しながらイメージを伝達するには,数値管理による標準化された環境が必要である。
 標準化や色再現を管理するためのカラーマネジメントを行うことにより,最終印刷物製作のための適切なデータを作成する近道になる。

■出典:JAGAT 発行「2005-2006 グラフィックアーツ機材インデックス」 工程別・印刷関連優秀機材総覧

2005/09/22 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会