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ブログをビジネスツールとして活用(前半)

注目されるブログマーケティング

株式会社カレン 広報室長日本広告主協会 Web広告研究会広報委員長 四家正紀

個人の情報発信ツールとして広まったブログは,2004年ごろから企業でも取り上げられ,ビジネスにも有効なツールとして注目が集まっている。従来のWebサイトと比べると情報更新の容易性,コミュニケーションのしやすさ,コスト削減などが可能になったからである。
2005年5月に総務省から発表された「ブログ・SNSの現状分析及び将来予測」では,2005年3月末時点の国内ブログ閲覧者数(少なくとも月に1度はブログを閲覧しているインターネットユーザ)は約1651万人と報告し,2007年3月末には約3455万人に達すると予測している。
ますます広がるブログの可能性とビジネスに結び付ける取り組み事例を紹介する。

広がるブログのビジネス利用

筆者がブログと初めて出合ったのは2003年の春のこと。一読者としていくつかのブログを個人的に楽しみながらその特性を徐々に理解するにつれ,勤務先である株式会社カレンの業務である「ネットを活用した販売促進」のツールとして「使える」との感触を得た。そこでまずは実験と称して,自社サイトを最もメジャーなブログツール(ソフトウエア) であるMovable Typeで構築し2004年の春に公開したところ日経新聞などさまざまなメディアから取り上げられた。当時はまだそれくらい企業のブログ活用は珍しかった。その後の試行錯誤を経て,現在カレンでは日産自動車様・味の素様・東京三菱銀行様・はくばく様などのブログマーケティング企画運営を任されている。
ブログは,もともと個人からの情報発信のために作られたコミュニケーションツールであり,日本では特に「趣味で開設する日記サイト」として捉えられることが多かった。しかし,最近ではビジネスにおける活用が急速に広まっている。
図1は,現在のビジネスにおけるブログの利用形態についてまとめたものである。社内のナレッジマネジメントのための「イントラブログ」,広く企業イメージをアピールしている「社長ブログ」,人材採用のための「人事部ブログ」などさまざまなパターンがあるが,なかでも注目を集めるのは「ブログマーケティング」と呼ばれる商品やサービスの販売を目的としたブログの活用である。本稿においては,主にこのブログマーケティングを中心に話を進める。

なぜ企業のブログ活用が注目されているのか

「趣味で開設する日記サイト」として捉えられることが多かったブログが,なぜさまざまな企業活動に利用されるようになったのか。これを考える上で連想されるのは,同じようにかつて個人の情報発信ツールとして発達した「メールマガジン」である。
メールマガジンは「まぐまぐ」の登場により個人発信メディアとして大きく発展し,日本独特の「メルマガ文化」を確立した。この土壌の上に幅広く普及したのが企業による販売促進目的のメール活用すなわち「Eメールマーケティング」である。ブログマーケティングにおいても事情は極めて似ている。まず個人向けのコミュニケーションツール・形式として多くの消費者に受容されたことが,企業のブログ活用急増のトリガーとなったのである。
しかしいかに表現形式として受容されたとしても,ビジネスにおけるメリットがなければ企業はブログを使わない。企業利用におけるブログの利点とは何だろうか。以下に主なものを紹介する。

(1)リピートアクセスの獲得
まず挙げられるのは「頻繁に記事の追加や更新が可能」という点である。
ブログツールは,Webサイト運営におけるルーチンワークである「更新作業」の負担を減らすためのCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)であり,新しいソフトを習熟しなくても,メールのやり取りができる人ならだれでも容易に更新できる。
頻繁に更新するWebサイトには,常に新しい情報があるので,アクセスが習慣的になりやすく,リピートアクセス(定期読者)の獲得に極めて有利である。ブログサイトは,従来のキャンペーンサイトに比べて「アクセス数の減少が緩やかで,ユニークユーザ数がなかなか減らない」という結果が出ている。

