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技術は変化するが、技術思想はそう変わらない

技術と文明は密接な関係がある言葉だ。古代文明の時代と今とでは、人々の暮らしは全く異なるが、大雑把に見れば考え方はそう違うものではない。牛や馬に車をひかせるのも、ガソリンエンジンやモータで運搬するのも、そんなに差がない場合だってある。むしろ特定の機能で優れたものが、柔軟さという点ではローテクに劣ることはよくあることだ。

何がいいたいかというと、我々は今日、技術革新の差分を追いかけるようにニュースを読んで設備更新システム変更などに忙しくしているが、そのメリットはごく一面的一時的なものでしかないこともあり、労多くして益少なしという経験も多い。特にIT関係は技術の陳腐化が激しく、ボヤボヤしていて取り組みが遅れてしまって、マズイかなと思っている間に、勉強すべき対象が滅んでしまい、ホッとする場合すらある。

ところが技術の方もしぶとく敗者復活を果たそうと狙っている。パソコンの登場期に使われたBasic言語は紆余曲折したが、C言語と変わらないようなものとなり、今はVBScriptみたいになって使われている。TVのセットトップボックス用のjava言語もインターネットという別の世界に向けて作り直して継承されている。ということは、その時々のニュースの奥底に、もうひとまわり大きな括りの技術の変化があり、それに向けて軌道修正を繰り返していくものが生き残るようだ。

大括りの技術変化を技術思想の流れととらえるならば、Basicやjavaには共通の性質があることがわかってくるだろう。つまり技術思想の流れが見えてくると、今までの無駄な投資は随分と整理されるのだろうなと思う。DTPに至る技術の変化おいても、版下作図機、モノクロスキャナ、電算写植やCEPSでのトレース作業、こういった機器間でのデータ変換などに随分と投資がされたが、DTPになってしまうとそれらは殆ど何も残っていない。

これから先も技術変化が続くとすると、DTPの経験を基に大括りな技術変化を分かるようにしておかなければならない。実はDTPエキスパート認証・登録制度が2年ごとに更新試験をするようになっているのも、個々の新たなテーマとは別に、グラフィックアーツの技術の変遷を通して、かえって普遍なるものが分かるようになるべきだという考えがあった。

最初の1994年時点ではDTPという新しい道具を使いこなすことに主眼をおいてカリキュラムを組み立てていた。対象および内容は当時の電算写植やスキャナを扱っている人にパソコンDTPのオープンシステムを理解してもらうことと、デザイナなどがDTPを手にすることで新たに印刷物製造工程の手の内のノウハウを理解してもらうことであった。この2点は基本的には今も同じだが、すでに電算写植やスキャナが第一線から引いてしまったし、過去の印刷工程を知っているデザイナではなく、全く印刷工程を知らない人でもDTPを手がけるようになった。

だからDTPエキスパートの目標を過去のように技術変化に拘泥したものではなく、もっと普遍化させていき、キャッチフレーズを「よいコミュニケーション」「よい制作環境」「よい印刷物-高いパフォーマンス」と後に変えた。それとともに採り上げる問題も、書体とは、レイアウトするとは、色とは、といった基本的なものを増やすことになった。これは時代の表層の技術変化に足元をすくわれないで、大括りの技術変化をとらえるためである。

印刷物制作に関する技術革新はスローテンポになったように見えるが、大括りの技術理解をして制作サービスの価値を上げるよう努力する人には、何を身に付けるべきか必要なことが見えるのである。XMLやデータベースの利用など印刷につながる情報源の環境は大きく変わった。またカラープリンタ、デジタルカメラ、液晶モニタなど作業環境も過去とは全くといっていいほど変わったし、まだ変わりつつある。顧客や外注先ともネットワークで情報共有するように変わりつつある。

これらへの取り組みは、それぞれの事情によって早い遅いの差があるが、だいたい進む道筋は見えてきた。そこでDTPエキスパートの試験ではその時の状況に応じて必要と思われる新たな問題を追加してきた。この種の問題は人によってはまだ時期尚早であったり、意外と感じられることもある。そこで一見とっつきの悪いテーマに関しては参考情報を見てもらう必要があると判断し、その中からランダムにピックアップして、 http://www.print-better.ne.jp/ の中に、 DTPの一歩先 (実際は半歩くらい)というコーナーを作り、順次掲載していく。

2005/11/07 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会