本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

画像プロの腕のみせどころ : デジタルアーカイブ

かつてスキャナの最高の仕事は印刷のためだった。デジタルデータを扱うメディアが質量ともに充実するにしたがって、最高の画像プロの仕事は社会的な価値の高い文化財のアーカイブへと広がりつつある。文化財情報のデジタル化することで、文化財の保護とともに、文化財の社会的な認識を向上させることができる。

 文化資源をデジタルデータで保存する場合、デジタルアーカイブという言葉が使われる。形ある美術品や文化財は、時間とともに老朽化する。展覧会などがなければ一般の人はみることができない。これらが、デジタルデータで保管され、データベースで管理され、ネットワークで情報が共有ができるようになれば、いつでもだれでも閲覧することも可能である。
 社会的意味が強いデジタルアーカイブだが、今、美術館・博物館だけでなく、企業からも注目を集め、さまざまな取り組みが行われている。

美術館・博物館の取り組み

 デジタルアーカイブは、アメリカのコルビスが美術品のデジタル化権を買い集めているという話題をきっかけに、フランスをはじめヨーロッパなど世界中でデジタルアーカイブに対する取り組みが始まった。
 日本では民族学博物館が1970年代にビデオ・オン・デマンドを導入するなど、比較的早い時期に博物館の情報化に取り組んでいる。1997年には、東京大学が敷地内(本郷)に「東京大学総合研究博物館」をつくり、東京大学が所蔵する600万点の所蔵品のデジタルアーカイブへの取り組みを始めた。

東京国立博物館
 東京国立博物館は1999年夏、300点あまりの彫刻や染物などが保存されている法隆寺宝物館を新たに建てかえた。新しい宝物館の資料室には「法隆寺献納宝物デジタルアーカイブ」が設置され、訪れた人はほとんど全ての作品に関する情報を簡単に検索・閲覧できる。
 もともと、東京国立博物館は資料部情報管理研究室長の高見沢明雄氏を中心に、1994年ごろから所蔵品の写真をデータベース化したり、全国の博物館と美術館の収蔵品を共通に検索でるような共通索引システムの構築に取り組んできたという背景がある。
 1998年、「先導的コンテンツ市場環境整備事業」に提案したNHKエンジニアリングサービスの提案したシステムをきっかけに、東京国立博物館と大日本印刷グループ、NHKエンジニアリングという3社共同で、宝物館の資料をデジタルアーカイブするプロジェクトが開始された。
 NHKエンジニアリングサービスでは、公開期間が限られている国宝などを、いつでも見ることができる仕組みをインタラクティブなアーカイブシステムを提案した。DNPアーカイブとDNPデジタルコムを中心とした大日本印刷グループは、システムづくりをはじめ、コンテンツやデータベース構築に協力した。特に、画像アーカイブをいかに上手に見せるか、利用してもらうかといった仕組み作りに取り組んだ。
 法隆寺献納宝物デジタルアーカイブは、所蔵品保存する300点を写真にとり、スキャナでスキャンした静止画像と、回転画像、一般向け説明や専門家向け研究資料などで構成されている。新宝物館は、1階と2階の展示室をみた後、その延長で中2階の資料室に行き、検索して自由に情報をとりだすことができる。コンピュータが12台設置されているが、若い人よりはむしろ小さい子供や高齢の人のほうが熱心に利用していたという。

バーチャルリアリティで表現
 凸版印刷は高精細のバーチャルリアリティ(VR)技術を利用した、デジタルアーカイブの開発や研究を進めている。1998年にはミケランジェロの天井画で有名なシスティナ礼拝堂をVR技術で再現するアプリケーションソフトを製作した。3次元空間で表現された礼拝堂内を、ユーザが自由に動いて、壁画や天井画に近寄って見ることができる。絵が美しい上、専門家から絵の意味、キリスト教の背景などの解説が入ると、コンテンツとして非常に広がりがでてくるソフトであった。
 1999年には、唐招提寺「鑑真と東山魁夷芸術」を開発した。これも「先導的アーカイブ映像制作支援事業」のひとつである。前の作品は室内のウォークスルーだけであったが、唐招提寺は、御堂内の東山魁夷の障壁画をみるほかに、境内を散策するような感じで金堂に近づいたり、立体的な仏像を見ることができる。
 凸版印刷では、これらでVR技術やコンテンツの見せ方などのノウハウを社内につみあげ、デジタル放送にむけた電子出版事業のひとつに展開していくという。

21世紀メディアのコンテンツ

 デジタルアーカイブが進められれば、限られた場所、決められた期間にしかみることができなかった文化財などをネットワークを経由して共有することも可能である。ただしデジタルアーカイブ構想はまだ始まったばかりで、文化資産の保存・公開手段としても、ビジネスとしてもまだ確立されたものとは言えない。
 そこで、デジタルアーカイブ推進協議会(JDAA)のような機関で、様々な検討がなされている段階である。JDAAではデジタルアーカイブの普及・啓蒙、事業化の推進をめざして、デジタルアーカイブ事業のロードマップや権利問題のガイドラインを策定している。
 デジタル化、ネットワーク化により、Webや携帯電話、PDA、テレビなどコンテンツを扱うメディアが増加しており、提供するコンテンツもますます必要となる。なかでも、高齢化社会に向かう日本では、知的欲求を満足するコンテンツへのニーズは高まるとも言われている。文化財という優れたコンテンツをデジタルアーカイブすることは、文化財を持つコンテンツホルダーをはじめ、利用する企業、鑑賞する個人がそれぞれが豊かになる手段のひとつとなるかもしれない。

PAGE2000でも関連するセッションとして21世紀メディアトラックにおいて、デジタルアーカイブがある。
ここでは東京国立博物館、大日本印刷、凸版印刷など、美術品や文化財のアーカイブでは最先端にたずさわる方を招き、公共性とビジネスという両方の観点から議論する。
またクロスメディアトラックで、コンテンツ管理、サーバの仕組み、デジタルアセッツの問題を取り上げる。

関連情報がここにあります。

2000/01/19 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会