本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

製版会社のヘキサクロームへの挑戦

高付加価値のために4色を超えるインキを使用したり,200線以上の細かい網点で印刷することで,プロセスカラーで印刷するよりも色域を広げて見た目を良くする方法がある。
 ヘキサクローム印刷も高付加価値をもたせるための印刷だが,簡単に運用できる技術ではない。そのヘキサクローム印刷に取り組んでいる製版会社の事例を紹介する。

■ヘキサクローム印刷に取り組むきっかけ
 パントン・ヘキサクロームとは,パントン社が特許取得した6色印刷である。従来のプロセスカラーであるCMYKのほかにオレンジ・グリーンのインキを使用した印刷であり,パントン社が各国のインキメーカーにライセンスを下ろし,そのインキメーカーからインキを購入すれば印刷できる。
 ヘキサクロームに取り組んだこの製版会社は印刷工場の環境整備についてノウハウがなかった。まず工場設計に多額の初期投資をした。壁を二重にして防音ガラスを張り,振動の影響がないようにし,温湿度の装備などを整備した。製版の環境を印刷にもってきたという感覚もあったようだ。これらの調整は印刷機メーカーに依頼した。
 通常,刷版の手法一つとっても印刷会社はそれぞれ管理の仕方が違う。しかし,当初この会社は単純にフィルムがアルミ板に替わるだけという意識でCTPを導入した。そして,本機校正ができるような環境を作り菊全の4色機を導入した。もちろん立ち上げるまでには解決しなければならない問題があった。導入したことで小さな仕事は増えたが,他社と違った特長をもつには至らなかった。
 そこで,他社との差別化を図るにはどうしたらいいかということから,製版の力を生かせる技術力は何かないかと模索していた時にたまたまdrupaでヘキサクロームのソフトを見つけ,そこからヘキサクローム印刷に取り組んだ。
 そして,いろいろな文献や実績のある会社の資料を集めてテストを繰り返したが,当初はうまくいかなかった。インキが悪いのか刷りが悪いのか,何をやってもうまく刷れなかった。

■試行錯誤の材料・機械調整
 もともと製版会社のため,自分の会社の刷り物がこれだと言える管理データがなかった。そのためインキ皮膜,ドットゲインを始め必要な調整をすべて行うよう印刷機メーカーに依頼し約2カ月掛かってできた。しかし,それでもうまくいかず,そこからまた3〜4カ月を掛けて調整を繰り返し,このくらいだったらいいだろうという数値を見つけ,それを当社の基準にするというやり方をした。 印刷の技術がないため機械に頼らざるを得ない。とにかく印刷機やオペレータには負荷を掛けないという方向で調整した。
 その調整過程の中でブランケットの選択にも苦労した。網点の形を崩さずカーブを崩さないようなブランケットはどのようなものがいいのか。また網点の形状を崩さないために湿し水はどうしたらいいのかという視点からテストを繰り返した。
 湿し水もIPAを極力添加しないようにしたが,厚紙への印刷では3%までいかない程度で入れることもある。基本的に湿し水はかぶる寸前まで絞った。また,オレンジとグリーンは蛍光色が入っているため湿し水の管理は難しく乳化が早くなることもあり注意をした。 またインキについてもインキメーカーからヘキサクローム用のSOYインキを取り寄せて印刷している。最初は,タックも全く違っていたが調整を重ねて,硬いインキで印刷できるようにした。
 このような調整をする中では印刷機に負担を掛けず,オペレータが代わってもここさえ見ていればどうにかなるという環境を作ることにより,どれだけ印刷機を安定させられるかを考えた。言い換えれば,印刷機械を掃除とオペレータが必要なカラーコピー機という位置付けにしていたということだ。

■プロセス4色との違いは一目りょう然
 ヘキサクロームを行って難しかったことは標準値をどこに設定するかだ。標準値についての資料が非常に少なく,どれが本当に正しいのか判断がつかなかった。 しかし,もとは製版会社であることからプリプレス関係は得意で結局プロファイルをどう動かしていこうかというところから機械を安定させて設定を変えず,変えるところはプリプレスの値でというやり方をした。
 さまざまな試行錯誤を経て標準値を決めることができた結果,そのデジタル化された標準値を基に定期的な印刷機の点検が可能となった分,現在はどこがどうなのか全部判断できるため,特別なことがない限り機械メーカーに頼らず自社でメンテナンスしている。 ヘキサクロームもプロセスカラーでもプリプレスデータの中では同じRGBのデータである。このデータをプロセスカラーで印刷する時は4色を出力し,ヘキサクロームで印刷する時はオレンジとグリーンを含めた6色を出力している。
 ヘキサクロームの印刷は900線までの高精細,FMスクリーンといろいろテストした結果,通常のCMYKをAMで印刷し,オレンジとグリーンをFMで印刷することにした。 オレンジとグリーンをFMで印刷するとモアレが出ないということと,オレンジとグリーンは蛍光色が多いため彩度が上がる。もっとも,オレンジとグリーンは先刷りということでタック値の調整をインキメーカーに依頼した。
 印刷はいろいろなテストの結果,オレンジとグリーン2色をFMでプロセスカラー4色をAMで刷ることにした。またこれは業界の基準になっているわけではないが,いろいろな経験則からコンソーシアムでもこれを基準にしている。 ヘキサクロームはAdobe RGB相当の色域をもっており,絵柄の色域を確認できるソフトをヘキサクロームのコンソーシアムでも作っている。 そして,そのことはヘキサクロームを行っているうちに経験的に分かってきた事項でもある。例えば,グリーンの調子の出がプロセスカラーのみの場合と比べても違って見えることから,色域が広がっているということが分かる。
 また,4色で印刷すると濁りが出るのは否めない。しかし,6色を掛け合わせて濁りが増えているかと言うと,逆に濁りは減っている。例えば茶色の場合,ヘキサクロームではオレンジとスミの2色だけで表現できることから,細部表現などもより彩度を出せるようになった。

■本機校正でなくても校正可能
 ヘキサクロームの特長として画面の色に近いという評価をしているデザイナーもいる。900線での印刷もある写真家からは紙面上でカラービューアを置いてポジを見ているようだと評価されたこともある。
 インクジェットプリンタで校正も可能となっており,初校でOKになるケースが多い。 通常の色校正と言えば,絵柄の部分的な色の細かい補正があり数回校正をし,刷り出しに立ち会って責了というのが多くのパターンである。従って,モニタ,インキジェットプリンタと印刷機の色を合わせておけば製版単価も時間的なメリットもあり,かつ高付加価値があるというプレゼンができるところまで整備されてきた。
 以前こうした高付加価値のある印刷は,色校正に掛かる時間やコスト的な面から限られたものにしか使われなかった。しかし,デジタルの環境が整いカラーマネジメントシステムが確立されると時間的コスト的な問題も少なくなり,他社との差別化が図れるだろう。                                (伊藤禎昭)

2005/10/09 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会