(2)自ら「これ読んでください!」と働き掛ける
通常のWebサイトはいわゆるプル型のメディアであり,読んでもらえるのをじっと待っている。これではだれもアクセスしないので,広告や広報活動によるURLの告知活動が必須である。ブログもWebの一種なので基本的には同じなのだが,PingサーバやRSSといった,サイトの新着記事を通知する機能を実装している点が大きく異なる。
Pingサーバはブログの更新情報を集めるサーバの一種で,ブログのオーナーは自分のブログにPingサーバの設定を一回行えば,後は更新される度に自動的に更新情報がPingサーバに発信される。利用者はPingサーバやPingサーバに集まる更新情報を利用したリンク集などを通じて「たった今更新されたブログ」にアクセスすることが可能になる。
もう一つの「RSS」は,Webサイトの最新記事の見出しと要約をまとめたXMLファイルで,HTML同様にWebサーバに置かれている。これをRSSリーダーと呼ばれる専用ソフトが自動巡回で取り込んで表示することにより,あたかもブログからメールで更新情報が送られてきたのと同じように見える。
今までのWebサイトはアクセスしてみるまで新しい情報があるかどうか分からなかったが,ブログはPingとRSSにより自分から「新着記事あるから読んでください」と教えてくれる。しかもメールアドレスなどの個人情報を登録する必要がない。
また,ブログについてよく指摘されている「検索エンジンに強い」という特性も,この「これ読んでください!」の中に含まれるかもしれない。ブログがなぜ検索エンジンで上位に表示されやすいのかについてはさまざまな要因があるが,取りあえず「ブログツールは検索エンジン用に最適化されているシステムである」ということだけは押さえておこう。

(3)コミュニティの仕掛けがある
ブログには書き手が読み手の反応を確認するためのコメントやトラックバックという機能がある。コメントは記事ごとに付加される掲示板システムと説明しておけばだいたいご理解いただけると思うが,トラックバックはブログ独特の仕組みであり,ご覧になったことのない方に説明をするのはかなり難しい。まずは図2をご覧になっていただきたい。ブログAに書かれた記事にブログBの書き手が反応し,関連する記事を自分の運営するブログBに書いた。ぜひブログAの書き手や読者にもこの記事を読んでほしい。そこでブログAの該当記事に対してトラックバックを送信すると,記事の中にブログBへのリンクが生成される。これによりブログAの書き手と読者は「記事に関連する情報」にアクセスすることが可能になるのである。こうしたトラックバックを相互に続けていくうちに書き手(ブログ運営者)と読み手,読み手同士のインタラクションが成立する。
特に注目すべきは,まず書き手による記事があって,これに読み手が反応する形を取るため,書き手側がコミュニケーションテーマを限定しやすいということ。さらにトラックバックでは,読者が意見を書くのは自身のブログになるため,不適切な不規則発言いわゆる「荒らし」が起こりにくいので,従来の掲示板と比べて,企業側のコミュニティ運営の手間が軽減される。

(4)個を前面に出したコミュニケーションが可能
最後に最も重要と思われるのが,その更新の容易さにより「経営者」や「現場の社員」といった忙しい方々でも,自分の言葉を自分の語り口でダイレクトに発信できる点である。 もともと個人発の情報発信ツールであるブログでは,多くの場合「私」という一人称で語られることが多い。この「私」を生かしたブログ独特の「個人による一点突破的でタイムリーな表現」がもつ訴求力と親近感の強さにおいて,ブログは会社案内や商品カタログなど「印刷物」の延長線上にある「従来のWebサイト」とは際立って異なる。印刷物は客観性や網羅性,正確性が重視されるため,「個人」の視点は打ち出しにくいのだ。
ブログでは「書き手の独自の視点」からセレクトした話題を,「個性ある語り口」で表現できる。今までこのような表現が可能なメディアは,特定の読者に配信するメールマガジンくらいしか存在しなかった。
以上のようなことから,個を前面に出した表現を不特定多数に公開できるブログは,企業にとって非常に魅力的なコミュニケーションツールなのである。

前半 | 後半

『プリンターズサークル』10月号より

2005/10/22 00:00:00


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