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デジタル撮影からのフルデジタルワークフロー

印刷会社が運営するスタジオ内のデジタルカメラ撮影と制作環境,カタログ制作を中心としたフルデジタルワークフローについて,DNPメディアクリエイトの上村清一氏にお話を伺った。

デジタル撮影とカラーマネジメントのリンク

株式会社DNPメディアクリエイトは,大日本印刷の企画・制作部門が独立した際,プリプレス部門と撮影部門を統合して設立した会社である。
特に昨今のデジタル撮影の隆盛でデジタル化が顕著になり,「撮影=画像データ入力」になりつつある。設立からの8年で技術がたいへん進歩し,その間ワークフローも変革があった。
デジタル撮影は,大きな有用性を内包しているが伸び悩んでいる状況もある。それは,アナログ撮影と違いカメラマン側の完結型フォーマットであるカラーポジフィルムが存在しないためである。

従来は,カメラマン側が最適な表現を施した原稿としてフィルムを用意し,製版側がそのフィルムを受け取り,最大限忠実にそれを再現することが仕事であった。ポジフィルムは,大きな連続調の画像データが定着されているものであるが,デジタル画像は,かなり間引きされた状況であり,異質なものである。
従来型の撮影プロダクションの多くは,デジタルにトライしているが,手探りで基本を作っているところが多いようである。そこから排出されたデータが後工程で適正なデータとは言えないことも多い。

例えば,カメラマンはカラーポジが存在しないため,納得のいく目に見えるものを作りたい。そのため,美しく仕上げたデータを,一度インクジェット等のプリンタで出力し,得意先に見せて確認してもらうフローも数多い。その際,どうしてもシャープネスを上げて,見た目にきれいになるような作業が行われている。これらの行為によって,後工程には思いがけない原稿が入ってくるのである。

また,デジタル撮影は単独で存在するのではなく,カラーマネジメントが一緒にならないと効果が生まれない。マネジメントされた画像データを,データベース運用してネットワークを介し,プリプレス分野やDTPデザイン分野にリンクしていく。このような全体の流れがないと,デジタルフローの最高のメリット享受には至らない。
当社では,一貫してデジタル撮影からカラーマネジメント,データベース構築及び運用,その後のプリプレス,DTPのつながりを連携することでメリットがあると考えている。

アナログフローとデジタルフローの違い

従来のアナログワークフローでは,入稿後の色校正に色に関しての指示が多数入り,修正して何度も校正を提出するという流れであった。
デジタルワークフローでは,デジタル撮影後,データ変換すなわちRGBからCMYK変換を行い,商品などの現物を見ながら色調補正をする。RGBからCMYK変換は,10年間培ってきたプロファイルによって行われる。ここでは得意先毎の変換プロファイルも有しているが,基本的なCMYK変換を行い,工場のDDCPとデータ値を合わせ,印刷色調再現プロファイルを埋め込んだインクジェットプリンタで出力する。ここで出力されたカラーの方向性が指針となる。

撮影直後の段階において色評価用の照明下でプルーフと商品(現物)を対比させながら色調修正をする。ここでの色調管理は,おおよそ95%の精度で合わせ込み,完成度を高めるイメージである。したがって,この段階で画像合成等もすべて完了し,完結した画像データまで仕上げていく。
その後,入稿データ作成,入稿,DDCPを出力するが,ここでは得意先の色調赤字がほぼ入らない程度のフローを目指している。若干の体裁修正を行う程度で責了を迎えるのが理想である。

CTP刷版や印刷では,得意先の理解も得ないと理想的なフローには至らないが,時代の要求としては前述のフローになる。得意先でも,業務負荷軽減ということで,以前のように何度も校正することが徐々になくなっている。 また,校正スキルも次第に落ちているので,商品の色調に関しては,川上側で相当高いレベルに持っていき,DDCPを出力したときには体裁の確認程度で済ませる方法がスタンダードになっている。
これらの効果は,工程短縮と品質精度の向上,得意先と自社両方が業務負荷の軽減になる。また,川上側で画像データの精度を高めるので,その後のクロスメディア展開もスムーズである。工程縮小のためのコスト削減としては,以前は製版フィルムを何度も破棄していた状況であり,撮影時もポラロイドを撮ったり,フィルムを何本も現像して,その中から選択するフローであった。現像液などの処理液やフィルムの無駄も含め,環境に配慮したフローである。

デジタルコラボレーションスタジオ

当社では,デジタルコラボレーションスタジオ(以下,DCSという)を1999年10月に設立した。これは撮影と画像処理を融合した組織であり,撮影から適正画像データを作成することを目標にしている。前述のように,デジタル撮影が単独で存在するのではなく,カラーマネジメントと連動して効果が上がり,意味のあるものになる。
DCSでは,2000年頃からデジタル撮影の比率が上がってきた。2000年で約40%であったものが,2004年3月期では80%を超えている。これは限りなく100%に近づくであろう。ただし,撮影がデジタルになっても,後工程が重要になる。

当社では,常に30〜40チーム程度の規模で撮影が行われており,それぞれのスタジオで撮った撮影データを,社内LANでサーバルームにあるサーバに格納する。DCSのオペレータがこのサーバルームのサーバにアクセスし,そこからデータを入手する。
このRGBデータは,CMYK変換,画像合成,色調補正,色調調整などの処理が行われる。変換・修正を行ったデータを,再び社内LANにて各地のプリプレス部門へ配信する。配信と同時に作業済みデータをもとのサーバに戻し,バックアップデータとして保管する方法をとっている。

データベース運用とネットワークによる効率化

得意先からASP運用を依頼され,データを格納するデータベースサーバを多数用意している。撮影後の完結データを格納し,得意先の宣伝部または販売代理店,制作会社,他の印刷会社がサーバにアクセスして,画像データをダウンロードするASP運用である。
暗号化のSSL技術に加え,電子署名のファイルを所有するクライアントに絞ってアクセス許可をしているので,セキュリティも確保できる。
いろいろな所からアクセスがありダウンロードしていくが,アクセス履歴が逐次管理できるので,ダウンロードの実績に関して,本部に集中して請求することもある。

従来はトラック輸送等で4版のフィルムを運んでいた。フィルムの無駄,ガソリンの消費,CO2の排出など,いろいろな面で環境に配慮した動きができるようになってきた。このような点も,フルデジタルのワークフローの恩恵であり,最終的にはさまざまな効率化につながると考えている。
また,データベースからデータの二次利用があり,下版データに関しては社内のイントラネットで各地の工場に配信し,各地でCTP,刷版,印刷するという流れになる。これが基本的なデジタル撮影からのワークフローである。

関連情報 : 10月18日(火)テキスト&グラフィックス研究会ミーティング
デジタルカメラによるRGBデータ入稿の現状と課題

(テキスト&グラフィックス研究会)

2005/10/03 00:00:00


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