本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

何の兆候か? フリーペーパーの急増

インターネットが普及して旧来の紙やTVなどが直接打撃を受けるような例は、一見すると殆どなかったのだが、インターネット以前と以降で何かが確実に変わっている。それが見える形で現れだした。最も有名なのは、若者が携帯に支出するようになって、コミックの部数が減ったことだが、これは「風が吹けば桶屋が儲かる」にも似た話で、他のメディアを考える参考にはなり難い。メディア一般に共通していることは、情報はタダという風潮が強くなっていることだ。これは民放TVがコマーシャルを柱に経営して無料であるのとも、似ているようで違っている。

放送は視聴者からすると、あくまで受身で接する習慣がついていて、CATVや衛星放送で多チャンネル化しても積極的にチャンネル選びをするようになったとは思えない。インターネット上にはすでに無料の膨大な情報があり、それを見るための、リンク、検索エンジン、ポータルサイト、RSS・トラックバックなど、探索する手段も同時に発達してきた。TVの多チャンネル化は、自分の欲しいものを探す手段を生み出してこなかったともいえる。利用者が受身から主体的な関わりに変わるための仕組みを生み出した点がデジタルメディアのアドバンテージになり、今後セマンティックWEBの進化が進めば、もっと劇的な変化が起こる可能性がある。

インターネット以前と以降の差というのは、メディアが利用者の意識に、より迫るようになったということかもしれない。従来のマスメディアは様々な人の要望を足して割って架空の平均人物像を作り上げてターゲットとするしかなかったのかもしれないが、それでは読む人にも広告を出す側でも強いフィット感は得られないものとなる。最近は情報誌のフリーペーパー化も盛んで、従来なら発行部数を競っていたようなものが、細かくターゲット分けをして内容も絞って提供する傾向がある。

フリーペーパーはR25のように人気が出ても、予定部数以上に発行すると印刷代で赤字になってしまうので、ターゲット層にはゆきわたり、その他には流れにくい配布方法を工夫しなければならない。要するにメディアの側が読者を選別しているのである。だから現在有料紙誌の何もかもがフリーペーパー化するものでもなく、並存はするのだろうが、フリーペーパーによって、「タダでも内容はよい」というスタイルができると、内容的に優れていない生煮えの有料紙誌や、優れていても高すぎる有料紙誌は負けていくところが出てきた。

印刷会社でもタウン誌を発行するところは多くあったが、地元の広告がフリーペーパーの方に流れてしまうと既存紙媒体のビジネスモデルの再考が必要になる。マスコミでは総合雑誌が苦戦しているが、大部数の新聞の分野にもフリーペーパー化の波は押し寄せている。といっても海外の話だが、近年はその台風の中心的メトロ紙が韓国、香港にまで及んできている。メトロは10年前にスウェーデンで始まったタブロイド日刊新聞で、今では世界58都市で発行され、トータル部数は700万部になっているという。広告主は都市生活者向けにグローバルなビジネスをしているところで、日本の読売新聞、朝日新聞を「全国紙」というのなら、メトロは「世界紙」とでもいえるかもしれない。こういう点もインターネット的である。

世界の新聞界はインターネットの影響を受けて新聞の未来に関して侃侃諤諤なところに、全くビジネスモデルの異なるメトロへの対応も必要で大揺れの時代を迎えている。先進国では新聞が読まれなくなる傾向が出てきて、近未来の新聞死亡説を唱える人もあれば、ネットとの共存を謳う人もいれば、あの手この手の読者奪回大作戦もある。アメリカの新聞は早くからWEBには進出しており、WEBでの広告モデルも築いてきた。新聞のWEBへの進出の理由は、ニュースを調べるのはWEBの方が便利だからである。例えばある法律の成否に関して賛否激論が戦わされていたとすると、当然ながら新聞ではそれらの内容を全部は伝えきれないが、オンライン新聞ならば、詳細はニュースソースにリンクを貼ればよいだけだから、深く読むことができる。
では紙の新聞はどんな意味があるのか。それはどこへでも持ち運びできるニュースの索引であるという点だ。TVの番組を見るために新聞を買う人もいるだろうが、その日のメインニュースの備忘録的なものが新聞になるということだ。このためには扱いやすい小型の方がいいのだという。ニュースの詳細はオンラインで得られるので、それはニュースの保存も兼ねていて新聞の切り抜きもいらない。メトロをきっかけにインターネット時代の新聞のあり方が真剣に考えられるようになった。

今後フリーペーパーは利用者に経済メリット故に支持されて伸びていき、マスコミの一角を占め、地域・生活メディアとしては主要な部分を占めるだろう。そしてフリーペーパーは既存メディアのビジネスモデルをブチ壊す役割を担うが、ではフリーペーパー自体のビジネスモデルは如何にして成り立つのか? これから考えるべき事は多い。
既存のコンテンツ・クリエータ、コンテンツ・ホルダーは、デジタルメディアへの進出をしなければ存在感を弱めてしまうこと、デジタルと紙メディアとのシナジーをどうしていくかを考えること、そしてインターネット時代において再び紙媒体のよい点は何のかを捉え、新しいビジネスモデルの着地点を求めていかねばならない。PAGE2006基調講演は、現在のパブリッシングビジネスモデルがどうなっているのかを解きほぐして、IT時代にふさわしい要素を見いだし、新たなビジョンを探る。出版とコンテンツビジネス戦略を考えておられる方は、お見逃しなく!!

2005/12/30 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会