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「強力なリーダー」と「普通の人」とを組み合わせて変化の先頭に

社団法人日本印刷技術協会 副会長 島袋 徹

明けましておめでとうございます。

長く日本経済を覆っていた暗雲がやっと取り払われ、少々明るい日差しが感じられるなかで平成18年を迎えました。大半の事業会社が前年より多い収益を確保するようになり、不況に喘いだ銀行も不良債権を大幅に減らしてバブル期を上回る水準にまで収益率を改善しました。日本経済がこのまま順調に推移して、我々印刷業界にも好影響が及ぶのを期待するところです。しかし、少子高齢化が進むなかで、国と地方の借金は770兆円もあるし、預金金利は相変わらずほぼ0%に抑えられていて、預金者が景気回復の恩恵に一切浴さない状況が続いています。これからの日本経済は解決すべき課題が山積しており、景気の波が大きく上下することは間違いありません。

印刷業界を取巻く経営環境は相変わらず厳しく、日本全体の経済環境が好転しても、それがストレートに印刷業界を潤すことにはなりません。何故なら情報伝達がIT化するなかで情報流通の枠組みが変化しているからです。この変化に対応しなければ厳しい市場の競争に勝てません。

P.F.ドラッカーは「変化はコントロールできない。変化の先頭に立つことだけである。今日のような乱気流の時代にあっては、変化が常態である。変化はリスクに満ち、楽ではない。悪戦苦闘を強いられる。だが、変化の先頭に立たないかぎり、生き残ることはできない」(『ドラッカー 365の金言』 P.F.ドラッカー著、ジョゼフ・A・マチャレロ編、上田惇生訳、ダイヤモンド社)と述べています。将に金言、名言であると思います。

JAGATではPAGE2006で「メディアを活かす ビジネスコーディネーション」のキャッチフレーズを掲げて、印刷業界がどのように変化に対応すればよいかを提案、展示をします。変化の先頭に立つために印刷業界の皆さんがPAGE2006を真剣に利用されることを期待します。

さて、変化の先頭に立って新しい経営環境を切り開いていくには人材の育成が大切であります。なかでもリーダーとなり得る人材の育成が急務であると言われます。業務処理能力、状況判断力に優れ、意欲、使命感、責任感を備えたリーダーが渇望されています。確かに優れたリーダーがいなければ変化の先頭に立つことは出来ません。しかし、強力なリーダーさえ確保できれば万事が解決されるかというと、けっしてそうではありません。強力なリーダーが持てる力を十分に発揮して成果を出すには、そのリーダーを支える多数の「普通の人」が必要です。変化の先頭に立つにはリーダーだけではなく「普通の人」が成否の鍵を握っています。それでは「普通の人」が厳しい現状を認識して、次々と新しいことを提案し、それに兆戦することを期待して指導、教育すれば全員がリーダーのようになって活躍するでしょうか。残念ですがそのようにはなりません。リーダーになり得ないから「普通の人」なのです。さらに、その「普通の人」が多数いることで企業が存続し得ているという現実があります。

企業は常に市場の変化に晒されています。立ち止まることは許されません。リーダーは自発的に状況を判断して行動に移せます。一方、「普通の人」は必ずしも同じようにはいきません。だからといって企業に所属する「普通の人」を立ち止まったままに置いておく訳には参りません。それでは「普通の人」を叱咤激励して目標へと駆りたてる方法がありますが、あまり誉められるものではありません。

最も合理的な方法は「普通の人」の「強み」を生かすことです。

人は誰もが個性をもった独立の存在であり、その個性が作り出す「強み」を必ずもっています。人材の育成にあたっては、その人の「強み」に焦点を合わせなければなりません。焦点が合わないまま無理やり高い目標を与えると、折角の指導、教育が空回りして逆効果になりかねません。成長させようとしたことが逆にいじけさせてしまうことすらあります。

人材育成の根本は、相手を丸ごと受けとめて信頼するところにあります。そうすれば必ずその人の「強み」を見出すことができます。場合によっては、相手本人が自分の持っている「強み」に気づいてないことがあります。その際は、本人が持っている力に気づかせ、それを発揮できるようにしてあげれば良いでしょう。相手の「強み」に焦点が合っていれば、要求を厳しくしても空回りすることはありません。むしろ要求を厳しくして成長を促すべきです。

「普通の人」の「強み」を生かすには、画一的な目標提示や教育だけでは不十分で、相手の立場を配慮した個別の指導と適材適所の配置が欠かせません。その積み重ねが大勢の「普通の人」の「強み」を生かすことになり、企業を支える大きなパワーになるでしょう。

市場環境が変化している印刷業界にあって、「強力なリーダー」を育成すると同時に、「普通の人」の「強み」を引き出すことで全社一丸となったパワーで変化の先頭に立って欲しいと願います。

2006/01/03 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会