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米国におけるDM動向

米国ジョージア州アトランタ市において10月15日(土)〜19(水)の5日間,DMA(ダイレクトマーケティングアソシエーション)年次大会が開催された。この年次大会はマーケティングに関する世界最大のイベントであり,今回が26回目の大会となる。アトランタ市はコカコーラやCNNの本社があること,またアトランタオリンピックなどで有名であるが,ジョージア州の州都で非常に閑静な町である。今回の会場のワールドコングレスセンターは,ダウンタウンのオリンピック記念公園とCNN本社のすぐ近くに位置した非常に大きなイベント会場である。ビッグサイト東館程度の大きさの建物が3棟あり,この一つを使用して今回展示会,コンファレンスが開催された。
15日夕方より参加者・関係者を含めた歓迎会が開催された。日本からは博報堂,大広などの広告代理店,コンサルティングのダイレクトマーケティングジャパン,帝国データバンクの現地法人など,昨年よりも多数の企業関係者が参加していた。
展示会は16日夕方から,コンファレンスは17日朝から開始されたが,事前の15日よりプレコンファレンスや各種の分科会が設けられ,DMやダイレクトマーケティング関係の知識・手法を中心とした講義,最新の情報交換などが実地されていた。事前のプレコンファレンスから参加する日本人も多くなっている。
DMA05の運営は基本的に従来どおりであるが,エコー賞の発表会が会期の最後に移り,GALAと一緒になったことが前回との大きな変更点である。また,今回はDMAのロゴが一新されるとともにEメールに関するAuthentication System(認証制度)が発表されたことが大きなトピックスである。
以下,基調講演,展示会,エコー賞受賞作品,コンファレンスのトピックスなどについて概要を紹介する。

10月17日 基調講演(DMA会長 Mr.Jhon Greco 講演

ダイレクトマーケティングの将来は過去になかったほど,明るさに満ちている。ただし,ダイレクトマーケティングは急激に変化しており,ダイレクトマーケターの役割は,変化を起こさせるように〔choice〕すること,また意識的してこの変化に備える必要がある。このような変化の中でDMAの今後の活動は,3つの〔R〕に集約できる。それは,〔relevance〕,〔responsibility〕,〔results〕 である。ダイレクトマーケティングが提供するすべての手法・手段は,顧客にとって最も適切(relevant)に仕立て上げられねばならない。提供する手段・方法は,顧客に信頼され,社会的に信用がおける,そのような責任(responsible)のおけるものであらねばならない。また,結果を出すこと(results)については言うまでもない。このような背景を下に,今回(スパム対策の一つとして)Eメール認証制を10月15日に発表した。これは商業目的に送信されるメールの適法性評価を支援する制度であり,この認証制はDMA会員が守る必要のある〕倫理ガイドライン(ethical guidelines)の最新の付加条項として扱われる。さらに,変化に先駆けるため,新世紀に向け,新たにロゴを制定した。新しいロゴでは〔DMA〕という名前を,〔Power of Direct〕 ボタンとペアで使用し,〔The Power of Direct: Relevance,Responsibility,Results.〕というタグラインが組み合わされている。新ロゴを制定した狙いは,DMAが新しい変化の先兵になり,ダイレクトマーケターと顧客の関係をより強くするための主唱者・擁護者となることにある。

展示会(16日〜19日)

会場はA〜Cの3つの建物のうち,Cを使用して実施された。会場の大きさは昨年とほぼ同じ大きさであるが,昨年は75周年ということでお祭り騒ぎが目立ったが,今回は通常の展示に戻っている。出展社は,データベース,名簿業者・ブローカー,販促物メーカー,ラベル印刷・交通広告などの印刷会社や広告代理店,封筒メーカー,物流会社などである。どこも小間は1〜2と比較的小さく,各社ブース間は壁がない。広告代理店では,Wunderman社,Harty Hunks社,DBではSAP,SPSS社が,また物流関係では,USPS,UPS,DHL,Canada Post などの展示があった。ちなみにアトランタの町中を歩くと,USPS,UPS,DHLなどのポストが同じ場所に設けられており,一足速い郵便事業の民営化が体験できる。
さて,これら各社の展示は,日本のように〔多くの製品を展示〕するというスタイルではなく,人を多く配置し,説明に必要な製品のみを展示し,〔来場者とのコミュニケーションを取る〕スタイルであることが大きく異なっている。このために,話のきっかけを作る工夫として面白い販促物などを配布することも多用されていた。
従って,何か問題意識を持ってブースに行かないと各社の製品やサービスの内容がなかなか把握し難い状況になってしまう。印刷・プリンティング関係では昨年よりも参加企業数が多かった。ゼロックス,コダック,HP,ザイコンなどの機器メーカーと,ソフトウエアではXMPIE社からの展示があった。ゼロックスはパートナー企業展示を,コダックとHPではネクスプレス,Indigo5000をおのおのカタログで説明,ザイコンのみがXeikon5000の実機デモを実施していた。各社とも最新プリンタやこれを用いたパーソナルDM活用への事例紹介などに力を入れていた。また,XMPIE社では銘打ちパーソナル化した旅行販促キャンペーン例などを紹介していた。
会場ではインターナショナルゾーンがあり,中国ほか,アジア企業の展示もある。日本からは日本経済新聞の各メディア紹介があった。
会場では展示のほかに,ダイレクトマーケティング手法などに関する相談コーナとして〔メディカルゼンター〕が設けられ,CRM,クリエイティブ,リスト・DBなど専門別に無料相談が実施されていた。ただし,診断は1件1講師当たり約20分程度であり,若干診断時間は不足気味ではないかと感じた。

