本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

デジタルがもたらすパブリッシングの変容

専門性の高度化が求められるプリプレスDTP工程
DTP工程はクリエイションと制作・校正工程を連携したもので,設計・試作工程と見ることができる。単体のソフトウエアの生産性向上はピークを迎えつつある中で,DTP制作から印刷加工工程の生産性を向上するには,コンテンツマネジメント機能の向上や,複数プロジェクトの制作作業をフレキシブルに稼働管理できるような,工程管理の手法の開発と活用が求められてくる。
生産システムのデジタル化が進展すればするほど,主体的な作業であるDTP編集やWeb編集,画像レタッチなどで,クリエイティブなセンスなどの個人技に頼る部分は,印刷会社としての専門性を保ちにくい業務になっていた。 しかも,いくらセンスの良い個人がいても,時間やコストの制約という経済合理性を考えていくと,前工程の主戦場も印刷工程と同様に個人戦から団体戦へ移りつつある。つまりクリエイティビティーと生産性が両立できる専門性のコアを見極め,その能力を大いに高めなければ生き残れない。
全日本印刷工業組合連合会の業態変革推進テーマは「原点回帰」であり,改めて印刷業務そのもので収益を生み出す事業構造を再構築しようとコアコンピタンスの見極めを急いでいる。これには印刷会社の方向性,専門性をもう一度確保するために,ここ10年から20年に起こったデジタルビジネスへの取り組みを再考するという面もあるが,時代にマッチした原点を求めるべきであることは言うまでもない。

DTP制作やWeb制作などデジタル工程は収益源か?
JAGATでは「一般企業における電子文書と印刷文書に関する調査」(2005年5月)と「印刷会社におけるプリプレス分野の状況ならびに制作環境」(2005年9月)で,印刷発注企業や印刷企業におけるドキュメント管理の現状およびDTP制作環境や収益性などについてのアンケート調査とヒアリングを実施した。その結果,次のことが分かってきた。
1. 印刷会社の結果
(1)印刷会社における現状のDTP制作やWeb制作などは,デジタル工程の収益源としては必ずしも良くない。
(2)しかし,2年後の予測ではDTP「新規制作」の収益性は改善されると予測される。
(3)さらにシステムの生産性が改善されると,より大きな改善ができると期待されている。
1)MacによるDTP制作工程の収益性
・MacDTP工程における「新規制作」の収益性について「+」が30%,「±0」と「−」の回答を合わせると58%になってしまう(図1)。

(図1)


・2年後の収益性についての予測は「−」と「±0」が半分以下になり,「+」が37%と7ポイント上昇する。しかし「直し,修正」工程の採算性の「+」ポイントは2年後でも2割以下である(図2)。

(図2)


2)MacによるWeb製作工程の収益性
・Web制作の収益性についての「+」回答は1割以下と少なく,「±0」と「−」の回答を合わせると55%になる(図3)。Windows制作の結果はさらに悪い。

(図3)


・2年後の収益性についての予測は「+」が5ポイント上昇し,「−」と「±0」は44%と11ポイント改善される(図4)。この時点でもWindowsによる「+」はMacより2ポイント悪い。 いずれにしてもWeb制作はDTP制作の一部に取り込んで,「ついで」にこなせるようなアプリケーションソフトの組み合わせを考える必要があるだろう。

(図4)


2. 発注元企業の結果
アンケートでは典型例であるカタログについて,2年後のページ数(情報量)の増減を聞いた。 その結果,2年後の「Web」ページ数が減少するという回答は少ないが,「印刷」ページ数は増加するという回答が減少するの回答を上回っており,チラシも同様である。しかし,業務用の印刷品目は逆の傾向にあった(図5,6)。

(図5)     (図6)


