JDFあるいはCIMについての印刷業界の認識は、「それはいったいどういうことなのか?」といった段階は過ぎ、それがもたらす効果の内容と大きさに関心が移ってきた。少なくとも現時点でどこまでのことが出来ていて、どのような成果が上がっているのかの情報が欲しいところだが、残念ながら、欧米を含めてMIS,プリプレスの生産設備、印刷・後加工設備それぞれが連携して運用されている例はない。
一方、CIP4の活動も、初期の大枠設定段階から次第に細かな部分の検討が進められ、米国で開催されるPRINT05では、「再版」、「校正」、「直し」、「大貼り」の処理も含むものになるとともに情報流通の簡略化も図られ、より実用的なJDFVer1.3がリリースされる。こちらも、ステップバイステップでの進行ではあるが、着実にあるべき姿に向けて進んでいる。
CIMの実現、あるいはデジタルネットワーク化とは、異なるコンピュータシステム間をデジタルネットワークで結んで、従来にない生産設備の自動化や経営管理業務の効率化、高度化を図っていくことを目的としたものである。プリプレスで生成されたデータを使って印刷機械のインキキーのプリセットを自動化するような生産の自動化範囲の拡大や高度化、あるいはリアルタイムでの作業実態把握を可能にしてその情報をさまざまな経営管理に有効に活かしていこうとするものである。 CIMの基本的要件は異なるコンピュータシステムの連携である。異なるコンピュータシステムとは、自社のMIS、プリプレスの生産設備、印刷機、製本加工機であり、異なるベンダー間のシステムでも、それぞれに必要なデータ・情報流通を可能にすることである。さらに、協力会社や顧客のコンピュータシステムとの情報交換も考慮しておく必要がある。JDFはこのようなコンピュータシステム間の連携を可能にするデータフォーマットとして提唱され、規格化が進められているものである。
要件のひとつは、データそのものの流通に関わることで、もうひとつは交換される情報内容に関することである。
まず、データそのものの流通についてみる。現在、異なるコンピュータシステム間のデータ交換に使われているのがXMLである。世の中ではXMLベースのMISも出始めているようだが、印刷会社で使われているMISは、オフコンベースのものかSQLServerやOracleといったRDBMSを使ったクライアント/サーバー型かのいずれかである。一方、「JDF対応」の生産設備のコントロールに使われるコンピュータはXMLを介してのデータ交換を前提としている。
このような状況の中で、「JDF対応MIS」の基本要件は「XMLで情報交換ができること」ということになるが、オフコンベースのMISの場合には、XMLデータの送り出し、受け入れのためのXMLの生成・解析ツールとさらに本体とそのツール自体を繋ぐゲートウエイのような仕組みを作らなければならない。ゲートウエイを作るとなると場合によっては1000万円程度の費用が掛かることもある。
また、他業界におけるMIS構築の最近の傾向として、必要なすべての機能をひとつのアプリケーションに組み込むのではなく、必要とする機能を独立したモジュールとして構築し、それらを組み合わせて使っていくことがある。このとき、各モジュール間の連携はXMLの利用が前提となっている。したがって、これからMISを再構築するのならば、「JDF対応」という意味だけではなく、柔軟なシステム作りという意味でも、XMLに対応できるオープンなRDBMSをベースにシステム構築することが得策であると言えるのではないだろうか。
たとえば、数台の機械があるときには、各機械それぞれに対する仕事の割り当てや細部の指示情報が必要になるが、そのような情報はMISから直接受けるという前提で受け手側が作られている場合と、MISと生産設備の間に別のアプリケーションをおいて、上記のような情報とともに生産設備のコントロールに必要なデータも扱う考え方もある。そして、この点において各メーカーで異なることも当然ありえる。しかし、少なくとも現時点では、どのような形が完成形になるかはまだ見えておらず「こうしたらよい」という明確な回答はないし、しばらく不明瞭な状況は続くと思われる。 印刷物の受発注EDIについては、何も決まっていないのが現状である。
したがって、上記のような意味での「JDF対応」においても、XMLに対応できるオープンなRDBMSをベースにしたMISにしておくことは有効であろう。
ただし、CIMの実現というのならば、それに対応するMISが単に計算機や伝票発行機の機能を果たすだけのものではダメである。いままで人間が行なってきた判断業務でもコンピュータで置き換えられるものは置き換えていく、あるいは外部組織を含む情報共有の仕組みを組み込んでコミュニケーションを大幅に改善するものでなければCIMに対応したMISとは言えない。いまは、CIMを含めたデジタルネットワーク化の中でのMIS自体について十分に吟味して、それを元にMISの再構築を考えることが最重要課題であろう。
そのような意味で印刷CIM実現に最も近い位置にあるのがデジタル印刷機を使って印刷、後加工をインラインで行なうことができる印刷物生産であろう。マテハンは、紙の給紙部への搭載程度で、それ以外の版、刷り本の扱いも不要なために生産の流れが途切れることがないし、各部のコントロールと生産実績データの採取も既にデジタルで行なわれているからである。
具体的には原稿と作業指示をPDF/JDFデータとして作成してデジタル印刷機を自動運転する。データ作成が印刷物発注側で行なわれるならば営業レスの生産になる。
米国の調査結果によれば、2000年時点で、納期が24時間以内の仕事は全体の29%だが、これが年々増えて少し先には37%になると予想している。このような短納期の仕事や再版物の印刷物、あるいは完全原稿の仕事の流れが営業レスになることは必然であり、印刷がデジタル印刷機で可能なものであれば、チェックのための人の介在はあったとしてもCIMでの生産になっていくことも当然であろう。
(「2005-2006 グラフィックアーツ 機材インデックス」より)
2005/10/06 00:00:00