エコー賞

17日夕方(19:30〜)にエコー賞の発表があった。事前に,15日から展示会場の入り口に候補作品が常設され,常時確認できるるように配慮されてはいたが,従来どおり売りの初日発表のほうが参加者としてはありがたい。今回はゴールド賞が18点,シルバー賞が35点,ブロンズ賞が41点あり,この中から特別賞の一つとしてダイアモンド賞が1点選ばれた。また部門別では,ファイナンス部門が最も多く14点が入賞,次ぎに情報部門とビジネス部門が12点入賞となっている。各賞受賞作品の中から数点を以下簡単に報告する。

1.ダイアモンド賞
キャンペーン名称:「ギネス リレーションシップ マーケティング」(アイルランド ギネス)
これは消費者とパブオーナーの関係を最大限に生かすことを目的としたキャンペーンである。家で飲酒する人をターゲットにギネスビールへのブランドスイッチを図ることを目指している。

2.ゴールド賞
・自動車部門:「ボルボ ヤング ファミリー」(ボルボ)
ボルボが安全な車を作る主導メーカーであることを知ってもらい,実車試走とカタログ請求を図るのが狙い。このために妊婦や赤ん坊を登場させてアピールを実施。
・ビジネス・コンシューマ サービス部門:「インターナショナル キャンペーン」(UPS)
UPSの国際・国内サービスの利用を活性化するためのキャンペーン。
・ファイナンス門:「フィロソファーズ」(ABN AMRO BANK)
BtoB,BtoCの関係をより緊密にすることを目指し,大企業の経営者層向けに「フィロソファー」コースを設けるキャンペーン。手書きのパーソナライズされたレターを使用。
・情報技術部門:「戦略的アウトソーシング キャンペーン」(IBM ブラジル)
CIO,CFO,CEOに向けカスタマイズされた郵便キャンペーン。アウトソースによる効果が早く出ることをイメージさせるために郵便で植物の種子を送る工夫などがされている。
以上,一例を紹介したが,いずれもDMに関しては,レター,オファー,形状など,数多くの工夫が行われ,また他メディアも効果的に活用している特徴あるキャンペーンである。単に面白さや工夫という点のみならず,効果についても実績が厳しく審査されて受賞に至っている。ちなみに今回の審査委員数は約270名である。なお今回,日系企業関係では,情報技術部門で日立グローバル ストレージ テクノロジクスが「エブリウェア DM」キャンペーンでブロンズ賞を,また製造・運輸部門でソニー ブラジルが「ソニー ユニバーシティ リレーションシップ」キャンペーンでブロンズ賞を受賞している。ただし日本国内からの受賞作品はない。
なお,以上の受賞作品の中から,日本市場に参考となる先端作品を選定し,来年2月に開催されるポスタルフォーラム2006で展示する予定である。世界最先端のダイレクトマーケティングキャンペーンやDM事例をぜひポスタルフォーラムでご覧いただきたい。

コンファレンス

コンファレンスはトラック別に3日間で約145セッションが実施された(基調講演を含む)。トラックとしては,カタログ,CRM,DM,ディメンジョナルメール,DRTV,Eメール,マルチチャネルマーケティング,ラジオ,サーチエンジン,テレマーケティングなどがある。この中でいくつかの講演内容をまとめた形で紹介すると,

1.欧州・アジア市場のマーケティング
欧州市場は国の数が多いこと,また文化的背景が異なることから,どのようにマーケティングをすべきかが紹介された。欧州全体で統一したアプローチが可能か否か,が参加者の関心事であった。しかし,講演で紹介された国別の各種データから判断すると統一的というよりはいまだ国別のアプローチが必要と言えそうだ。特にイタリアは国民性が異なることに留意すべきで,東欧諸国はいまだ経済的に苦しいこともあり,消費という観点では西欧に一歩譲るという状況である。
中国についてはいまだデータや事例が少ないこともあり,DMAとしても情報不足のようである。通販関係の事例報告が1件あったが,これには多くの参加があった。講演内容は自社の事業の経緯を紹介したものであり,講演内容そのものはデータ不足であったが,「大漁を狙うにはつり糸を遠くまで投げる」こと,つまりすぐに利益に結び付くことを期待するのではなく,気長に待つことが必要という講師のアドバイスが印象的であった。ちなみにアジアの中ではシンガポール・日本が大市場であり,中国・インドはこれからという状況である。ただし,ダイレクトマーケティングという観点ではシンガポールがアジアの先進地域であり,日本は遅れを取っている(ちなみにシンガポールDMAはあるが,日本DMAはない)。

2.リスト・DBについて
米国はリストブローカーが数多く存在し,名簿の売買なども盛んである。このためDBマーケティングが盛んに実施されている。USPSが1万5000名を調査した結果では,米国では毎年14.8%の人(4110万人)が住所変更し,かつ180万の新住所が生まれているとの報告があった(USPSの配送先は,1兆4100万個所に及ぶ)。また,全事業の18.3%が毎年変化している。従ってリストの内で約30%程度は確実に毎年変化していると推察される。このため数年前に整備したリストは,そのままではほとんどど使えないことになる。継続的・確実なメンテがDBマーケティングの基本である。USPSではこのような結果から,CASS(zip+4 coding accuracy support system),DPV(delivery point validation),AEC(address element correction)やNCOA(national change of address)などのサ−ビスを提供。詳細はUSPSのホームページで確認できる。ハウスリストを整備するか,このような流通データを使用して常に整備できるかがDMのレスポンス率を大きく左右する一因にもなる。全体の投資効率ROIを考慮しながら決めるべき事項であるが,効果を計測することがポイントである。広告費の効果を常に測ることが,今後ますます重要となろう。果たして日本企業ではどれだけ効果測定を実施しているのであろうか?

『プリンターズサークル』12月号より

2005/12/10 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会