発注側が求める分業への回帰
ある通販会社では,10年ほど前から企画編集からDTP制作までの内製化を進め,デザイナーがDTPを操作してページデータ完成させて,校正以降は印刷会社に任せるという体制を組んできた。そして社内では通販コンテンツのデータベース構築や,定型ページの自動組版の導入など,それなりの合理化システムを築き上げた。しかし,制作期間のさらなる短縮化の会社方針が出されたために,デジタルワークフローに適した役割分担(内製業務と外部企業への委託業務)を見直し,リードタイムの短縮と制作のスピードアップを目指すために,印刷会社との新たなコラボレーションを模索している。
会社から求められたのは,企画からDTP完了までの納期を30%短縮(75日→50日)するという大目標である。 DTP化した当初は100ページ以上のカラーカタログを年18回発行していて,これを企画制作する社内納期は90日が与えられていた。今では年24回発行になっているが,その社内納期をほぼ半減させることが目標である。このために内製化したDTP工程の役割分担を根本的に見直して,社内ではデザイン業務,印刷会社にはDTP業務という一見すると昔のような切り分けに戻そうという構想である(図7)。

(図7) 


しかし,印刷会社に要求しているのは24時間のDTP制作体制であり,同社のデザイナーは創造性の発揮を必要とするデザイン業務に特化し,要領良く作業を分担して遂行する体制を目指しているのである。つまり,印刷会社にとっては,強力な制作体制の提供という原点が求められたことになる。

デジタルワークフローに対応した業務の選別
DTP化は作業工程を簡略化する一方で,新たな作業の標準化(ルール作り)を必要としてきた。 現在のデジタルワークフローでは,受け渡されるデータが標準的なルールにのっとっていないことも多く,既存の工程を単にデジタルに置き換えただけでは,効率化が保証されない場合がある。生産性を向上させるためには業務の標準化を追求する必要がある。
例えば,これまで印刷会社では入稿されたポジフィルムをスキャナ分解した後,微調整(レタッチ)を施していた。画像について言えば,分解データは社内基準の範囲で作成されてきたということである。ところがデジタルカメラの普及でRGB入稿データは,どのような条件で撮影されたか不明な品質のバラつきが多い入稿となり,しかも料金が取れないままで修整作業の負担は増加を続けている。JAGATの「プリプレスにおけるRGBワークフローアンケート」(2005年9月)によるとRGBデータの入稿比率は,昨年25.6%から本年37.7%へ5割増加している。 ある準大手の印刷会社でもデジタルカメラで撮影され入稿されるRGBデータの修整作業負荷が大きくなることが問題となっていた。しかも発注者からの納期短縮の要望は強く,例えばチラシ用の画像200点の処理は,ポジフィルムからスキャナで印刷フィルム用に色分解する作業で3日間であったのが,デジタル入稿では24時間以内の納品が求められる。
そこでカメラマンとスタジオを自社で用意し,撮影作業工程を内製化した。そして,カメラマンにはAdobe Photoshop のようなソフトウエアを利用してRGBレタッチを習得してもらい,画像データの品質を一定範囲内に収めるところまで責任をもたせ,DTP工程では一律に「RGB→CMYK」変換すればよいという流れを作った(図8)。

(図8) 


デジタルカメラ入稿に対抗した苦肉に策としてのスタジオの内製化であり,固定費アップになってでも収益が期待できない画像修正コストの圧縮を,このような形でせざるを得なかった。これはデジタル時代に対応した原点の見直しということが言える。

デジタルの強みを生かしコンテンツ分野へ進出
印刷会社の原点という中には,ソフト化・サービス化が含まれていると考えるべきで,1985年に全印工連から発表された「中小印刷業界の中期ビジョンに基づく施策」などでも,既にハード志向からソフト志向へ,印刷業のサービスについて提起されている。発注側からも時代にマッチする形で対応が求められており,デジタルならではの強みを生かしながらコンテンツ分野へも進出しなければならない。

