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プリンティングと紙とインキ

グーテンベルグは紙は作らなかったがその他印刷に必要な一式は自作した。しかもそこでの印刷物は42行聖書に見るごとく工芸的にも評価されるものを残している。それらにかけた膨大な投資は報いられることはなく、ビジネスとしては破産してしまったが、その努力は今日でも称えられている。

その後に活字と印刷機とインキはそれぞれ独自の道を行くことになり、それぞれがまた多様な技術を用いていろいろな派生した発明が行われた。今日の日本で考えると印刷何兆円および関連産業の何兆円という計10数兆円のビジネスがグーテンベルグに源を発しているが、これくらい大きな産業になると共通の課題解決に共同して取り組むことは困難になる。一方近年著しく発達したコンピュータのプリンタの世界は、原理的に見れば枯れた技術のようだが、応用面では既存の印刷に及ばないところは多くあり、これからまだまだ応用開発が必要な分野である。

金にはならないが後世のビジネスを作り出したグーテンベルグ個人の努力と、今は多くの人を養っているが後世にどんな可能性を残すのかわからない既存の印刷とは好対照のように思える。印刷業の極一部は紙の印刷を超えてナノテクへの挑戦をしていて、後世にさまざまな花が咲く可能性はある。しかし紙の印刷に関してはFMスクリーニングやJapanColorとか、6色以上の広色域印刷などが近年の主だった活動で、それ以上の応用開発は、印刷機メーカー、製紙会社、インキメーカーの団体がそれぞれ独立している以上、なかなか手が出しにくい。しかし取り組むネタは尽きたのだろうか? 

ところが紙の印刷でもプリンタの方は機械と用紙とインクをセットで提供しているので、お互いの特性を併せて最大の効果を発揮するような研究が続いている。すでに素人には写真だかプリントだかわからないレベルの品質に至っているが、さらに複数のドット径やインク濃度の組み合わせで、人間の目に自然な絵作りの努力や、今までの弱点であった諸々の耐性安定性の向上が行われている。

そこから考えるとオフセット印刷なども例えば色域と用紙・インキの関係を事細かにデータベース化して利用者からアクセス可能にするとか、また利用者側の印刷時の実データをメーカーが吸い上げて分析するなどは今の時代なら出来そうであるし、適切なものを購入する手がかりにもなる。データが整えば印刷会社は得意先に対しての有力な説明材料ともなる。

印刷の色管理に関しては、CIElabの色差からCMYKのインキ調整へのフィードバックするためのデータが求められる。プリンタの方が先に科学的な管理をする環境の中での開発・フィードバックを行き渡らせた感があるが、印刷もそのような環境を作っていけば色管理は飛躍的に向上するであろうし、印刷とプリンタの関係もはっきりして使い分けが行い易くなるのではないだろうか。

テキスト&グラフィックス研究会会報 Text&Graphics 2005年9月号より

2005/10/02 00:00:00


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