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新聞CTSとDTPの融合

〜Adobe InDesignをベースとした新聞組版ソリューション〜

富士通では1980年頃からメインフレームベースの新聞CTSを開発・販売してきた。DTP等のオープン技術の進展に伴い,新たにInDesignをプラットフォームとした新聞組版ソリューションを開発した。
テキスト&グラフィックス研究会では,同社報道メディアシステム開発統括部のチーフアーキテクトの茂木一政氏に,開発の経緯と今後の展望について伺った。

新聞制作と出版・印刷制作の相違

新聞制作における時間的制約は非常に厳しく,1面を15分程度でレイアウトしなければならない。また,素材が揃わない時点でレイアウトをおこなうことや,次々に重要なニュースが来るなど,レイアウト変更にも柔軟に対応することが必要である。1日に編集・発行する面数も非常に多い。
したがって,新聞制作システムには分業対応,同時並行処理などを含めた高い生産性が要求される。出版印刷分野における組版レイアウトは個人の能力に依存するが,近年の新聞制作では専門ではない整理記者や編集者による組版が要求されている。

InDesignによる新聞組版の開発経緯

InDesignは,オープンなデータ入出力が可能で,多彩な機能を持っている。また,PhotoshopやIllustratorなど他のアドビ製品との親和性も高い。カラーマネジメントの機能も充実している。従来の富士通新聞システムはメインフレームベースのため,新しい入出力フォーマットやカラー対応,デザイン指向の組版が苦手となっていた。この弱みを補うには,InDesignをベースとする開発が最適であると考え,アドビ社と提携し,協業することとなった。

しかし,通常のInDesignの操作は自由度が高い反面,複雑な設定が必要である。「素材リストから素材を選択し,流し込む」という単純な操作だけでレイアウトをおこなうことは出来ない。新聞特有の小組の概念もない。さらに,新聞に必要なレベルのデータ保証や信頼性が弱いという問題があった。これらの不足部分を,プラグインやアプリケーションとして開発した。

新たに新聞段組と新聞用小組の機能を搭載した。組版の一部は,独自の組版エンジンが動作するようになっている。また,組版結果に対するハイライト表示,強調表示,警告表示をおこなう独自の描画エンジンを実装した。また,専門のオペレータでなく整理記者による組版を実現するためのユーザビリティとして,GUIはInDesignのオリジナル部分をほとんど取り替えるくらい違うものとなっている。
印刷や新聞のコンテンツは,通常ファイル単位で管理されている。データ保証・信頼性向上のために,トランザクション制御を行うためのミドルウェアを組込んでいる。

このようにInDesignベースの共通アーキテクチャ(OpenType,UNICODE,PDF,プラグイン,スクリプティング等)上で新聞CTSとDTPの融合を実現した。

富士通新聞組版システムの特徴

編集画面上のメニューは通常のInDesignではなく,新聞制作用のメニューとなっている。素材リストには,割付を指示された素材が一覧となって表示される。素材を選択し,紙面に配置する。たとえば,ある見出しを選択し,配置する位置をクリックする。中央近辺の適当な位置をクリックすると,自動的に割付可能領域の一番右端に吸着されて配置される。このような操作は,新聞段組特有のものである。

記事を流し込む場合,配置する段の1点をクリックして指示すると,自動的に最適な領域に配置される。素材リスト上には,素材の状態(配置済みかどうか,素材の大きさ)や,配置済み記事の行数も表示される。さらに,記事配置のバリエーションとして,複数段への配置,左寄せ・右寄せも簡単な指示で自動的に行われる。罫線の自動発生も可能である。これらは,「置く」「流し」「寄せ」と呼ばれる新聞組版独特の機能である。
見出しを作成する場合,小組という機能を使用する。見出しの編集画面から,見出しのサイズ・見出し文を入力する。入力を終えると,素材一覧に「見出し組」が追加表示される。

その他,独自の文字組版機能として,3行取りの見出しを簡単に作成できる。また,地紋見出しの場合,バックグラウンドでIllustratorが自動的に起動し,EPSファイルが生成される。
テレビ欄は,自動組によって局単位の組が作成され,一括割付という機能により紙面に割り付けられる。そして,空いている部分に番組の紹介記事を流せば,テレビ欄が完成する。これらの豊富な小組機能は,分業ワークフローを支えるためのコアの技術である。

紙面事故を防止する仕組みとして,オーバーフロー警告表示があり,紙面上に赤く表示される他,素材一覧上にも警告表示され,紙面の掲載ミスを知らせるようになっている。さらに,紙面完成時に「記事校了」という操作をすると,チェック機能が動作し,記事のオーバーフローの他,文字無し,イメージ配置や広告掲載の抜けがないかどうかのチェックがおこなわれる。
また,操作中に何らかの原因でメモリ不足となっても,ハングアップするのではなく,警告が表示される。異常終了時でも,直前までデータ保存されており,復旧が可能になっている。

スポーツ紙等では見出しや写真のレイアウト等,通常のDTPと同等の機能が必要になる。その場合,モード切替によりInDesignのDTP機能を使用できる。

デジタル・コンテンツ・サイクルの実現

見出しなどのコンテンツは,再利用のためにXML形式でのデータ保持を行う。他に紙面PDF・割付情報XMLなどを保持することができる。これらは,将来のデータ流通に備えアプリケーションに依存しない設計を行っている。
新聞社内の部門間連携のための機能として,編集部門からの「出稿予定」に基づき,組版システム上でもテーマ単位に記事・画像を管理している。また,素材が到着しない段階で出稿予定に基づく組版作業を進めるスケッチ組版機能,素材到着後に実物との差し替えをおこなうトラッキング管理機能がある。
大組時には,広告システムから供給される広告情報と記事レイアウト情報に基づく自動割付が行われる。大組面が校了すると,Web配信システムにPDFデータを自動送信している。

紙面制作過程における記事,画像,グラフィックなどすべてのデータは,社内ネットワーク上で共有される。面フォルダと呼ばれる1つの作業単位ごとに一元管理される。面フォルダの上位には,紙面管理システム・工程管理システムがあり,下位には組という概念がある階層構造となる。使用者はファイルやフォルダを意識することなく,素材を扱うことができる。
内部では面ごとにXMLで記述されたメタデータがあり,階層構造のデータを管理している。

これらの仕組みにより,入稿・紙面制作・再利用という,デジタル・コンテンツと管理情報のサイクルを実現している。

今後の新聞組版の課題

コンテンツマネジメントやセキュリティ,クロスメディア対応などが今後の課題である。フォントや文字組版も新聞組版とDTPのベース技術であり,今後もアドビ社との協業により,これらの課題解決に取り組んでいく。

(Jagat Info 2005.10月号より)

2005/10/10 00:00:00


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