1. DTP編集からテクニカルドキュメント作成へ
ある自動車メーカーは世界戦略としての経営改革に伴い,製品保守マニュアルのような重要な知的財産はコンテンツデータベース化して自社グループで管理するとともに,自動組版エンジンと連携させている。そのために受注側の印刷会社にとっては,従来あった組版や製版という仕事そのものが消失した。自動車整備マニュアルは,自動車会社によってCD-ROMのみにしてしまったところと,印刷冊子とCD-ROMの両方を発行しているところがある。これらのマニュアルはパーツとして自動車修理工場などに販売されているが,次には課金システムを構築してWeb販売に移行するのが流れである。
印刷会社の対応はマニュアル制作に携わってきた経験を生かし,スタッフを増強してのマニュアル・コンテンツの原稿制作という川上へ事業領域をシフトすることであり,この変革ができた企業だけが生き残っている。

2. デジタルカメラ撮影の次はCGで撮影レスへ
デジタルワークフローの活用により,実物として存在しないもののパブリッシングが,印刷原稿の制作コストパフォーマンスの範囲内で可能となってきた。
商印分野では家や車などの高額商品では,工業設計CADデータを利用して画像をCG制作するコストが,実際の商品を準備して写真撮影するコストにきっ抗してきたことで,撮影からCG作画への移行が加速している。 実物撮りしない「撮影レス」への流れである。
あるハウスメーカーによると,ニューモデルの家1棟を撮影するには,建築費用約2000万円,撮影費用が数百万円(150カット程度)のコストが掛かるという。そこでCG化によるコスト削減と,制作作業から販促活動への社内リソースの移管を目指している。
今までCGは映画やアニメーション制作などで使う高価なソフトや高速コンピュータが必要で,印刷で使う写真原稿の作成には縁遠いものという意識があるかもしれない。しかし,最近ではCGで印刷用やWebページの画像を作成するケースが少しずつ増えてきている(図9)。

(図9) 


ある自動車メーカーでも1998年からカタログ写真の一部について,CADデータをCGソフトで読み込んで作画することを取引先の印刷会社に要望して取り組んできたが,最近ではMayaや3ds MAXなどのCGソフトを使用して「撮影レス」の範囲を拡大している。「カメラ撮影」と「撮影レスCG制作」の制作コストは,平均すると1点10万円で,ほぼ同額になってきたという。写真に限りなく近い表現をCG化するには,カメラマンのライティングノウハウが欠かせないというが,2010年ごろには大半のカタログ画像をCG画像化することを目標にしている。

3. 3D画像への対応
デジタルデータがもたらすリアリティを最大限に活用し,リッチコンテンツによる豊かなコミュニケーションを実現する。メディアの特性に応じて,コンテンツの容量と品質の両方を下げるのではなく,むしろ容量の制約の下で最大限の効果を発揮するためのコンテンツの作り込みを行うのは,(株)スタートトゥデイが展開するZOZO TOWN(http://zozo.jp/)である。同社はセレクトショップのバーチャルストアで,400店以上が軒を連ねるオンラインショッピングモールである。ここは安い商品を検索して決済処理を行う一般的なオンラインショッピングとは一線を画し,逆に希少性のある商品が買えるモールとした。
すべてのストアは,サイト内に建築家,インテリアデザイナー,CGデザイナー,グラフィックデザイナーにより制作された「リアル」な店舗イメージをもっており,実店舗を建設できるほど精ちなCG 画像を,アドビのアプリケーションと親和性や操作性が近いSTRATA 3Dで制作して,楽しさやイメージの伝達までも追求している。 最近では2次元コード(QRコード)の普及による影響もあるが,携帯電話で印刷物などのQRコードからWebにリンクした時に,よりリアル感のある画像表現を求められている。3D画像で立体的な表現を容易に加えられるCG制作,これからは大きな付加価値を生める可能性がある。

制作工程で求められるグループ連携作業
印刷会社へのアンケートで「次世代ソフトに欲しい機能」に対する回答の上位3位は「グループ作業機能(原稿・編集・制作連携機能)」「サーバ連携機能」「DTP-Web制作統合機能」など,グループ連携作業でできる環境が求められている(図10)。また,仮定の設問として「ソフトやハードの改良で1年以内に作業コストまたはスピードが30%改善されたら」への回答は,MacDTP工程の「新規制作」は収益性が「+」になるが6割に達した(図11)。


(図10)     (図11)



アプリケーションソフトからのアプローチ
アドビシステムズでは,2005年7月にプリント・Web・モバイルのための統合デザインプラットフォーム,Adobe Creative Suite 2日本語版(以下,CS2)を発売した。CS2の大きな特徴はアプリケーション連携が進化していることで,デザインワークフローにおけるハブ機能としてAdobe Bridgeというアプリケーションが加えられていることにある。CS2(Premium版)には,Adobe Photoshop,Adobe Illustrator,Adobe InDesign,Adobe Acrobat Professionalに加えてWeb制作ツールのAdobe GoLiveも含まれる。Web・モバイル制作用のGoLive CS2は,IllustratorおよびInDesignからのデータインポート機能が強化されている。従来はアプリケーションごとに設定する必要があったPDF書き出し設定を,CS2上では,各アプリケーションで共有するようになった。漢字の作字や記号をサポートするSING外字ソリューションが提供され,外字も各アプリケーションで共有することができる(図12)。

(図12) 


編集部とライターの連携作業
Adobe InCopy CS2は低価格で提供される,ライティング・編集のためのアプリケーションで,InDesign CS2と連携したコラボレーションを実現するものである。InDesign CS2を使用する編集者の指示に従って,ライターはInCopyを使用して記事を作成しInCopyファイルとして保存する。でき上がったInCopyファイルを編集者に送信すると,編集者はInDesign上でそれをレイアウトするという流れとなる。ライターの作業ファイルは常に監視されており,ライター側で更新作業を行うと,編集者側にアラートが表示される。その際に「リンクを自動修復」すると,編集者側のファイルに即座に反映される。結果的に,ライターと編集者とでお互いの作業を干渉することなく,お互いのいい部分だけを取り出す形で新しいワークフローが実現できる。

アセッツ管理(DAM)との連携
実際のデザイン・レイアウト作業においては,数多くのアセッツの参照作業に伴うアプリの切り替えが頻繁にあり,生産性を悪くしている。その際にはファイルの検索を行うことも多いが,見落としによるミスも起こり得る。オペレータの注意力という個人差も少なくないが,BridgeとVersion Cue CS2という2つの機能が加わったことによって,作業の中断が減少し,また作業グループ内で標準ルールを設けることでオペレータの個人差を解消する手段とすることも可能である。
同一Jobの作業グループが10人を超えるようになったら作業進行管理などのデザイン・レイアウト作業環境のためのアセッツ管理システムと連携させて,セキュリティ管理やユーザごとのアクセス管理,データ配信などのシステム構築を行えばよい。

「機械を上手に回す」から「現場を上手に回す」へ
従来の印刷生産システムや印刷機などの生産機器のデジタル化とは,生産効率を高める方向で進められてきたが,既に単体機器としての生産性は限界に近づいている。今までは,使う側の印刷会社にとっては,「機械を上手に回す」ことが生産性が上がることであり,個々のオペレータの資質が,ほぼそのまま生産性に寄与していたと言える。 今後,さらなる効率化を果たすためには,工場全体の最適化を向上させること,すなわち「現場や工場を上手に回す」ことに注力すべきである。このような流れの中で,生産機器同士の連携による効率化を目指すCIP3/PPFが普及し,その発展形であるMISと生産機器のデジタルネットワークを連携させて全体最適を目指すCIP4/JDF規約も整備されつつある。これにより量産工程であるCTP・印刷・加工の各工程は,上手に工場を回す準備が整いつつある。

団体戦のマネジメントが大切なプリプレス
印刷という量産工程に対して,設計試作工程とも言えるプリプレス工程は設備償却費に対する人件費比率が高い分,グループ作業を効率的に進められる団体戦に強いマネジメントが重要である。これからはデジタルネットワーク上で作業を分業化できるようなアプリケーションソフトやアセッツシステムを活用したり,さらにMISと連携させることで,プリプレス工程の生産性や収益性を確保できる体制を作ることが原点回帰になろう。
(月刊プリンターズサークル2006年1月号「新春特別調査レポート」より)

2006/01/05 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会